第601話 温かい雪
雪が舞い始める。
満と小麦は、ゆっくりと体を離している。
「み、満くん……」
「え、えへへ。これが、僕の正直な気持ち。やっと、やっとわかったんだ、僕」
唇を押さえながら頬を赤らめながら驚く小麦に、満も恥ずかしそうに顔を真っ赤にして微笑みながら答えている。
「でも、今は女の子同士なのが、ちょっと残念かなぁ。これじゃ恋人同士って感じが出ないっていうかなんていうか……」
満はちょっと顔をそらしながら、小麦に対して正直な今の気持ちを話している。以前の満からすると、考えられないような感じだ。
話をしながら、目を閉じて笑いながら頬をかいている。その姿を見た小麦は、思わず満に抱きついてしまっていた。
「わわっ、小麦さん?!」
「う~ん、やっぱり満くんは可愛いなぁ」
そうかと思えば、今度は頬ずりを始めている。あまりの勢いに、かけている伊達眼鏡がちょっとずれてしまっている。
「わわわっ、小麦さん、眼鏡が、眼鏡が落ちちゃう!」
「あっ、ごめん。変装中だったよね」
慌てた満が注意すると、小麦は慌てて顔を離している。次の瞬間、お互いが驚いた表情で目が合ってしまう。
「~……っ!」
なんとも声にならない声で、満と小麦はお互いの顔を見ていられないかのように逸らしてしまう。
満はずれかけて眼鏡を直しながら、ちらりと小麦の方へと視線を向けている。そしたら、再び目が合ってしまって、慌てて反対方向に向いてしまう。なんとも初々しくて純粋無垢なカップルである。
「雪、降ってきましたね」
「そ、そうだね」
ひと言掛け合う二人だが、それ以降の言葉が続かない。特に満は恥ずかしさがどんどんと増してきていて、なおのこと小麦に顔を向けられなくなっていた。
ちらりと満に視線を向けた小麦は、恥ずかしがって小さくなる満の姿を見て、そっと後ろから抱きついている。
「こ、小麦さん?」
「ありがとう、満くん。勇気を出してくれて。私、とっても嬉しいよ」
「小麦さん……」
満は、抱きついている小麦の腕に、そっと手を添えている。
満が小麦の方を振り向いて声をかけようとすると、今度は小麦から唇を重ねてきている。
「ん……」
驚いた満ではあったものの、今はただ嬉しくて、そのまましばらくその状態で立ち尽くしていた。
「あーあー、見せつけてくれちゃって……」
「それでも、ようやくあの二人はくっつきましたね。ここまで長かったですよ」
遠くの物陰から、イリスと環の二人が様子を見守っていた。というか、なんでここにいるのだろうか。
「いやはや、その気は以前からありましたのにね。やれやれ、人間というのは実に興味深いです」
「キマさんもありがとう。わざわざ私たちの要望を聞いて、二人の追跡に協力してくれて」
「いいえ、このくらい大したことではございません。いい退屈しのぎにはなりましたよ」
そう、二人が満たちを追跡できた理由はキマのおかげである。ただし、満が女性の状態だったことが大きい。
理由は、キマがルナ・フォルモントとの間で長らく親交があったことにもよるだろう。ルナ・フォルモントと同じような気配を持つ満の女性の姿だからこそ、キマは満のことを追跡できたというわけだ。
「まあ、この分ならもう心配はなさそうね。小麦ちゃんは年末は実家に帰省するなんてこと言ってたし、このまま一緒に戻るでしょ」
「あら、イリス。もういいの?」
「あんまり見ていたら気づかれるでしょ。せっかくくっついた二人の邪魔をするわけにもいかない。でも、過ちを犯しそうだったら、割って入るけどね。もうしばらくは純真無垢なカップルでいてもらいたいわ」
「では、私の能力でお二方をお送りしましょう」
キマはそういうと、人目につかないような場所を選んで隙間の能力を使ってイリスと環を家まで送っていったのだった。
その瞬間、満はふと顔を振り返ってしまう。
「どうしたの、満くん」
「いや、キマさんの気配がした気がして」
「ははーん。さては私たちのことをのぞき見してたな?」
「え、ええっ?!」
満の反応が気になった小麦の質問に、満は正直に答えている。その答えを聞いて、小麦はあごに手を当てながらジト目を満の視線の先へと向けている。当然ながら、満はあたふたしている。
暴れる満を小麦は再びぎゅっと抱き締める。
「いいじゃないの。もっとイチャイチャを見せつけてやればよかったわ」
「ちょっと、小麦さん!」
「あはは、冗談冗談。満くんが恥ずかしがるから、人前ではしないよ」
あわあわと崩れた表情をする満を見ながら、小麦はからかうように笑っている。
一度、満と小麦は少し距離を取る。さすがに人前でいつまでもべたべたとくっついているのは恥ずかしいらしい。
満が胸に手を当てながら一度呼吸を整えていると、小麦がすっと右手を差し出してくる。
「それじゃ、そろそろ戻ろっか」
「はい。今夜はお世話になりますね、小麦さん」
満は小麦の手を取って、頬を赤らめながら答える。
「もう、相変わらず満くんは純粋なんだから」
「えっ?」
「なんでもなーい」
「わわっ、小麦さん。引っ張らないで下さいよ」
ちらちらと白い雪が舞う中、満と小麦は手を取り合いながら、歩いていく。
ようやくお互いの気持ちを確かめ合った夜。少しでも長く感じていようと、ぴったりと寄り添いながらゆっくりと歩き続けていた。




