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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
6章 王立ヴィクリィール学園編 ― 御前試合

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第99話 本物か【軍団長ガライアス視点】 閑話

「しばし、待て」


ペンの音だけがしばらく続く。


ガライアスは、宰相の机の端ではなく、

その向こうの窓の外を見ていた。


やがて、一枚を書き終えたのか、宰相がようやく顔を上げる。


「——まず、よくやった」


淡々とした声。


「王都駐屯軍の威厳は保たれた。

 陛下もご満足そうだった」


「はあ」


「貴族どもも、軍は必要だ、と。

 学園側も、軍と渡り合える学生を、と息巻いている」


「つまり——」


ペンを置く音が、大きく響く。


「今回の御前試合は、非常に有意義な結果になった」


「軍の予算を拡張する。

 演習場の増設、新装備の試験導入——」


「はあ」


「……聞いているのか?」


ガライアスは、視線を一度だけ宰相に向けた。

視界の端で、あの瞬間が蘇る。


 ◇


——まだ、間合いだ。


横目が、少年をかすめる。


間髪入れず、また跳んだ。

ぬかるみの中、崩れていない一点へと。


——あいつ、選んでやがる。


「それで……どこまで持つ」


ぬかるみを抜けきる。

だが、踏み込みが、重くなる。


呼吸が揺れ——

膝の力が抜けかけて——


アレンの足が、一瞬だけもつれかける。

いつもの踏み込み前の癖と、違う。


「——おい」


思わず声が出る。


スタンドのどこかでも、同じ瞬間に低い声。


「するな」


そんな声が確かに聞こえた気がした。


誰かが息を飲む気配。

それでも、少年は前に出る。


——行くのかよ、そこで。


一歩、強く踏み出す。

まだ間に合う、止める側として。


右足に火をつけた、最後の一歩。

全部をそこへ乗せる。


——やめろ。


胸の内で声が出る。


あのバカが。


膝の軌道。

足首のねじれ。

受け止めきれない荷重。


クソ、間に合わ——


骨の内側で鳴るような、一瞬きしむ音。

少年のガクンと、折れた。

膝から、腰から、肩から。


——止まった、か。


その瞬間、目につく右足首。

まだ、火は消えていない。


意識は落ちているのに、

そこだけが、前へ行こうとしている。


——クソ。


遅れて、体を横から滑り込ませる。

旗ごと抱き込みながら、

右足首に流れ続ける線ごと、叩き切るつもりで肩をぶつけた。


勢いが、つきすぎた……。


倒れかけた身体が後方に飛んだ。

遅れて、観客席が爆ぜる。


「団長だ!」


「止めた、今の見たか!」


耳障りな歓声。

喉の奥がひりつく。

副団長が駆けてくる。


「団長、ナイスタックルです!」


「黙れ」


——先に、壊れただけだ。


「……本物、だったんですか?」


妙に静かな顔。

不自然にねじれた右足。

かすかにこもる熱。

ガライアスは、少年の姿を見ていた。


——まだ、行こうとしてやがる。


「……団長?」


副団長が小声になる。


「やっぱり、兵に欲しくなりました?」


「いらねえよ」


即答する。

視線は、担架の行き先をいつまでも追っていた。



 ◇


「——ガライアス」


宰相の声が、意識を断ち切る。


「どこか気に入らんか」


「いえ、なにも」


宰相はすでに次の書類へ視線を落としている。


「ならばいい。それで、あの少年は——」


「……失礼します」


これ以上、話す気はなれなかった。


扉を押し開ける。

息を一つ吐く。


——相変わらず、きれいすぎる。


ガライアスは、

何事もなかったかのような顔で歩き出した。

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