第7章・中編『ギャル、初めて“誰かのための味”を作るき(中編)』
放課後の「こはる」
アリスは三角巾を結びながら、いつもよりずっと緊張した顔をしていた。
壮真はそんなアリスを横目で見て、少しだけ笑った。
「そんな顔すんな。ハンバーグは“気持ち”で味が変わる料理や」
「気持ちで……?うち……今、緊張で死にそうなが……」
「死なん。ほら、始めるぞ」
壮真が玉ねぎを取り出す。
「玉ねぎは、通常は炒めて入れる。でも今回はお手軽に生で入れる」
アリスは思わず顔を上げた。
「なんで生なが?うち玉ねぎって炒めるもんやと思っちょった」
「玉ねぎは炒めたらコクが出て香りがいい、生で入れたらさっぱりでジューシーになる。ハンバーグは玉ねぎ一つで味が代るきね。」
「そうながや!知らんかった」
アリスは真剣に頷いた。
「じゃあ、玉ねぎをみじん切りにしてみいや。ハンバーグに入れるときはかなり小さくして入れるきね。」
壮真が言う。
「できるろうか?」
アリスが心配そうに言う。
「大丈夫!とにかくも細かく知るだけや無心で包丁を動かせ!」
「うん!うち頑張るき!」
トントントンとリズムはおかしいが真剣なアリスの表情を見て壮真は微笑んだ。
「できたーーー!」
しばらくしてアリスが叫んだ。出来上がった玉ねぎを壮真に見せる。
「どうかな?」
心配そうに壮真を覗くアリス
「よし、上出来や。いい感じに細かくなっちゅう。次はひき肉や!」
壮真がボウルにひき肉を入れると、アリスは一歩後ずさった。
「……ひき肉って……なんか……生々しい……」
「まあ、元は生き物やきね」
「やめてその事実言うの!!!心が痛いき!!!」
壮真はため息をつきながら、アリスの手をそっと持った。
「ほら、触れ。料理は“触る”ところから始まる」
アリスは震える手でひき肉に触れた。
「……ひぃ……冷たい……!なんか……ぷにぷにしゆう……!」
「それでえい。さっきの玉ねぎと調味料を入れて。手の温度で脂が溶けすぎんように、手早く混ぜるんや」
アリスは恐る恐る、ひき肉をほ混ぜ始めた。
「なんか泥んこ遊びしゆうみたいやね。楽しい!」
「よく混ぜたら次は成形や!手に油をつけて引っ付かんようにするんや。」
アリスは手に油をつけ、ひき肉を丸め始めた。
「……うち……こんなに丁寧に料理したことない……」
壮真は横で見ながら言った。
「誰かのために作ると、自然と丁寧になるもんや」
アリスは胸が熱くなった。
「そっか、これが誰かに食べてもらうための料理なんやね。」
フライパンに油をひき、アリスはそっとハンバーグを置いた。
じゅわぁぁぁぁ……!
アリスはビクッとした。
「ひぃっ!なんか……怒られゆうみたいな音する……!」
「怒ってない。“焼けゆう音”や」
壮真は火加減を調整しながら言った。
「ハンバーグは“音”で分かる。最初は強め、焼き色ついたら弱火で蒸し焼きや」
アリスは真剣に耳を澄ませた。
じゅわ……じゅわぁ……
「……なんか……音が優しくなった……?」
「それが“火が通り始めた”合図や」
焼き上がったハンバーグを取り出し、フライパンに残った肉汁でソースを作る。
壮真が言う。
「ソースは“料理の人格”や。味を決める最後の一押しやき」
アリスは真剣に混ぜながら言った。
「……うち……ミナとユズに……美味しいって言ってほしい……」
壮真は小さく笑った。
「なら、心込めろ」
アリスは頷き、ソースを丁寧に仕上げた。
アリスは焼き上がったハンバーグを一口食べた。
サクッ……じゅわぁ……
肉汁が広がり、玉ねぎのジューシーな甘さが広がる。
アリスは目を見開いた。
「……え……なにこれ……うち……こんなん作れたが……?」
壮真は腕を組んで言った。
「お前が作ったんや。ちゃんと“誰かのための味”になっちゅう」
アリスの目に涙が浮かんだ。
「……うち……ミナとユズに食べてもらいたい……この味……ちゃんと届けたい……!」
「何回でも作れるように練習やな」
「うん!!!」




