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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
6章 王立ヴィクリィール学園編 ― 御前試合

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第94話 届く形

講義棟の一室。

長机を囲むように、四つの寮の顔が並ぶ。


浅く腰掛けるもの。深いもの。姿勢を正すもの。

椅子が、選ばれたものを受け止める。


「ルールは旗戦と同じ」


ローガンの低い声が落ちる。


「ただ、王都第一軍団の演習場。それが、お前らの霧台だ」


椅子が、迷うようにかすかに揺れる。


「学園が見られる。恥は晒すな」


それだけ言うと、ローガンは踵を返す。


「細けえことはいい。今決めるのは——」


扉の前で振り向く。


「——どうやって勝つか、だ」



 ◇


しばらく、誰も口を開かなかった。

椅子のきしむ音だけが、やけに大きい。


「——簡単じゃない」


沈黙を割ったのは、ライラだった。


「来たやつ全部、ぶっ飛ばせばいいのよ」


「真正面、ねえ」


低く笑ったのは、バルケのガルドンだった。

腕を組んだまま、椅子にもたれている。


「嫌いじゃねえ」


その隣で、ロウガが短く言う。


「……俺も自信がある」


ライラの顔が輝いた。


「ほら!」


ばしん、とロウガの背を何度も叩く。


「分かってるじゃない! そういうのでいいのよ!」


「痛っ……」


その声を無視して、

レイクが深くため息をつく。


「その正面ならってやつで、どうなったっけ?」


ライラの動きが止まる。


「……何よ」


「姉さん、その前に横から崩されてたよね」


「う」


「バルケも。足元やられてた」


ガルドンが鼻を鳴らす。


「……言うな」


レイクは肩をすくめた。


「軍がさ、はい、どうぞって言わないよ」


ライラは唇を尖らせ、椅子へ座り直した。


「……小賢しいのよ、あんたは」


 ◇


「そもそも」


静かな声が、場に落ちる。

ルザア寮のカイ・レイヴァルト。


「こちらの手は、すでに見られている」


全員の視線が向く。


「あの一歩も、な」


部屋の空気が、わずかに固まる。

端の席に座るアレンは、黙ったまま視線を落としている。

ライラが肘をついた。


「じゃあ何。私たち丸裸ってこと?」


「そうなるだろう」


「あんたの、そのスカした頭ン中も?」


「そのとおりだ」


その冷たい顔には棘が刺さらない。

ライラが身を乗り出す。


「姉さん、噛みつかない」


レイクが慌てて袖を引いた。



 ◇


「軍は……強い」


今度はロイだった。

短い一言が突き刺さる。


「でかいし、重い」


ガルドンも大きくうなずく。

言葉がより重なる。


「そもそも、学生がこなせる訓練してねえ」


ロウガも短く続けた。


ライラの額がどんどん机に向かう。

ゴン、と音がした。


「なんなの、ここの男ども……」


顔だけ上げる。


「やる前から弱気すぎるでしょ」


「現実見てるだけだよ、姉さん」


レイクが即答する。


「じゃあ、五倍!」


「なにが?」


「努力よ!でなきゃ、十倍!」


「雑すぎるんだよ、発想が!」


誰かの容赦ないツッコミ。

笑えない否定だった。

窓の外。兵の号令が遠く響いていく。



 ◇



「騒ぐのはそこまでにしろ」


トラル寮のエース。

ルークの一言で場が静まる。


「普通にやれば……分が悪い」


「だったらどうしろっていうのよ!」


ライラの椅子が後ろへ跳ねた。

ルークを睨みつける。


「私は、勝つ話をしに来たの」


吐き捨てる。


「『言い訳会』なら、付き合わない!」


乱暴に扉が開く。

そのまま、叩きつけるように閉めた。


廊下の向こうで、荒れる音が響く。

カイが細く息を吐いた。


「……言いたいことはわかる」


重い沈黙が落ちる。


ルークが机を指先で二度叩いた。


「今日はその頭、一旦持ち帰れ」


全員を見る。


「——なんでもいい、軍に届く形、だ」


視線が、部屋の端をかすめる。

顔を伏せたままの影。

すぐにルークは、正面に向き直る。


「また、集まるぞ」


椅子が一斉に引かれる音。

小さな影は、少し揺れた。


 ◇


その日の夕方。ルザア寮サロン。


パタンと本を閉じる音。

視線を向けると、カイが窓際を見つめていた。


「……兄さま?」


カイの顔が、窓に映る。

その口がわずかにしぼむのを見た。


「決め手がない」


短い返事だった。


クラリスが目を瞬く。


「御前試合の?」


「トラルの地形、バルケの壁、サンラの突破、ルザアの隊列」


そこで一度、言葉を切る。


「その先が、いる」


「兄さまでも、難しいのですの?」


カイが、少しだけ笑う。


「小細工など通用しない相手だ」


カイが、また本を開き直す。

クラリスは、しばらくその横顔を見ていた。


決め手がない……


「兄さま」


「なんだ」


「——でしたら、わたくしも、できることをいたしますわ」


カイは少しだけ目を細める。


「そうか」


窓には、カイと立ち上がる自分の姿が映っていた。


 ◇


「会長、本日はどちらに?」


ルザア棟の玄関ホール。

いつもの顔ぶれが、目を輝かせる。


「今日は——重大な任務がありますの」


空気が、一瞬張る。


「まさか、あの方の……?」


一斉に、手が上がる。


「ご一緒させてください!」


クラリスは、満足げにうなずく。


「いいですわ。参りましょう」


 ◇


「副団長」


槍を磨く兵士が、小声になる。


「さっきから、お嬢さん方がうろうろと……」


「御前試合前だ」


「ですが——」


「仕事に戻れ」


冷たく返す。


だが、副団長の口元だけが笑っていた。


 ◇


「お嬢さん方」


何人かの肩が、跳ねる。

柔らかな声の先には、副団長が立っていた。


「ここは、見学自由ですよ」


クラリスが一歩前へ出る。


「わたくしたちは、その……」


視線が演習場へ流れる。

副団長は、すぐ言い直す。


「下見ですね、観覧席の」


まつ毛がぴくりと揺れる。


「……そ、そうですわ」


「でしたら、あちらを」


石造りの高台を指す。


「日陰で、風も通ります」


「……ご厚意、感謝いたしますわ」



高台から見下ろす演習場。


整列。号令。走り込み。

誰も遅れない。誰も乱れない。

思わず全員が見とれていた。


「……怖いですわ」


小さな声が漏れる。

クラリスは黙ったまま見つめる。


正面からぶつかれば、飲み込まれる。

それでも。


「会長?」


隣の少女が顔を向ける。


浮かぶのは、まだここにいない人。


「——ちゃんと見えていますわ」


夕風の中、軍靴の音が地を鳴らす。

クラリスだけは、ずっと目を離さなかった。




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