第7章・前編『ギャル、初めて“誰かのために”作るき(前編)』
翌朝。
アリスはいつもより早く起きて、こはるの厨房で作った“鶏と大根の煮物”をお弁当に詰めていた。
「……ふふ……お弁当って……なんか……うちが作ったってだけで可愛い……」
そう呟きながら学校へ向かった。
お昼休みに入ると、アリスのギャル友・ミナとユズがすぐに駆け寄ってきた。
ミナがアリスの手元を見て叫んだ。
「ちょ、アリス!そのお弁当……自作なが!?」
ユズも目を丸くする。
「えっ、アリスが!?料理とか絶対せんタイプやと思っちょったに……!」
アリスは照れながらお弁当箱を開けた。
中には
・照りのある大根ふっくらした鶏肉
・彩りのほうれん草
・練習の卵焼き
ミナとユズは同時に叫んだ。
「「えぐっ……!見た目プロやん!!!」」
アリスは顔を真っ赤にした。
「や、やめてや……そんな褒められたら……うち……照れるき……」
ミナが身を乗り出し、箸を伸ばしかけた。
「ちょっと食べ──」
その瞬間。
アリスがバッと手を伸ばし、ミナの箸を止めて叫んだ。
「ま、待ってぇぇぇぇぇ!!!まだ練習中やき食べたらいかんき!!!まだ他の人に食べてもらえるばあ練習してないき。」
ミナは一瞬ぽかんとしたあと──ニヤァッと笑った。
「……アリス……なんか、料理人みたいやん?」
ユズも笑いながら頷く。
「確かに。“まだ未完成やき食べたらいかん”って……プロの言い方やん!」
アリスは胸を押さえながら息を整えた。
「……ご、ごめん……うち……まだ練習しゆうき……ちゃんと完成したやつ……初めて食べてもらうときに味わってほしいがよ……」
ミナは優しく肩を叩いた。
「分かった分かった。今日は見た目だけにしちょくき」
ユズも笑う。
「ほんならアリス、次は“完成品”作ってきてよ。うちら、楽しみにしちゅうき!」
アリスは照れながらも、どこか誇らしげに頷いた。
ミナがふと真顔になった。
「ほんならさ……アリス……次、お弁当、うちらにも作ってや?」
アリスは固まった。
「……え?」
ユズが続ける。
「うち、ハンバーグ食べたい!アリスの手作りで!」
ミナも勢いよく頷く。
「うちも!アリスの料理、ちゃんと味わいたいき!」
アリスは一瞬嬉しそうに笑ったが──すぐに不安そうに目を伏せた。
「……うちが……誰かに食べさせる……?」
ミナは首をかしげる。
「え? 嫌なが?」
アリスは慌てて首を振った。
「嫌やない!むしろ嬉しい。けど……」
胸に手を当て、小さく震えながら言った。
「……うち……初めて“他人に食べさせる”がやき、なんか怖い。もし、まずかったらどうしようって……」
ユズは優しく笑った。
「アリスの料理がまずいわけないやん」
ミナも頷く。
「うちら、アリスの成長見たいだけやき」
アリスは少しだけ笑った。
「……ありがとう。でも、やっぱり、うち、怖いき。壮真に相談する!」
こはるに戻ったアリスは、包丁を研いでいる壮真に声をかけた。
「……壮真……うち、今日、初めて“依頼”された……」
壮真は手を止めた。
「依頼?」
「ミナとユズが、うちの料理食べたいって、お弁当でハンバーグ作ってって……」
壮真は少し驚いたように目を見開いた。
「ほう。そりゃあ!すごいやん」
アリスは唇を噛んだ。
「……でも……うち……怖い……初めて“他人に食べさせる”がやき……もし……まずかったら……嫌われたら……って……」
壮真はアリスの頭を軽くぽんと叩いた。
「アホか」
「ひどっ!」
壮真は優しい声で続けた。
「お前の料理は、“誰かのために作りたい”って気持ちがある。それが一番大事や。味は俺が見ちゃるき、心配せんでえい」
アリスの目が潤んだ。
「うん!!!壮真!うち、頑張るき!!友達に美味しいって言ってもらいたい!」
壮真は小さく笑った。
「ほんなら、明日は“ハンバーグ”やな」
アリスは拳を握った。
「うん!うち、絶対成功させるき!」




