第606話 大晦日配信
迎えた大晦日。
今日も街には雪が降っている。
「うわぁ、今日もよく降ってるなぁ」
「仕方ないわよ。この辺りはそもそもそういう場所なんだから」
窓の外を見る満は、困った顔をしている。
「それはそうと、今日は配信はするの?」
「うん。ここのところ忙しくてできてなかったからね。クリスマスの配信も結局しなかったし、お詫びを兼ねてちょっと長めにね」
「初詣に行くんだから、ほどほどにしなさいよ」
「分かってるって」
満はそういうと、部屋へと戻っていった。その時、母親が何かを企んでいることにも気づかずに……。
部屋へと戻った満は、まずはPASSTREAMERの自分のページを確認する。
アイドルを始めたこともあるが、クリスマスのコンサートが影響したのか登録者数が増えている。
順調に登録者数が増えていることに安堵する満。その時、胸に手が触れているのだが、今回は終業式直後からずっと女性になっていることもあってか、まったく気になっていない。
女性になれるようになってからずいぶんと経つものの、さすがに変化直後だと気にすることもあるようだ。
サイトのページを確認すると、前回の配信日は13日と、かなり前になっている。
(うわぁ、ずいぶんと空いちゃってるなぁ。コンサートの準備で忙しかったのはあるけれど、以前を思えば空きすぎだよね)
状況的に仕方がないのだが、申し訳なくなってしまう満なのである。
今日の配信は大みそか雑談配信ということで、満はSNSに今日の配信の予告を投稿する。そしたら、その瞬間に瞬く間にリポストされていく。
久しぶりの投稿だったというのに、相変わらずの反応の早さ。満は思わずくすりと笑ってしまった。
そうして迎えた、配信開始の夜八時。
「みなさま、こんばんは。光月ルナでございます」
『おはよるな~』
『久しぶりのルナちじゃーっ!』
配信を始めると、いつもの挨拶とテンションの高いコメントが一斉に流れていく。登録者数が増えたことと、久しぶりということもあってか、コメントの流れるスピードがいつもより速い。
「本日は大みそかでございます。そして、配信を始まる前に、みなさまを長らくお待たせしてしまったことをお詫び申し上げます」
『ええんやで』
『コンサートのことを知っているから、みんな気にしてないない』
謝罪をする満ではあるが、本当に非常にできたリスナーばかりのおかげか、許されるコメントばかりである。
コメントを確認した満は、ちょっと涙が出そうになってしまう。
「ありがとうございます。では、本日はコンサートのことなど、いろいろ雑談をしてまいりたいと思います。いつものように、あんまりプライベートに踏み入ったお話はできませんので、ご了承くださいませ」
『りょ』
『ルナちの眷属は、そのあたりはわきまえてる』
『光月ルナのファンって眷属っていうんだ』
『ルナちは吸血鬼だからな』
『なるほ』
コメントの中には、初めての人も紛れているみたいだった。
光月ルナのファンの間では、自分たちのことを眷属というのは完全に定着している。だから、そこに疑問を持つ人は、間違いなく新参ということなのだ。
囲め囲めと動くリスナーたちの動きに、満は思わず笑ってしまう。
その直後、リスナーからコメントが飛んでくる。
『コンサートお疲れ』
「はい、ありがとうございます。あれだけの大勢の前で歌うのは初めてでしたから、ものすごく緊張しました。地元のイベントと規模が違いすぎます」
『まあ、うん万人だからなぁ』
『普通は固まってなんもできんよ』
最初のコメントからコンサートに対してのねぎらいの言葉だった。本当によくできたリスナーたちである。
『そういえば、全体の前のソロ歌唱、あれなんなん?』
当然ながら、途中で挿し込まれた歌にツッコミが入る。
どうやら他のリスナーたちも気になっているようで、コメントがしばらくその話題にあふれている。
「あれは、僕が無理やり頼んで当日に入れてもらった曲なんです。だから、セットリストにも載ってないんですよね」
『ルナちが?!』
『この新人、怖い・・・』
『てか、作詞作曲誰なん?』
「あの曲の作詞は僕です。曲は二週間でつけてもらいました」
『は?』
『今なんて?』
爆弾発言の連発に、リスナーたちが戦慄している。
そりゃそうだ。あの聞いたことのない歌の作詞は、光月ルナ本人だったのだから。まさかアイドル活動を始めたばかりのアバター配信者が作詞をしたなんて、誰が考えただろうか。誰も思わなかったからこの反応なのだ。
『なんだか、ルナちだから納得できてきた・・・』
『これだからルナちの眷属はやめられないぜ』
『ただのイロモノアバ信じゃないってことか、眷属になりますわ』
「えへへ、ありがとうございます」
リスナーたちの反応に、満はものすごく満足しているようである。
この後も、コンサートのことを中心として、リスナーたちと大いに盛り上がっていた。
結果として、配信一時間のうちの大半が、コンサートの話で消えてしまっていた。
「あっ、ごめんなさい。もうそろそろ配信を切り上げないといけないですね」
『おや、もうそんなに時間が経ったか』
『もっと話をしてたかった』
「僕もそうですよ。でも、もうそろそろ年越しの時間です。ちょっと僕にも用事があるので、このままとは参りません。また、年が明けてからと致しましょう」
『了解』
小麦との約束があるので、いろいろと準備がしたい満は、配信を終わらせることにした。リスナーたちは本当に名残惜しそうである。
とはいえ、眷属を名乗る以上、光月ルナには迷惑をかけられない。涙をのんで受け入れることにしたようだ。
「それでは、本日はこれまでとします。みなさま、よいお年を」
『よいお年を』
『来年も楽しみにしているぜ』
こうして、満は配信を終了させた。
だが、この後にとんでもない地獄が待っていようとは、まったく考えてもいない満だったのである。




