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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
6章 王立ヴィクリィール学園編 ― 御前試合

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第93話 顧問

研究棟の一室。

昼だというのに、窓は半分だけしか開いていない。


山積みの紙が、今にも崩れそうに傾いている。

机の上でペン先が走る。止まらない。


——魔力線図の新説


「……これで、ようやく形になる」


一枚、また一枚。


ぱさり。


手を止まる。落ちた紙に視線が向く。

見覚えがあった。


(障害物レースの魔力線の模写)


……なぜ、これが。


手に取り、しばらく眺める。

そこへ、ドアが突然叩かれた。


「先生、今、お時間よろしいでしょうか」


反射的に、紙を裏返す。


「見て分からんのか。忙しい」


それでも、若手講師はそろりと入ってくる。


「申し訳ありません。旗戦の件で……」


「興味ない」


即答する。


「言っているだろ。私は毎年、見にも行かん」


「存じてます。その上で、どうしても先生にしか——」


面倒だ。これだから教師は。


「手短にしろ」


「はい。トラル寮の一年、アレン・ハルトシュタインのことです」


またか。


「騎士科と魔法科、両方から反発が出ているんです。

 偽物だ、ペテンだと……」


眉が、釣り上がる。


「決まっているだろう。

 ——偽物で、ペテンだ。」


「そう……ですか」


若手講師の肩が、かすかに落ちた。


「では、そのように。 ……失礼します」


扉が閉まる。

廊下の向こう。声が小さく漏れる。


「だから、聞きに行くの嫌だったんだよなあ……」


 ◇


静かになる。

オルフェンは伏せた紙を戻した。


「……これは身体強化」


山の一番上にある紙にも手をのばす。

それは、アレンの入学試験の魔力線の図だった。


「これは魔法」


並べて、見比べてみる。


——書かれてる内容も、理論も全て別物。


そうでなくては困る。

ふと、引き出しを開ける。


もう一枚。没収した紙。

《ライト》への書き足し。


ざらついた紙質。

なぞる指先がすっと跳ねた。


「……できるのか」


核から、線を通らず、点へ。

身体強化じゃない、魔法で。


書き終える直前の論文が視線に入る。

すべての紙が急にどうでもよくなる。


『初級魔法でも工夫次第で、役立ちます』


教室で。言い返せなかった。あの目。


「……何が見えている」


気に食わない。

一体、何をしている……


扉は押し開けられる。

足音がその先に響いた。




 ◇


「ねえ、アレンくん」


昼休み。

ノエルが隣に座ってきた。


「最近、土魔法が引っ張りだこなの知ってる?」


「え、土魔法が?」


「うん。君のあれ、真似しようとしてさ」


「へえ……」


他人事みたいな声だった。


「でさ」


ノエルは、切り出す。


「地形操作、手伝ってくれない?」


少し返答に困る。

魔法、使えないしな。


「知ってるよ」


見透かすようにノエルが言う。


「欲しいのは発想」


「え?」


「旗戦のあと、ずっとみんなから質問攻めでさ。

 で、地形操作研究会ができたんだ」


ノエルは胸を叩く。


「僕、一応会長」


「似合ってる」


「からかわないでよ」


ため息が溢れる。

ノエルが、急に声を落とす。


「実はちょっと困ってて」


「何が?」


「教えていいのかなって……」


べつに、秘密にすることじゃない。


瞬きを数回。

それでもノエルは、じっと見てくる。


「最近、疲れてるでしょ」


そんなこと——


「男子から変な目。

 女子から、もっと変な目」


言い返せない。


「だからさ——」


「ここで一緒に、コソコソしてようよ?」


差し出された手。

肩の力が、すっと抜けた。

アレンは思わず笑い、手を握った。




 ◇


「じゃあ、陶板土壁のダメなところから」


「え?」


評判良かったと思ったけど。


薄暗い倉庫で、ノエルがメモを開く。


「まず、しんどい」


「……まあ、そうか」


作る。整える。焼く。

ぶっちゃけ、工程が多い。


「次。ムラが出る」


「焼けてない場所とか薄い場所。そこから割れる」


バルケ戦の衝突音がよぎる。

結局、三回しかもたなかった。


「だから、もっとお手軽なやつ」


机の上にはクッキー。

それを見たまま、黙る。


「止める必要、ってある?」


ノエルの言葉。


「うん?」


「どうせ、崩されるから。

 だったら、足元を揺らすものでもいいのかな」


ふと蘇る。砕けた陶片。

足に刺さっていた、あの感触。


「壁じゃなく、板」


アレンが顔を上げる。一瞬見えた。

等間隔に、陣に張り巡らせる光景。


「柵ってこと?」


「うん。小さいぶん、作るのも簡単になる」


「でもさ、逆に量は増えるよね」


ノエルは腰に手を置く。


「簡単っていうけどさ……アレンくん、考えが甘いよ」


ため息が聞こえた。


「地形操作、かなり大変だったんだからね?」


アレンは、顔をそらす。

クッキーの、かすかに甘い匂い——


そうか。


「じゃあ、型は?」


手で長方形を描く。


「まず、枠に流す。それをまとめて焼く」


ノエルの目がきらりと光る。


「それ……」


「天才では?」


メモ帳に書き殴る。


「アース係、スコーチ係で分担……っと」


ノエルは立ち上がる。


「枠は木工室に頼めばいける……と思う」


アレンがうなずくと、もう扉に向かっていた。


「試作品いこう」



 ◇


「——そこで何をしている」


倉庫の扉が、音もなく開いた。

ノエルとアレンが、同時に振り向く。


「オ、オルフェン先生……」


ノエルが慌てて立ち上がる。


「御前試合のための、地形研究を——」


オルフェンは室内をゆっくり見渡す。


「それはわかる」


並んだ土の板。

半分だけ焼かれた陶板。

視線を順に追い、最後に一点に向ける。


「アレン・ハルトシュタイン」


静かな声。


「君は、いちいち問題を起こす」


「……問題、ですか」


アレンが問い返す。


「生徒からも、教員からも苦情が来ている。

 君のやり方は、分からないと」


オルフェンは眼鏡を押し上げる。


「だから、君の魔法に関することは——

 今後、私が直接見る」


「ひえっ?」


ノエルの変な声。


「ここで何をしようと構わん……

  ただ、 結果も内容も、私に説明できる形でやれ」


ノエルと目が合う。


カン。その時、机の上から何かが落ちた。

オルフェンの視線が向く。


「これは、何だ」


手に取って、表面を指でなぞる。

軽く叩く。耳を澄ます。


うわ、めっちゃ見てるな。


「えっと……試作品です。

 土壁の代わりに——」


「幼稚なおもちゃだな」


オルフェンの扱う手の温度が一気に下がる。


「面白いから、で作ったか?

 価値も見えん。こんなもの魔法とは呼ばん」


ノエルの口が開きかける。


「……ただし」


オルフェンは机にゆっくり戻す。


「形になったなら——

 レポートにまとめて、現物と一緒に提出しろ」


「顧問である私は知っておく必要がある」


「え? ち、地形研究会の……?」


ノエルの声が裏返る。


「若いのが騒いでな」


一瞬、若手講師の顔がよぎる。


「ま、そういうことだ」


踵を返し、そのまま出ていった。


 ◇


数日後。

地形研究会の部屋の扉が、勢いよく開いた。


「やあ。ノエル会長、いる?」


「副会長?」


サンラ寮の制服。レイク・サンブレイズが顔を出した。


「ちょうどよかった。

 アレンくんにアレ、伝えてくれた?」


「うん。それで今、こうして——」


ノエルが言いかけたところで、


「——待て」


部屋の隅から低い声。

レイクの肩がビクリと跳ねる。


「オ、オルフェン先生……? どうしてここに……」


「地形研究会の顧問だが」


椅子に座ったまま、じろりと見る。


「アレとは、何だ」


「い、いや、その……また今度で——」


言い終わる前に、肩をがしっと掴まれた。


「レポートにして提出しろ。

 顧問として、知っておく必要がある」


「は、はい……」


レイクの語尾が、見事に下がる。


「御前試合で恥をかくのは私だ。つまらんものは排除する」


オルフェンは顔をそむけている。


「ごめん。なんか、巻き込んだみたいで」


レイクは小声になる。

小さく手を合わせた。


「ううん。こっちも同じだから……」


ノエルは肩をすくめ、視線だけを向ける。

積み上がる土の試作品。

増えていくレポートの山。


「……大変だね、会長と副会長って」


アレンの一言に、深いため息が2つ聞こえた。


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