第589話 仲直り
翌日、学校で顔を合わせた三人。さすがに気まずい。
どのくらい気まずいかといえば、一緒に登校しないくらいには気まずい。
家の位置などの関係でそもそも遠い香織ならまだしも、満と風斗が別々登校というのは過去にもあまりなかったこと。いかに異常なことか。
(顔が合わしづらい……)
三人の気持ちはこれでもかというくらい一致していた。
顔を合わせようとしてもすぐに視線を逸らすという状態は、その日の放課後まで続いた。
さすがに耐え切れなくなったのか、放課後、満は風斗と香織を捕まえる。
「ふ、二人とも、ちょっと寄り道していこう」
声をかける満だが、やはり目は見ていない。両手で二人の腕をつかんではいるものの、顔は合わせられないようだ。なにせ少し赤くなっている。昨日の今日なので、まだ恥ずかしいようだ。
態度はそんな感じではあるものの、声を聞く限り必死。満の気持ちを察した二人は、その誘いを受けることにした。
そんなわけで、三人はいつものファーストフード店へとやってきた。
下校時間帯はそこそこの賑わいで、いつも座っている席が埋まってしまっており、やむなく違う席に座ることになる。
テーブル席を囲んだのはいいものの、友人三人だというのにやっぱりどことなくよそよそしい。昨日のやり取りがかなり影響していうのは間違いなかった。
満は、二人を誘った手前、いつまでも黙り続けているわけにはいかない。思い切って、二人に話しかけてみることにした。
「ねえ、二人とも」
「な、なんだよ」
「なに、満くん」
やっぱり視線が微妙に満に向かない。それでも二人は声に反応している。
「昨日の話、二人とも本当でいいんだよね」
「な、何のことだよ」
満が具体的な表現を避けると、風斗がごまかすように反応している。
「もう、僕から具体的なことを言わせるつもり? しかも、こんな場所で」
風斗の反応を見て、満はものすごく不満そうに言葉を返している。風斗はばつが悪そうに視線を再び逸らしている。
これだけ三人の間の空気が悪いことは、今までにはなかった。昨日のやり取りは、相当三人の関係に影を落としているということだ。
「ちょっと。私が帰った後にまだ何かあったの?」
満と風斗の様子を見ていた香織が、思わず問い詰めてしまう。
「いや、こいつの女の姿の時に惚れてたことを、話しちまったんだ……」
あまりの剣幕に、風斗は正直に話してしまう。風斗の証言を聞いた香織は目を丸くして驚いている。
「本当なの、満くん」
満に確認をしてみれば、満は黙ったままこくりと首を縦に振っていた。
それを見て、この気まずさの理由がはっきりと分かったのである。
「なるほどね……。私が二人と気まずいのなら分かるんだけど、満くんと村雲くんの間も気まずいのはそういうことかぁ……。いや、知っていたんだけど、本当に口にするなんて」
「えっ、香織ちゃんは知ってたの?」
「ええ、ずいぶんと前からね」
香織の証言を聞いて、満はあんぐりと口を開けて固まっている。なにせ、二人の気持ちを自分だけが知らなかったのだから。
しばらくすると、満は頭を抱えていた。
「僕って、そんなに鈍いのかぁ……」
その姿勢のまま、しばらく頭を左右に振っていた満だったが、ふと止まって顔を上げる。
「ごめん、二人とも。僕のせいでずいぶんと心配かけちゃったみたいで」
そうかと思えば、謝りながら再び頭を下げている。二人とも満のこの行動は予想外だったようで、慌ててしまう。その慌て具合はどのくらいかというと、置いてあったドリンクのコップを思わず倒してしまいそうになるくらいだった。
「い、いいのよ。私たちは満くんの正確な気持ちが分かっただけで。ね、ねえ?」
「ああ、一方的に気持ちを向けているだけだともやもやしてたからな。はっきりしただけすっきりしたよ」
頭を下げてまで謝る満の姿に、周囲からは視線が集まっていた。そのため、風斗と香織は悪者にされてしまいそうなので、必死に言い繕っている。
そんなことの分からない満は、ガバッと顔を上げると嬉しそうな笑顔を見せていた。なんともまぶしい笑顔である。
「ありがとう、二人とも」
「あ、ああ」
素直にお礼を言われると、なんともくすぐったいものである。このお礼を言っている満が原因だというのに。
「えへへっ、今日は僕のおごり。よかったらもう一個頼んでもいいよ」
「いや、それは遠慮しておくよ。なあ、花宮」
「うん。さすがにそれは悪いと思うわ」
「てか、もうお金は支払い済みだろうが。おごりは次回に取っとくぜ」
「うん、分かった」
風斗と香織からそれぞれ断られた上に、風斗からツッコミが入る。だけど、この時の満はとても気分がよかったようで、笑顔のまま元気に返事をしていた。なんとも無邪気な満の姿に、二人揃って呆れてしまうくらいである。
しかし、おかげでさっきまでの気まずい雰囲気はどこへやら。
いつも通りの三人の雰囲気に戻って、適当におしゃべりをしながらハンバーガーを平らげたのだった。
帰り道はいつものように三人で仲良く帰っていった満だったが、家に帰ってきた時、まさかの来客に驚かされる。
家に帰った満を待ち受けていたのは、アイドルとなった光月ルナのマネージャーであるキマだった。
立ち上がったキマは、満にこう告げた。
「お待ちしておりました。次のお仕事の予定が決まりましたので、お伝えに参りました」
そう、久しぶりの仕事の話である。




