表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
8章 王立ヴィクリィール学園 ― 下町の火

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
121/130

第121話 戻らない火

その日は思ってたより静かだった。


「ただいま」


孤児院の扉がきしんで開いて、聞き慣れた声がした。


テオは、台所の床に座り込んで、木の端切れで意味もなく線を削っていたところだった。

顔を上げると、入り口にグレン兄ちゃんが立っていた。


腕はちゃんとついてる。

足もついてる。

顔は、ちょっと痩せた気がする。


「グレン兄ちゃん!」


テオは飛びつきかけて、ミレーネに首根っこをつかまれた。


「走るなって言ってるでしょ」


「でも!」


「でも、じゃなくて。 走るなは走るな。

 その代わり――」


ミレーネは、手を離してから笑う。


「おかえりってちゃんと言ってあげな」


「……おかえり」


「おう」


グレン兄ちゃんが、いつもの調子で頷く。

それだけで、胸の奥の固まってたものが、ちょっとだけゆるんだ。


「これでお店、またできるね!」


グレンの顔が少しだけ動いたのに気づいた。

眉が、ほんの少しだけ下がる。


「……そう簡単にもいかねえらしい」


「どういうこと?」


テオは、すぐには飲み込めなかった。


 ◇



翌朝になっても焼き場は冷たいままだった。


「よし、仕込みするか!」

「テオ、肉運べ!」


そう怒鳴られると思っていた。


炭箱は空。肉箱も空。

焼き場の柱には、役所印の紙だけが貼られている。

グレン兄ちゃんは焼き場の隅で、紙の束をにらんでいた。


肉を見る顔じゃない。

火を見る顔でもない。

テオには、それが一番いやだった。


「ミレーネ、なにか手伝うことある?」


テオは、台所の隅で棒きれをくるくる回していた。


「ない。だから、ウロウロするのやめてくれる?」


「してない」


「そこに座り直したの、今日三回目」


テオは、棒きれを床に突き立てる。


「だって、店しないんだろ」


ミレーネは、洗った皿を布で拭きながら言った。


「炭も肉も水も、全部上の顔色うかがわなきゃいけない。

 あんたには退屈だろうけど、今は紙との戦い中なんだよ」


「なんだよ、紙との戦いって」


ミレーネは、そこで手を止めてテオを見た。


「今のあんた、グレンの気を散らしてる」


「え?」


テオは、焼き場のほうを見た。


グレン兄ちゃんは、紙を一枚めくって、また戻していた。

読んでいるというより、噛みつく相手を探しているみたいだった。


「あんたが棒持ってウロウロしてみな。

 グレンは絶対、あんたに何か言う。

 言ったあとで、余計に自分に腹を立てる」


「……俺、そんなに邪魔?」


テオは本当に、何かしたかった。


炭を運ぶでもいい。

肉を洗うでもいい。

皿を並べるでもいい。

小さい子を並ばせるでもいい。


いつもなら、どれか一つくらいは仕事があった。


でも今日は、何もなかった。

火がないと、テオの仕事もなくなる。

店が止まると、自分まで止まったみたいだった。


「暇なら、アレンに顔でも見せてきな」


お兄ちゃんの顔が浮かぶ。

森で魔獣を倒した英雄。水をきれいにした英雄。

だったら、火だって戻せるんじゃないか。


「……行ってくる」


「走るなよ」


「分かってるって!」


言い返して、テオは孤児院を飛び出した。

やっぱり、半分くらいは走った。



 ◇



学園の門をくぐると、いつものようにエリュナに見つかった。


「医務室?」


テオがうなずくと、エリュナは何も聞かずに歩き出した。

扉の前で、テオは一度だけ息を吸った。


「どうぞ」


中から声がして、扉を開ける。


「お兄ちゃん、火が戻らない」


ベッドの上のお兄ちゃんが、こちらを見た。

横にはノエルもいた。


「店がまだ開けない」


ノエルが唇を噛んだ。


「やっぱり……」


その言い方が、余計に腹に立つ。

喉の奥が熱くなる。


「グレン兄ちゃんは帰ってきたのに……」


部屋の中が、静かになる。

お兄ちゃんは黙ったままだった。


「ねえ、お兄ちゃんは英雄なんだろ」


お兄ちゃんの肩が、小さく動いた。


「だから、《英雄焼き肉》なんだろ」


止まらなかった。


「英雄のタレだって、みんな勝手に名前使うけどさ。

 お兄ちゃんがすごいことしたからだろ」


拳を握る。


「なのにグレン兄ちゃんが捕まって、店が止まって……」


喉の奥が熱くなった。


「なんで、お兄ちゃんは、ここにいるだけなんだよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ