第607話 家族ぐるみの年越し
配信を終えた満を待っていたのは、着物を持った母親だった。
「ちょ、ちょっと、お母さん?!」
「やっぱり晴れ着姿よね。今年も着ましょうね、満」
「ちょっと、お父さん。お母さんを止めてよ!」
「すまんな、満。我慢してくれ」
「そんなぁっ!」
というわけで、満は今年も振袖に着せ替えられてしまった。
胸はすっかり大きくなってしまったものの、まあそんな体型の変化も母親の着付けの腕前の前にはまったく関係ない。
「ふぅ、さすがは私の娘。似合いすぎるわ」
「僕は息子だよぉ……」
満が文句をいうものの、誰がどう見ても、そこにいるのは銀髪翠眼の着物美人である。
「さて、まだちょっと時間があるみたいね。ちょこっと食べてから、初詣に向かいましょうか」
「だな」
「えっ、僕ってこの格好で食べるの?」
「そうね。でも、大丈夫よ。エプロンを着ければ」
にっこりと微笑む母親の姿に、満はなんともいえなかった。
そんなわけで、カップ麺の年越しそばを食べた満たちは、初詣へと向かうために家を出発する。
途中で芝山家と合流することになっているので、まずは待ち合わせ場所になっているお寺に向かう。ここで一緒に除夜の鐘を聞いて年越しを迎えるのだ。
その後、神社に向かって初詣という予定になっている。
大晦日の街は白い雪がちらついていて、結構寒そうである。当然ながら、吐く息は白い。
(小麦さん、会うのは数日ぶりなのに、なんだか長く会ってない気がするなぁ……)
両親と一緒に歩く満は、ふとそんなことを考えていた。まったく、すっかり恋人の思考になっているようだ。
お寺に到着すると、その入り口ではすでに小麦たちが待っていた。
「あっ、満くん!」
人がたくさん行きかっているというのに、小麦が満を見つけて手を振っている。満は振袖を着ていて、普段とも髪型が違うというのに、よくすぐに分かったものだ。
「小麦さん!」
同じように満もすぐに小麦の姿を見つけて、表情を明るくしている。ちなみに、小麦の方はコートを着ている上に、下はジーンズだ。普段着の延長である。
お互いにすぐ見つけてしまうとは、これが恋人というものなのだろうか。
「これは芝山さん。こんばんは」
「こちらこそこんばんは。娘のわがままで、ご一緒させてしまって、申し訳ありませんね」
「いえいえ、それを言ったらこちらもですよ」
双方の親が、挨拶がてらなにやら謝罪し合っている。
「もう、大晦日に何をしているのよ」
「本当だよ。それに、今日ばかりは一緒にいないと、意味がないんだからね」
お互いの親の様子を見た満と小麦は、不満げに文句を言っている。
「それは、どういうことなの、満」
「それは……、こういうことだからだよ」
母親に確認するかのように声をかけられた満は、恥ずかしそうに小麦に近付いて、手を握って肩を寄せ合っていた。
二人の様子を見た瞬間に、双方の親が反応する。
それなりに察していた小麦の父親と満の母親は喜んでいて、満の父親は驚きを隠せないという表情だった。
「まあ、やっぱりそうだったのね」
「待て待て、父さんは初耳だぞ」
「ずいぶん前からそういう感じだったのに、ようやくって感じだな」
両親の反応を見て、満と小麦は手をつないだまま、お互いの顔を見て笑っている。そして、両親の方を向いてはっきりということにした。
「うん、僕たち、付き合うことにしたんだ」
「いやぁ、長かったよね、ここにたどり着くの」
「そうよ。あなた、初耳とは言うけれど、何度となくそういう気配はあったでしょうに。満が鈍すぎてこうなるのが遅かっただけなのよ。本当、こういうところはあなたに似ているわ」
「うぬぬぬぬ……」
顔を赤くしながらも、実に仲睦まじそうな満と小麦である。
満の父親は、満の母親に言われた言葉もあって、素直に喜べないという感じになっていた。
「ねえ、そろそろ行こう。年が明けちゃう!」
満のひと言で、みんな揃ってお寺の中へと足を踏み入れることにした。さすがに周りの視線もちらほら向き始めたこともあって、いつまでも留まっているわけにはいかなかったのだ。
除夜の鐘を聞いて、お寺へとお参りを済ませた満たちは、神社へと移動をしていく。
人のごった返す参道を進み、いよいよ拝殿までやって来る。
お賽銭を入れた満たちは、手を合わせながらお願い事をしている。
(小麦さんと幸せな家庭を築けますように)
(満くんと、いつまでも一緒にいられますように)
二人はなんとも純粋なお願いをしているようだった。
「満くんは、何をお願いしたの?」
「内緒。小麦さんは?」
「私も、内緒だよ」
お参りを終えた二人は、こんな会話を交わしている。
はにかみながら周囲に見せつけてくれている。見た目こそ女性同士ではあるものの、雰囲気はまるっきり恋人同士だ。見ている両親たちの方が恥ずかしくなってくる。
「すっかり青春してるわねぇ」
二人の様子は、この言葉に集約されている感じである。
去年はまだ仲のいい友人だったというのに、年の瀬にかけて一気に仲が進展したものである。
この後の満と小麦は、結局家に帰るまでの間、ほとんど手をつなぎっぱなしだった。それはまるで、自分たちの気持ちを確認し合うかのように。




