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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
7章 王立ヴィクリィール学園編 ― 水の巡り

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第115話 森の目 【エリュナ視点】閑話

噴水の水は、森の泉とは違う匂いがした。

石と鉄と人の汗と、焼いたパンの匂い。

でも、真ん中のそれからは、よく知っているざわめきがした。


「……へんな感じ」


エリュナは、広場の少し離れたところから、 噴水を見ていた。

石柱の中ほど。 鉄の輪で固定された一本の枝。


世界樹の枝。


森の奥で感じる根っこと同じ気配が、王都のお腹の真ん中で動いている。

そんなふうに思えた。



 ◇



「エリュナ」


呼ばれて振り向くと、ノエルが立っていた。

袖をまくり、髪も少し乱れている。


「どう?」


ノエルは朝からずっと、板を見ていたのだろう。


「ちゃんと動いてる。水も変わってる。

 でも、枝が無理してないかは、僕には分からない」


エリュナは、枝のざわめきに耳を澄ませた。


「世界樹は、いつもどおり」


「いつもどおり?」


「うん」


エリュナは、噴水の水面を見つめる。

人々が並び、桶を差し出し、透き通った水を受け取っていく。

噴水のそばでは、誰かが叫んでいた。


「世界樹の奇跡だ」


「学園様の水だ」


いくつもの名前が、水しぶきと一緒に飛び交っている。


「世界樹は、奇跡って顔してない」


エリュナは、少しだけ首を傾げた。


「いつものことを、いつもどおりしてるだけなのに、って」


「……そっか」


ノエルは、息を吐く。


「アレンのところ、行ってくる」


ノエルは頷いた。


「伝えてあげて。

 噴水は、ちゃんと動いてるって」


「うん」


エリュナは、学園へ向かった。



 ◇



医務室は、いつもの消毒の匂いがした。


ベッドの上で、アレンは横になっている。

目は閉じていたが、顔色は前よりずっといい。


ラグナが腕を組んで、ベッドのそばに立っていた。


「ちょうど今起きたとこよ」


「うん」


エリュナは小さく答えて、ベッドのそばに椅子を引いた。


少し迷ってから、 そっとアレンの手を取る。

指先に、薄いぬくもりがあった。


「……エリュナ?」


アレンが、ゆっくりまぶたを開けた。


「噴水、どうでした?」


「森の泉とは、違う匂い」


エリュナは真面目に答えた。


「でも、世界樹は嫌がってない。

 枝は、ちゃんと水を見てる」


アレンは、ほっとしたように息を吐いた。


「よかった」


少し間を置いて、申し訳なさそうに言う。


「ごめん。

 エリュナの枝、勝手に——」


「私のじゃない」


アレンが瞬きをする。


「……え?」


「世界樹は、めったに枝を落とさない」


エリュナは、アレンの手をぎゅっと握る。


「だから、たぶん、意味があると思う」


アレンは、少しだけ困った顔をした。


「……気前がよすぎるとは思ってました」


「うん。世界樹だからね」


エリュナは、くすっと笑った。


「森の中なら、世界樹の気配はいつも近かった」


それから、窓のほうを見る。


学園の向こう。 王都の真ん中。

あそこに、世界樹の枝がある。


「でも、今は王都にもある。

変な森だけど」


エリュナは正直に言う。


「森の祝福だけじゃ、足りなかった」


エリュナは言った。


「水を運ぶ人も、列を守る人も、札を描く人もいる。

 そういうの、知らなかった」


アレンは黙って聞いていた。


「だから、学ぶ。

 私、ここの学園の生徒になる」


エリュナは、にこっと笑った。



 ◇



ラグナが、ベッド脇の布を直しながら言った。


「そろそろ、この芋虫眠らせるわよ」


「は〜い」


エリュナは椅子から立ち上がり、扉の前で、一度だけ振り返った。


「世界樹も言ってた」


「何て?」


アレンが、小さく聞く。


「外に根を伸ばしたなら、ちゃんと見てろって」


「……俺にですか?」


「ううん」


エリュナは、少しだけ笑った。


「たぶん、私に」


アレンは、少しだけ目を細めた。


「じゃあ、お願いします」


「うん」


アレンはもう目を閉じていた。


「おやすみ」


エリュナは静かにその横顔を見ながら、

森の外に伸びた根の、その先を見届けようと決めた。

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