脱落者
ちょっと書き貯められたから早めの投下を
◇◇◇◇◇◇◇◇
瑤華達が聖十二騎士と戦い始めた頃、マリア達は生存者の回収と革命軍本部への転送に勤しんでいた。
「結美、重傷者を連れて先に本部に行って下さい」
「でも!」
「姉様への報告もあります、信頼してる者にしか頼めないのです」
「……理解りました。師匠もお気を付けて!」
そう言ってその場を後にする結美の背中に、マリアはそっと…さようならと呟いた。
«転移»の術式は暫く転移先との接続が保たれてしまう。その類に得手なダルモンが居る以上、誰かが残って接続が絶たれるまで持ち堪えなければならない。でないと本拠地の場所が知られてしまう。
「マリア、生存者はこれで全部ダ」
「ありがとうペネット、ではアナタも──」
少しして戻って来たペネットも本部に送ろうとするマリア。
しかし彼女はマリアの額を指で弾いてそれを制する。
「水臭いナ〜。そこは『最後まで宜しく』だロ?」
「正気ですか?」
「アタシは強さだけで族長になったんダ、種族が回らない事も無いしアタシの後任も居ル……最後は幼馴染と一緒でも良いだロ?」
「……全く」
呆れたようでいて、マリアは手の震えが収まるのを感じていた。
どんなに取り繕っても死は怖い。ただ、ペネットと一緒ならちゃんと向き合える気がした。
「行きましょう、瑤華さんに頼ってばかりでは居られません」
「あぁ……絶対守るゾ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「«転送»」
「……行った…ナ…」
「えぇ。貴方も態々待っていてくれてありがとうございます」
最後の2人……瑤華とユイナを転移させたマリアは、隙だらけにも関わらず敢えて手を出さなかったギルドレッドにそう声を掛けた。
「礼は不要だ。俺は万全の彼奴と戦いたいが、見逃す訳にもいかなかったからな。丁度良い言い訳になる。それより良いのか?最後の言葉も無しに」
「余計なお世話です」
「必要無いゾ」
何を言っても、きっと瑤華にとっては重荷にしかならないだろう。だから2人は何も言わなかった。胸に凝りは残るだろうが、それを紛らわせるのはユイナの役目であって2人が気にするのはお門違いだ。
「問答は終わりで良いカ?」
「あぁ、始めようぞ」
そして、最後の戦いが幕を開けた。
幕引きまでは、そう時間が掛からなかった。
◇◇◇◇
「(あーあ、最後くらい"師匠"って呼ばれたかったなァ……でもお幸せに、だナ──)」
「(姉様、結美、瑤華さん……どうか、幸多からん旅路を──)」
◇◇◇◇
「……皆さん、目を覚ましませんね」
「そう…ですね……」
病室のベッドで眠る瑤華さんを見て、不意にそんな言葉が出てきました。
拠点に皆さんが戻って来たのが2日前。
マリアとペネットの首が王城前に晒された、と報せが入ったのが昨日の事です。未だ目を覚まさない瑤華さんは置いておくとして、結美さんは酷く泣き喚き、落ち着けるのにかなりの時間を要しました。
私は泣きませんでした。
覚悟していましたし、私が泣いてはエルフ族の皆に示しがつきませんから。
「何度も言いますが、結美さんはよくやりました。現場に向かった者達の中には、結美さんの治癒魔法のお陰で生き延びた者が沢山居ます」
「…………私が守れた人達は、私が助けられなかった人達より少ないです……」
「それは、私だって同じですよ」
件の双子の姉妹はここには居ません。
気を遣ってどこかで時間を潰しているようです。
「私は指示を出すだけ……命の危険には、久しく立ち会って居ません」
「それは……族長なんですから……」
「そう……何故私は、エルフ族の中で最も魔法に長けているのに最も戦場から遠い場所に居るのでしょうね……」
「……ごめんなさい」
「謝らないで下さい。寧ろ責められて当然だと思っていますから」
「……そんな事しても、私は……………」
それ以上は何も言わず、私が事後処理の為に病室を離れるまで無音のまま時が過ぎました。
「遅い!」
「ッ──」
日が暮れる頃、鍛錬場から音がすると思って見てみれば……そこには瑤華さんの弟子のアヤネさんが居ました。
ここに来てからずっと、彼女は1日の殆どを鍛錬に費やしています。今も、竜人族の戦士を相手に木刀での打ち込みをしている様です。
「…まだやるのか?そろそろ止めないと躰が壊れるぞ」
「────」
「……そうかよ、でも次で最後だ」
勝てる訳がありません。
声が出せない。経験値も足りない。ステータスも、背格好も、何もかもが劣っている人間の少女が竜人族と戦うなんて負け戦もいいところです。
「……こんばんは」
「あっ……こんばんは…」
アヤネさんを少し離れた場所から見ていた少女……ハルさんに声を掛けると、おずおずとした返事が帰って来ました。
「今日もずっとあんな調子ですか?」
「……はい」
「私には、自分の非力を誤魔化そうとしているようにしか見えませんが」
八つ当たりなのは理解っています。
彼女はよく頑張った、何度も瑤華さんの背中を守ったと聞いています。
……でも、どうしても怒りを発散したいとも思ってしまうのです。未熟者……きっとマリアがこの場に居たらそう言われているでしょう。
「…………アヤネが言ってました。『自分が弱いのなんて痛い程思い知らされた。だからこそ、エゴでも自己満足でも前に進みたい。自分を許せないこの気持ちを前に進む原動力に出来ないのなんて、そんなの瑤華の弟子じゃない。負けて蹲るだけの無力なバカにはなりたくない』って……」
「………」
「貴女の言う事はきっと正しいです。でも……どんなに惨めでも、空回りでも、前に進もうとする人を悪く言うのはやめてください!」
◇◇◇◇
私は何をやっているのでしょうね…。
マリアが居なくなって、弱者に八つ当たりした挙句、たったの20年すら生きていない人間に正論を叩き付けられて……。
「……今夜のうちに書類を片付けなくてはいけませんね…」
くよくよしてるだけでは居られません。
仕事をする為に執務室の机の引き出しを開けて……そこでやっとインクを切らしていたのを思い出しました。
代わりを探して他の引き出しを覗いていると……丁重に包装された箱が出てきました。そしてその箱を見て、私の動悸がまた乱れ始めます。
「これ、は……」
そっと箱を開けると、そこには儀礼用の模造杖が入っています。
これは、私が族長の座に就いた時にマリアが贈ってくれたモノでした。
『私が作ったので見栄えは悪いですから、実際の式典で使うのだけはやめて下さいね』
そう言われたのに、戴冠式でこの杖を使って怒られたりもしました。最近は使う事も無くて仕舞いっぱなしだったようです。
「………マリ…ア……」
ここなら誰も見ていません。
だから許して下さい……我慢するのだって大変なんですよ?
「マリア…ッ、おいて…行かないで……」
所詮私はお飾りなんです。
マリアが傍で支えてくれたから、今まで族長としてやって来られたんです……なのに、何故あの子が死ななければならないんですか!?何故……亜人族を戦力としてしか考えない革命軍の……人間の為に、エルフ族の安寧を祈ったマリアが……。
今日もそうです。
今日の会議でも人間は私に『死んでしまったのは悲しいが、即時人員の補充を要請する』と言いました。『瑤華の現場復帰も急がせろ』と……つまり、ただの捨て駒です。こんな事……到底許容出来ません。
「エレナ……貴女の願った革命軍はもう存在しません………」
だから、族長として決めなければなりません。
「マリア……いつも大きな選択を、半分背負ってくれましたね────これからは、ちゃんと私が背負いますからね」
……私達の、これからを。




