第591話 できる親友
高校二年生の二学期も、あと一週間で終わり。
来年は大学受験なので、人によっては少しずつ準備を始めている時期だ。
満たちも、もう真剣に進路について考える時期だというのに、今日も満は授業が終わると一目散に帰ってしまっていた。
「最近、満くんの付き合いが悪いわね」
満を誘って帰ろうとしていた香織が、行き場を失った手を遊ばせながら、ぽつりと呟いている。
「あれっ、花宮は聞いてないのか」
「えっ、何を?」
後ろからひょっこり現れた風斗に、香織はびっくりしてしまっている。それだけ、満に帰られてしまったことにショックを受けていたのだろう。
とはいえ、香織は結構冷静だった。
風斗の言い分に、何のことかと詰め寄っている。
「なんだ、本当に何も聞いてないんだな」
「どういうことよ。教えなさいよ」
「あ、ああ……」
香織が迫ると、風斗はちょっと困ったような顔をしている。
(満は何も言ってなかったけど、花宮が知らないってことは、俺が言っていいんだかなぁ……)
てっきり満は香織にも教えていると思ったので、風斗はどうしようかと迷っているようである。
しかし、目の前では香織がものすごい顔で風斗を見つめており、段々とその圧力が強められている。
いくら幼馴染みとはいえども、その圧力の強さに風斗は耐えられない。
「分かった分かった。何を言われたのか教えてやるから、とにかく離れてくれ。変な誤解はされたくない」
「誤解って何よ」
風斗は観念したものの、余計なひと言でさらに香織を怒らせていた。
結果、学校帰りに寄ったいつものファーストフード店でおごらされる羽目になってしまった。
「いつものより豪華なやつを頼むなよな……」
「人の金で食べる食事はおいしいのよね。それはそうと、文句言わないの」
ほくほくとした笑顔の香織に対して、風斗は愚痴をこぼしている。
「まったく、アバ信で稼いでいるくせに、なんで俺におごらせるんだ……」
「それはそれ、これはこれ。失礼をしたら謝罪は当然でしょう」
「ぐぬぬぬ……」
失礼をした覚えはないのだが、なぜかまったく反論できない風斗である。
とはいえ、これ以上険悪な雰囲気にしても仕方ないので、風斗はとりあえず落ち着くことにした。
「で、満くんは何を隠しているのかしら」
席に着いた香織は、風斗にストレートな質問をぶつけている。
「いや、俺だって花宮に話してないとは思ってなかったんだよ。あいつ、妙なところで怖気づいたな?」
香織に聞かれて困る風斗ではあったが、もしやと思ってあごに手を当てながら苦い表情を浮かべている。
なかなか話そうとしない風斗に対して、香織は不満を募らせていく。
「どういうことなのか、早く教えなさいよね」
「ああ、分かった分かった。ストローを取り出して振り回すなよ」
「意地悪の罰よ」
「あのなぁ……」
いつもならやりそうにないことのオンパレードで、風斗もすっかり参っているようである。
「あいつは知られたくなかったとは思うんだが、お前にだから話そうじゃないか」
「うん、早く」
まだもったいぶる風斗に、香織は真顔で急かす。
これ以上じらすのは確かに意地悪かと思った風斗は、いよいよ香織に満が隠していたことを教える。
「クリスマスの日にコンサート? ルナちゃんの状態で?」
「ああ。それで、この一か月ずっと練習してるんだよ。学校があるから、他のメンバーと合わせられないってことで、一人でずーっとな」
「そっかぁ、アイドルになったものね。で、そのコンサートって、東京?」
「そうだよ」
「うわぁ、遠いなぁ……。知ってたらチケット買うのに」
満が光月ルナとしてコンサートに出ると聞いた香織は、本気でチケットを購入しようと考えたようだ。だが、会場までの遠さがネックである。ブイキャスとしての活動もあるので、諦めざるを得ないようだ。
「まぁ、もう販売終わっちまってるからな。当日販売もあるだろうが、場所が場所だからな」
「うう、諦めるしかなさそう……」
悔しそうにしながらも、香織はハンバーガーをむしゃりと食べている。半ばやけ食いである。
「まったく、振られたっていうのに、満のことは諦めてないんだな」
「それはそれ、これはこれよ。友だちとして応援するのは、当たり前の話でしょ?」
「確かに、そうだな」
香織の言葉に納得する風斗である。
それをいえば、風斗だって思いっきり振られた後である。とてもじゃないが人のことを言えた状態ではないのだ。納得しかないのである。
風斗は少しため息をついて、椅子にもたれかかる。
「あいつのことだ。近いうちに何かしてくるだろうな」
「自分への好意には鈍いけれど、満くん、気遣いは普通にできるものね。だから、余計に勘違いされるところがあるんだけど」
「そういうなよ。とりあえず、俺たちにできることは、あいつの参加するコンサートが無事に成功することだけだな」
「そうね」
話を終えた二人は、残っているハンバーガーセットをすべて平らげると、そのまま帰宅していく。
満が何かアクションを起こしてくるまで、ひとまず黙っていよう。そう心に決めた二人なのであった。




