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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
6章 王立ヴィクリィール学園編 ― 御前試合

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第95話 未完成

「……ふむ」


地形研究会。

かすかに鈍く光るものに、一点の視線が刺さる。


「子どもだましに見えるが——」


軽く指で弾く。乾いた音が返る。

オルフェンは、陶板柵を手に取っていた。


「……悪くはない」


「きた……!」


ノエルの肩から、一気に力が抜けた。


「今の、お墨付きですよね!」


「都合よく、決めるな」


即座に言い切る。


「使い方次第では、だ」


ノエルは、隣のアレンを見る。


「じゃあ、実際に並べてみようよ」


レイクが顔を出した。


「御前試合組も呼ぼうよ。どうせ皆、気になってる」


ノエルが紙を振る。


「すでに場所だけは、借りてるんです」


伺いに来ていたルーク。

壁にもたれながら、小さくうなずく。


「第二回会議は、外でやる」


 ◇


演習場。

陶板柵が次々と打ち込まれていく。

低い列が、土の上を走った。


「へえ。これが例の? なんか、見た目地味……」


ライラがしゃがみ込んで見る。


「それでいいんだよ」


ノエルは、胸を張った。


「見えてからが、嫌なやつだからね」


「最初は、もちろん私よね!」


ライラは足を軽く振った。


「でしょうね」


レイクが、小さくため息をついた。


 ◇


「いっくわよー!」


ライラが一直線に踏み込む。


「っ……!」


そのまま柵へ突っ込む。

陶板は揺れず、ライラだけが止まった。


「なにこれ、腹立つ!」


「いいな。嫌がらせとして満点だ」


ガルドンが腕を組んで笑う。


「正面の圧、これなら一段軽くなる」


ロイもうなずく。


「姉さん、他の人の動きも見ようよ」


レイクの言葉に、ロウガが前へ出る。

無言で構える。

だが、すぐには踏み込まない。


列を見てる。

間隔。角度。端の空き。


一歩、横へずれて走り出す。

柵の外へふくらみ、端から抜ける。

だが回り込んだぶん、遅れる。


「どうだ」


ガルドンが、声をかける。


「抜けられます」


ロウガは短く答えた。


「でも、めちゃくちゃ嫌です」


その一言に、何人かが笑った。


「一回、迷います」


ルークがうなずく。


「十分だ」


オルフェンは演習場の端から、無言でその様子を見ていた。



 ◇


「これ、うざい!」


ライラは、まだ柵の周りを駆けていた。

跳ぶ。避ける。もう一回戻る。

転びながら、嬉しそうに叫んでいる。


「いいな」


ガルドンが、腕を組んで眺めている。


「ただ、この広さ、全部は覆えないな」


ロイが、ボソリとつぶやく。


「寄せるなら、中央だ」


カイが、柵の列の先を見て言う。


それでも——

あと一手が足りない。

声に出さなくても、誰もが思う。


その時、一歩進み出る影。

視線が、自然と集まる。


「アレン。なにかあるのか?」


ルークが問う。


「まだ、可能性だけ……」


「なら、少し通ってみろ」


小さなうなずき。アレンが柵の前に立った。

オルフェンの視線が、そこで初めて止まった。


 ◇


黒く光った薄い板。

並んだその先には、仮の旗。


一回だけ、だ。


右足首に、細い線を落とす。

摩核から、短く鋭い一撃。

皮膚のすぐ下で、針金のような熱が走った。


踏み出す。

柵の塊の間、狙って一歩。

世界が、一瞬だけ狭くなる。


「っ——」


気づけば、一列目と二列目をまとめて越えていた。

三列目の手前で、膝を少し抜き、速度を自然に落とす。


最後の陶板を軽く蹴り、仮の旗に指先を触れた。


「……」


レイクが、ぽかんと口を開ける。


「今の、見えた?」


「見えなかった」


ノエルが即答する。


「一瞬だけ、消えてたみたい」


 ◇


オルフェンは目を細めた。

息が漏れる。


——やはり、これか。


騎士科の入学試験。

あのとき、砂塵の向こうで見えたもの。


「……違うな」


「先生?」


ノエルがそっと覗き込む。


「ど、どうですか」


オルフェンは、柵と少年から視線を外した


「旗戦なら、十分だろう。

 ……いちいち聞くな」


「十分、出ました!」


ノエルがうれしそうに拳を握る。


「旗戦なら、って付いてたけどね」


レイクが、小声で突っ込んだ。


「すぐに分かる。明日にはな」


胸の奥では……

問いかけていた。


——それで、お前は、どこまで行くつもりなのか。



 ◇


決戦前夜。

陶板柵。


ある者には——並べられた。

ある者には——眺められた。

ある者には——粉々にされた。


想いがそこにこもる。


が、山積みになった陶板柵の裏で——

一人、隠れるように使う者。


……熱い


かすかな脈打ち。


「アレン」


びくりと肩が跳ねる。

右足首への意識をすぐに手放す。


「そうやって——」


ルークが、石段の端に腰を下ろす。


見られた?


体が固まる。


「よく、むにゅむにゅ体操してたな」


「や、やめてください」


ため息が漏れる。


「あれ、ミーナもお気に入りだったぞ」


「……ハハ」


二人とも、黙って庭を見ている。


「明日」


ルークがぽつりと口を開く。


「お前は……やっぱり無茶をする」


「そんなこと——」


返す言葉を、夜空がすっと吸い込む。


「自分で選べ」


右足首を擦ると、熱はまだ残っていた。

——それでも


ルークが静かに立ち上がる。

立ち去る背中が、やがて小さくなる。

その足音だけが、じんじんと響いた。



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