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初級魔法しか取り柄がない!!  作者: なるっち
7章 王立ヴィクリィール学園編 ― 水の巡り

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第107話 魔導基盤

夜。


廊下の足音が減っていく。

医務室には、アレン一人になった。


横になったまま、自分の脇に積まれた図面の束へ手を伸ばした。

ノエルが置いていった、魔道具研究会の水回り試作品たち。


「ちょっとだけ、見るだけですから」


誰にともなく言い訳をしてから、紙を一枚、めくる。

細かい線が、ぎっしりと描かれている。


「ここ、無駄に回してるな……」


小さくつぶやく。


二枚目。三枚目。


一枚ずつめくっていると、腕が疲れてきた。

一度、息を吐いてから、図面をまとめて束ねた。


ばさり。


重なった紙の隙間から、下の線がうっすらと透けて見える。


「ん」


「……こういうことか」


そこから先は、言葉ではなく手が動いた。


上の紙の線を、下の紙を透かしながら、

ゆっくりなぞる。


同じ役目をしている部分だけ。

重ねたときに薄く見えたところだけ。

全部を書き写すんじゃない。


一本に、統合する。


「ここを少し細くして……

 ここは、輪を作って——」


ただ、通りのいい道を探すだけ。


夜が深くなっていく。


ぐしゃ、と一枚失敗しては丸める。

何度も線を足しては引き、くっつけては消す。


気がつけば、外の明かりが少しずつ白んできていた。



 ◇



「アレンくん、入るよ」


ノエルと、レーンが顔を出す。


「まだ寝てるかな……」


「様子を見るだけにしておけ」


レーンが苦笑する。


ベッドのアレンは、深く眠っていた。

そのかわり、床に一枚、紙が落ちている。


ノエルが拾い上げる。


「これ……?」


昨日、自分が置いていった図面とは違う線の流れ。

視線が、そこで止まる。


「……これ、誰が描いた?」


ノエルは、ごくりと喉を鳴らした。


「先生」


レーンが紙を受け取る。


「……ほう」


レーンの眉が動く。


「魔力を、少しだけ流してみろ」


「はい」


ノエルは、そっと指先を陣の端に当てた。

魔力が、すっと吸い込まれる感触。


どこかで止まるでもなく、

ぐるりと一周して、また戻ってくる。


「引っかかりが、ない……」


ノエルは、目を見開いた。


「先生、これ——」


「浄化だな」


レーンが肯定する。


「だが、水を動かす流れができている」


ノエルが言葉を継ぐ。


「浄化と、ウインドを……

 一つに統合してるんだ」


「統合陣、か」


レーン先生が、小さく呟いた。


「これだけじゃ、まだ足りない」


レーンは紙を机に置いた。


「魔力の流れはいい。

 だが、これをどこにどう置くかが問題だ」


ノエルの視線が机の上を横切った。


「……陶板の……欠片?」


レーンが、手に取る。


指で裏を叩く。コン、と低い音。


「旗戦のときの柵だろう?」


「はい」


「そういえば、柵を壊したとき、素材が話題になってたな。

 見たことないけど、やたら頑丈だって」


先生はにやりと笑った。


「ちょうどいい」


紙の端に描かれた陣の一部を、 陶片の平らな面へ小さく写す。

ノエルが、息を詰めて見ている。


端に、小さな魔石を当てる。

レーン先生が、さっきと同じくらいの力を流した。


淡い光が走る。

なめらかに。速く。

まるで生き物みたいに。


「……」


先生の眉が、ほんの少しだけ上がった。


「悪くない」


短い評価。


ノエルも、指先で陶片の縁をなぞる。


「引っ掛からない」


レーン先生が小さくまとめる。


「魔法で焼いた土は、親和性が高い。

 少なくとも、この欠片はそうだ」


「じゃあ——」


「この陶板素材を、魔法陣の基盤に使う」


レーンが言う。


「魔石はその上に固定する。

 くぼみを作って、ぴたりとはめればいい」


ノエルの頭の中で、

いくつもの線が一度に繋がった。


「先生……これ、やれますよね」


ノエルは、紙と陶板を交互に見ながら言った。


レーンは、にやりと笑う。


「やってみようか。

 魔導基盤とやらの、試作品づくりを」


「魔導基盤」


ノエルは、その響きを口の中で転がした。


「いいですね、それ」


ラグナが欠伸をしながら、部屋に入ってきた。


「盛り上がってるとこ、悪んだけど。

 ここ病室。病人の前で騒がないでくれる」


ノエルは、大きく息を吸い込んだ。


「すみません」


机の上に置かれた陶板の欠片は、

朝日を浴び、ほんの少しだけ、輝いている。


ベッドのアレンは、まだ眠っている。

体はまだ動かせない。


でも、土の板なら。


水の中なら。


そこへ線を伸ばすくらいは、

まだできるかもしれない。




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