当然の選択
ユイナの公開処刑、その計画を聞いてから瑤華は片時もユイナの傍を離れないようにした。
指文字を使う事でアヤネに密かに情報を伝えてあり、情報の収集も頼んでいた。アヤネが集めた情報によれば、処刑に賛成しているのは人間側のみ。亜人族には伝わっていないが、人狼族に嗾ける事はあったようだ。
「…瑤華どうしたの?」
「ん?」
「最近ずっと怖い顔してる……」
「ッ、バレてた?」
アリアにすら隠していたのに勘付かれるとは思っていなかったのだ。
「多分ボクと……アヤネくらいじゃないかな?この前、勉強中にそれとなく瑤華の事を心配されたから…」
「まぁアヤネはね……」
「で、どうしたの?」
瑤華は少し悩んだ。
嘘を吐いた所でバレるであろうことは理解っているが、いきなり『アナタは殺されそうになってる』なんて言える訳が無い。
「………………ユイナは、私が何もかも敵に回すって言ったら一緒に来てくれる?」
「当たり前だよ」
「即答するんだ…」
「え、逆に他に選択肢あるの?」
ユイナは何の迷いも無く、何ならあっけらかんとしている。
「瑤華は勘違いしてるよね?」
「えっ!?」
「瑤華の人生を歪める権利がボクにはあるんだよ。そして瑤華にはそれに応える義務がある」
「……………重いね」
「誰かを好きになるのに軽くて良い訳ないでしょ?」
ユイナがどこまで察しているか、瑤華には計り知れない。
だが暗に『逃げられると思うな』と言われてしまっては、瑤華も信じるしかない。
「大丈夫、何があってもボクと瑤華は一緒だよ」
◇◇◇◇
目を覚ましてから1週間後、私に殲滅任務が命じられた。
両勢力とも事後処理が終わって、活動が活発化する頃合い。私の任務は王国軍の初手を挫くこと…………って言うのは表向きな理由。本当の目的はユイナの処刑を邪魔させないこと、アヤネが情報を掴んでくれて私の方でも裏は取った。
「ユイナ、行ってくるね」
「……無理はしないでね?」
「うん…」
怪しまれないように、感情を偽るのは私の十八番だ。
「アヤネも、私が留守の間は宜しくね」
「(コクッ)」
これで大丈夫……私は集合地点に向かった。
「お久し振りです、ギラさん」
「あぁ、久しいな」
今回私の移動を手伝ってくれるのは、師匠とは旧知の仲で前にも一緒に任務に出た事がある竜人族のギラさん。
スピードホリックの二つ名持ちでもある。
「早速ですが行きましょうか」
「躰は、大丈夫か?」
「問題ありません」
心配してるだろうに、私の要望通りにしてくれるギラさんを利用する様で少し心苦しいけど…ユイナを守る為には仕方無いから。
「では行くぞ」
「お願いします」
ギラさんの速度なら、3分あればアリア様の索敵圏内から抜けられる。
そしてその辺りは谷になっていて、人はほぼ確実に立ち寄らない。
「«アスリープ»」
「な、なに……ぉ…」
闇魔法で眠らせて、氷魔法で螺旋状のスロープを作る。
地面に着地したら盗っておいた簡易結界装置でギラさんを保護、これで寝てる間に魔物に襲われる心配は無い。
「さて、急いで戻らないと……」
監視がある所や、集落を避けた上での最短ルートは頭に入ってる。極力気配を消して、無音の全力疾走で革命軍の拠点まで戻った。
◇◇◇◇
「……寒い」
瑤華が出発してすぐ、ボクは地下牢に捕らえられた。
まぁ、事前にアヤネから指文字で聞いてたから驚かなかったけど。教わっておいて良かった。
「瑤華……帰って来たらお仕置きしないと…」
別に、考えがあったんだろうし、こっそり根回しもしてたみたいだから、そこに文句は無いよ?ただ、抱え込み過ぎてどんどん窶れていったのはいただけない。
「おい、出ろ!」
「何でボクがこんな事されなきゃいけないの?」
「黙れ!この犯罪者がっ!!」
看守が牢屋の鍵を開けて、強引にボクを引っ張り出す。
「痛っ、女の子の扱いがなってな──あぐっ!」
………痛い。
髪を引っ張られたと思ったらお腹蹴られるってなんなの…!?
「とっとと歩けノロマ!!」
「……」
「早くしろぉ!」
「がっ──」
頬が痛い。
…腫れてヒリヒリする……口の中気持ち悪い……。
「ゴホッゴホッ……」
「歩け」
「……」
これ以上暴力を振るわれるのは嫌だし……言う通りにする。
瑤華の事は信じてるけど…、ごめん。早く迎えに来て…。
◇◇◇◇
革命軍本拠地の鍛錬場は、コロセウムのような造りになっている。
そしてその中央に即席で作られた処刑台……そこにユイナは連れて来られた。
客席には多種多様な種族が集められていたが、彼等は共通してこれが何の集まりなのか知らない。
一部の者達はその光景の異様さを叫ぶが、水面に投げ込んだ石が波紋を作る前に、革命軍の重役が声高に演説を始めた。
大まかな内容としては、王国は非道な人体実験を行っていて、ユイナはそれを使って革命軍を呼び寄せて、その上で王国の精鋭を投入して革命軍の重役であるマリアとペネット、そして多数の死者を出した極悪人……だそうだ。
しかも死者の中には、増援部隊に組み込まれていない筈の人間族まで含まれている。数名のサクラに「仲間を返せ」や「お前の所為で」と叫ばせればそれらしくもなるだろう。すぐに憎悪は伝播して、まだ疑問を抱えていた者達も集団心理の渦に流されていく。
騒ぎを聞き付けたアリアが到着する頃には、その熱は彼女にも抑え切れないモノとなっていた。
一切抵抗しないユイナの姿は、罪を認めたものとして観客の眼に映ったのだろう。浴びせられる罵詈雑言にも熱が入る。
「これより、大罪人の処刑を始める!」
幹部の男がそう告げると、ユイナは強引にギロチン台に固定される。
これがまた酷い代物で、刃は錆びて欠けている上に高さが無い。苦しめて殺そうと言う意図が丸わかりだ。
これにはアリアも、穏便に済ませる方法を模索する事を諦めた。強引にでも止めなければ、革命軍は瑤華に蹂躙されかねない。
ユイナまで喪い、ある意味吹っ切れた瑤華が本気を出せば……アリアですら数分立って居られれば良い方だ。それだけの狂暴性を秘めている事を誰も理解していない。
壇上の人間を拘束せんと魔法を放とうとした……まさにその時だった。
「«千閃延太刀»」
不可視の刃がギロチン台を囲うように降り注ぐ。
突然の事に困惑しない者は居なかった。そんな状況を嘲笑うように空から現れ、音も無く着地した人影。それが誰か理解した瞬間、アリアは無意識に1歩足を引いていた。
「随分と楽しそうだね…」
「き、貴様ッ!何でここに……」
「………あぁ〜駄目だ、ユイナを怖がらせないようにって思ってたけど──」
ギロチン台に固定されて、剰え躰には複数の鬱血痕……最早隠そうともしない高濃度の殺気が溢れ出る。
「──首謀者はだぁれ?一応此処には恩義があるから、差し出せばそいつだけ殺すので許してあげるかもよ?」
「ふざけるな!おい、今すぐコイツを…ぎゃああああああっ!!?」
「抵抗するなら……殺しはしないけどダルマにしちゃうかもね?勿論、黙り決め込む奴等も…」
さっきまで司会をやっていた男の両腕が斬り落とされ、脳に痛みが届くまでの数瞬の間に傷口を一瞬で凍結させられた。異なる激痛がほぼ同時に襲って来たのだ、顔面のありとあらゆる所から汁を噴き出して、失禁までするのは仕方が無い……。
「ソイツだ!今腕を斬ったソイツが…」
そう叫んだのは、革命軍で3番目に偉い男の息子だった。
彼は必死に弁明を続けるが、残念ながら瑤華は別に首謀者を教えて貰おうとは思っていない。何故なら全て調べてあるから、当然仲間を売った男が首謀者(正確には父親)である事も知っている。
敢えてまだるっこしい事をしたのは……世話になった亜人族の為だ。
義理人情に厚い彼等は、今更革命軍を見捨てる事に消極的だろう。だからこそ瑤華は晒すのだ、彼等の命を浪費している輩がどんなに醜いモノなのかを。義理も何も吹き飛ぶくらい鮮烈に…。
「そうなんだ。でもさ、これだけの規模でしょ?1人で全部取り仕切るのは無理じゃない?」
「あっ…それは……」
「ねぇ……教えてくれる、よね?」
瑤華はこの上無い程の歪んだ笑顔をして見せた。




