表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
5章 王立ヴィクリィール学園編 ― 旗戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/100

第84話 半分こ

ベンチに並んで座る。

真ん中に、ノート一冊ぶんの距離。


「……今年の旗戦ですけれど」

「あ、もうすぐですよね」


声が、思ったより近かった。


「トラルと当たるかもしれませんの」


アレンは、静かにうなずいた。


「ですから——

 あなたのことも、知っておく必要があります」

「えっと……俺の、ことですか?」

「もちろんです」


ページを開き、ペン先をそろりと構える。


「では——得意な魔法は?」

「得意、ですか?」


ペン先が、止まる。


階段の光景がよぎる。


「……一歩」


思わず、口に出ていた。

顔をあげる。


「この前の、階段でのあれは?」


アレンは一瞬だけ瞬きをして、それから小さく息を吐いた。


「一瞬、速くなります」


少し、間。


「……それだけ、ですの?」

「はい。一歩ぶんだけです」


クラリスは、書き込む。

インクの線が、紙の上でわずかに強くなった。


「では、苦手な魔法は?」


「魔力線が保たないので……正直、全部ですね」


ほんの一瞬、胸の奥が締まる。

クラリスはページの下を指でなぞる。


「……次ですわ。好きな食べ物は?」

「え? それも……戦術に関係あるんですか?」

「もちろんですわ。

 試合前の状態維持、集中力、持久力。

 すべて食事と関係します」


紙の上で、指が小さく震える。


「すべて、必要な情報です」

「そう、なんですか?」

「で、好きな食べ物は?」

「肉です。スラムの焼き肉屋でよく食べてました」


クラリスは真面目な顔で書き込む。


「ちなみに、甘いものは?」


アレンは少し考えてから、答えた。


「好きですけど、たくさんは食べられないです」

「たくさんは、食べられない」


行の端に、小さく印をつけた。


「休日の過ごし方は?」

「な、なんか質問、おかしくないですか?」


「おかしくありませんわ。順番に、上からです」


ノートを軽く持ち上げる。


「休みは、焼き肉屋と孤児院でいっぱいいっぱいで」


ペン先がぴたりと止まる。


「……その話、詳しく伺っても?」

「えっと。長くなりますけど」

「構いません」


少しだけ、向き直る。

 ◇


孤児院。子どもたち。狩りの話。

クラリスは、黙って聞いていた。

ふと、声に顔を向ける。


「クラリスさんは休日、何してるんですか?」


視線が合った。すぐに落とす。

胸の奥が、少しだけざわつく。


そのとき、遠くで鐘が鳴った。


「あ、そろそろ、戻らないと」

「ええ。本日は、ご協力に感謝いたしますわ」


——ふと、ページの端に目が止まる。

カバンの奥から、小さな紙包みをひとつ取り出す。


「ゲン担ぎを、今のうちに試しておきたいと思いまして」

「ゲン担ぎ……?」


「兄さまは大事なときにキャラメルを召し上がりますの。

こっそり—— 拝借してきましたわ」


最後の一言だけ、声が小さくなる。


「それ、お兄さんの分じゃないんですか」


「兄さまの箱からですわ。多少減っても——」


言いかけて、少しだけ目をそらす。


「僕がもらっちゃったら……」


「だからこそ、ですわ」


クラリスは、身を乗り出す。


「兄さまと同じゲン担ぎを味わっておいていただくのは——

とても、意義があると思いますわ」


「そう、なんですかね……」

「そうですわ。ですから——

半分こにいたしましょう」


クラリスはキャラメルをじっと見つめる。


「兄さまとも、幼い頃よくしておりましたの。

『わたくしにも勝ちをお分けください』って」


(これで、同じですわ)


きゅ、と押し込む。


「……」

「クラリスさん?」

「ま、待ってくださいませ。今、半分に——」


指に力を込める。


「いつもは兄さまが小さなナイフで切り分けてくださるのですけど……」


ぐっと押した瞬間、キャラメルがぴょんと逃げかける。

慌てて両手で包み込んだ。


「……無理に割らなくても」

「それではダメですわ」


すぱっと遮る。


「勝ちを二人で分け合う、これは儀式なのです」


クラリスは、もう一つの紙包みをカバンから取り出した。


「本日は特別に、わたくしとアレンさん、それぞれ一つずつで」

「それ、ただ二個食べるだけでは」

「いいえ」


きっぱりと言い切る。


「あなたが口に入れる瞬間に、わたくしも同時に食べます。

そうすれば、兄さまのゲン担ぎを

わたくしたちで半分こしたことになりますわ」


「すごい理屈ですね」

「理屈は、大事です」


有無を言わせず、キャラメルをアレンの手に乗せる。


「……分かりました」

「では、せーの——」


キャラメルを口に入れた。

甘さが舌の上でほどけ、噛む音がわずかに重なった。


「……おいしいです」

「そうでしょう?」


少しだけ、声が弾む。


「ゲン担ぎの確認は完了しましたわ。

あとは——どこまでを兄さまに伝えるかは……

これからわたくしがよく考えます」


「大変ですね」


真っ直ぐな眼差し。


「……よ、余計なお世話ですわ。遅れますから」


背を向ける。数歩で足が止まる。


くしゃくしゃになった包み紙。

そっと伸ばす。


——ぱたん、と小さな音がした。


 ◇


午後、廊下の掲示板の前に、人だかりができていた。


> 《四寮対抗旗戦・日程》

>

> 第一日:トラル寮 vs バルケ寮

> 第二日:ルザア寮 vs サンラ寮

> 第三日:決勝戦(第一日勝者 vs 第二日勝者)


周囲にざわめきが広がる。


「旗戦、今年も楽しみね。ルザアはどう?」


一緒に見に来た同級生の弾んだ声。


「ええ——すべて、順調ですわ」


口の中には、甘さがほんのり残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ