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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
6章 王立ヴィクリィール学園編 ― 御前試合

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第100話 遠回り【クラリス視点】 閑話

ざわめきが、少しうるさかった。

あちこちで笑い声。グラスの重なる音。


「ねえ、見て。すごい人……!」


「ほんと。こんなに集まるものなのね」


視線が流れる。


「あそこ、第一軍団じゃない?」


赤い軍旗の下。

鎧姿が並んでいる。


「えっ、ほんと? 団長ってあの人?」


「陛下もいらしてるんですって」


きょろきょろと視線が揺れる。


「クラリスは間近で見ていたんでしょ?」


ふと向けられる問い。

ほんの少しだけ目を向ける。


「……ええ」


「でも結局、軍の勝ちですのね」


軽い調子が嫌になる。


「クラリス」


低い声。

ぴたり、と音が止まる。


「……兄さま」


すぐ背後に、カイが立っていた。


「陛下の御前だ。声を慎め」


淡々とした声。


「「も、申し訳ありません」」


令嬢達が、一列に縮こまる。


「学園の代表者として、立っているかを忘れるな」


クラリスも背筋を伸ばす。

前を向いたまま、小さく息を整えた。



 ◇


王が立ち上がる。


「今回の御前試合において、王都駐屯軍はよく職務を果たした。

 そして——若き者たちも」


ざわ、と広間が揺れる。


「学生たちにも、労いを」


「ルザア寮、カイ・レイヴァルト」


まっすぐ前へ出る背中。

次々に名が呼ばれていく


空白ができる。


「……」


指先が、わずかに止まる。


「最後、団長に止められたやつか」


「まだ目を覚まさないらしいぞ」


「なんか、絶対安静で面会も制限されてるらしいぞ」


宰相が声をすぐ差し込む。


「一名、現在軽く療養中の者もおりますが……

学生としては、十分な働きでした」


拍手が、揃って広がる。

一瞬遅れて、音が混ざる。


やがて、場がほどけた。

笑い声が戻り、噂が混ざる。


「あと一歩だったわよね?」


「でも、素敵でしたわ〜」


——違う。


胸の奥が、熱い。

指先が、わずかにズレる。

グラスを、そっと静かに置く。


「——失礼しますわ」


 ◇



最初は早歩きだった。

人混みを抜けるたびに、

歩幅が少しずつ大きくなる。


踏みそうになり、裾を持ち上げる。


「まあっ?」


「どうされまして?」


視線が刺さる。

すべて、横目に流す。


——走っては、だめ。


裾を持つ手に、少し力が入る。

鼓動が速い。

耳の奥で、音がうるさい。


それでも、足は止めない。


回廊へ抜ける。

白い扉が並ぶ。

ノックしようとして、止まる。


「……アレン」


灯りに透ける長い耳が、少し揺れた。

柔らかな声が、そこに寄り添う。


——違う。


扉に触れていた指が、止まる。


 ◇


「長かったな」


背後からの声。


「ええ」


振り返らずに答える。


「少し、遠回りしてました」


息が詰まる。

顔が、わずかに上を向いた。


——違う。


「……そうか」


クラリスは、遠い笑い声のほうへ顔を向ける。


「……行きましょう、兄さま」


そのまま、ゆっくりと歩き出した。

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