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VAMPIRE STREAMING  作者: 未羊


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608/611

第608話 年始の別れ

 三が日を終えて、小麦は東京へと帰っていくことになる。

 小麦はその前に、わざわざ満に挨拶するために、満の家に寄っている。寒いので、玄関の中に入って、満と小麦は向かい合っている。


「やあ、満くん」


「小麦さん、わざわざこっちに寄るんですか?」


「そりゃそうだよ。恋人同士なら、ちゃんと面と向かって挨拶をしておきたいからね」


 わざわざ家に寄ってくれたことに、満はちょっと恥ずかしそうに理由を尋ねる。小麦の方は堂々と言い切って答えていた。

 まだ恋人というものをあんまりわかっていない満と、両親をさんざん見てきた小麦との違いがはっきりと分かる。


「今年は満くんは受験、私は卒論で忙しいから、あんまり会うことも話をすることも減るだろうね。寂しいなぁ」


「あっ、そうですよね。小麦さんはちゃんと卒業できそうですか?」


「私がそんなどじを踏むと思う?」


 小麦が満との接触機会が減ってつらいなと言っているのに、満はとんちんかんなことを聞いている。相変わらずずれた感覚である。

 それでも、小麦はそんな満の質問に合わせて、笑顔を浮かべながら答えている。こういう適応力の高さが、小麦の持ち味なのだ。


「でも、私の方は、満くんのことが心配だよ」


「ぼ、僕の?」


 小麦が満に顔を近付けながら話すと、満はちょっと後退るような格好で驚いている。


「そっ。アイドル路線を継続したとして、どんな生活をするのかなって。大学は受験するんだよね?」


「ええ、そのつもりですけれど」


「じゃあ、どの学部、どの学科を受けるか決めないと。大学で勉強するのは専門知識だよ? 私は経済、経営のことを学びに大学に行ったんだ、ママみたいな人になるためにね」


 小麦は満の鼻に人差し指を押し付けながら、満の覚悟を聞いている。

 この時の小麦は、普段のにこやかな感じではなく、少し怖い印象を受ける感じだった。


「脅しでも何でもないよ。私だって、入ってからの勉強でちょっと危なかったんだ。浮ついた気持ちで大学に入っても、勉強についていけなければすぐに現実に打ちひしがれる。共通まで一年あるから、しっかり考えよう。乗れる相談なら乗るし」


 かなり満に圧をかけていたと思えば、体を引いて胸を張って優しい表情を見せる。

 これが満よりも四年も前に生まれたという頼もしさなのだろう。ころころと変わる小麦の態度と表情に不安を覚えさせられながらも、最後にはしっかりと安心感があるのだから。


「分かりました。僕は何を目指したいのか、学んで何をやりたいのか、考えてみます」


「うんうん。それと、満くんは今の勉強も厳しいんだから、そこからだね」


「あは、あははは……」


 やる気を見せた満だったが、小麦からさらなる現実を突きつけられて、苦笑いをするしかなかった。対する小麦は微笑みを浮かべている。


「よし、私はそろそろ東京に戻らないとね。Uターンに巻き込まれちゃう」


「そうですね。気を付けて戻って下さいね」


「うん」


 心配の声をかける満に対して、小麦はにっこりとさらに微笑んでいる。

 そうかと思うと、小麦は満の唇に、自分の唇を重ねる。


「ちょっと、小麦さん?!」


「えへへ、お別れのキスだよ。しばらく会えないんだから、ちょっと大胆になっちゃった、てへ」


「もう、小麦さんってば……」


 にっこりと微笑む小麦に対して、満は顔を真っ赤にしている。だが、まんざらでもない感じだ。


「玄関でいつまでいちゃついてるのよ」


「あっ、お母さん」


「すみません、おばさん。もう帰りますから」


 満の母親が様子を見にやってくる。目の前で突然キスシーンが始まったものだから、邪魔はいけないとは思いつつも、さすがに長くなっていることには苦言を呈さざるを得なかったようだ。

 満は顔が真っ赤のままあたふたしているが、小麦の方は意外と落ち着いていた。


「それじゃ、満くんの受験がうまくいくように願っているよ。それじゃ、またね、ダーリン」


 小麦が最後にもう一回満にハグをすると、恥ずかしそうに手を振りながら玄関から出ていった。

 なんとも積極的な小麦に、満は終始振り回されっぱなしである。


「ダーリン、ねぇ……」


「も、もう、小麦さんってば……」


 顔どころか耳まで真っ赤になってしまった満は、恥ずかしさのあまり、しばらくその場から動けなくなっていた。


「今日は、お赤飯がいいわね。うん、そうしましょう」


 いつまでも真っ赤で動かない満に視線を向けると、満の母親はそうつぶやいている。

 自分の息子にようやく彼女ができたかと思えば、思った以上にアクティブな相手だったので、母親の方も少々困惑しているようである。

 その後、昼食の準備ができた時に玄関にやって来ると、まだ満がそこで呆けていたので、母親が強引に満をリビングまで引っ張っていくことになったのだった。


 一方の小麦は、東京のマンションまでの帰り道を移動中である。

 ついつい大胆な行動に出てしまった小麦は、別れ際の満とのやり取りを思い出して、絶賛悶絶中である。


(あははは、ちょっと自分らしくなかったかなぁ。パパとママのことを思い出しちゃって、ちょっとやりすぎちゃったかもしれないね……)


 どうやら、熱烈なアピールから結婚に至った自分の両親の話がよぎったらしい。

 小麦の母親であるグラッサは、根っからの仕事人間。満とは違うタイプではあるものの、自分への好意には疎いタイプだった。そこに父親が猛烈アピールをして結婚に至ったという経歴がある。だからこそ、小麦はちょっと大胆に出たというわけだった。


(私たちも、パパやママみたいになれるかな。いや、なってみせなきゃね)


 小麦はしっかりと誓いを立てると、車の運転に意識を集中させる。

 帰省ラッシュに巻き込まれた年末とは違い、比較的スムーズに高速道路を進み、マンションへと戻る小麦なのであった。

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