そして少女は勇者となる③
先週出せませんでした……代わりに今週が長い…なんて事はありません。
「ユイナ、左からの3本!」
「言われなくてもっ!」
2人の感応率は高く、アーツによって引き離されていたユイナのステータスは瑤華と並んだ。
お陰で、敵は他に割く余裕が無いほど圧されていた。
「«千閃延太刀・曲雨»」
瑤華の放った延太刀は、天高く飛翔した後に雨のように降り注ぐ。
無数の触手が木っ端微塵になり、辛うじて残った数本もユイナが斬り捨てるから瑤華までは届かない。
「«封天ノ舞»」
「«ジャッジメント・ドライヴ»ッ!」
「«狂月斬»」
「«ヘルブレイズ»、もういっちょ…«ホーリーレイ»!」
瑤華が右脚を斬って、ユイナが左脚を払う。
次の魔法までのタイムラグを瑤華が埋めて、放たれた光線がアヤネの声を奪った毒々しい色の触手を焼き尽くした。
「(次のラッシュで)」
「(決めに行こっか!)」
一瞬のアイコンタクト、そしてすぐに駆け出す2人。
陣形は単純、瑤華が前でユイナが後ろ。魔法で空中に足場を作って駆ける姿は、宛ら妖精の様でもあった。
一撃一撃に延太刀が込められた無縫艶舞«月蝕»で道を開き、ユイナは後ろで最高位魔法の準備。
その2人を、敵は絶対に排除すべき脅威として迎撃する……………それこそ、ペネットやマリアを完全に放置するくらいには。
「囲まれ──」
「任せて、«円相八環»」
一回転しながらの斬撃が8回。
«刈桜»の手の内が生み出した斬撃が、敵の再生と追撃を妨げる。
「«夜闇を照らす大花火»ッ!!」
先程とは比べ物にならない規模の大爆発が、緻密な魔力操作によって核を吹き飛ばさんと次々に巻き起こる。
果たして、核が剥き出しになるとユイナは拳を引き絞り、瑤華がそこを足場に踏み込むのを後押しする。
「無縫艶舞──«禍神喰»ッ!!!!」
技自体はシンプルな上段斬り。
それを瑤華は、7回の前宙と全身のしなりと捻りでブーストした。
切っ先が核と接触して、激しく火花が吹き荒れる。しかし破壊には至らず、鍔迫り合いになった。
「あ゛あぁぁぁぁっ、あ゛あ゛ぁぁぁあぁ!!!!」
全身の骨が軋み、筋肉が千切れて血が吹き出る。
両眼からは血の涙が溢れ、鼻血も止まらない。
……それでも瑤華は叫ぶ。
叫んで叫んで、ありったけの力を込める。
「砕けろっ!」
「とっとと死ねッ!!」
「ッ!」
ユイナとアヤネも合流して月夜魅を上から押し込むが、それでも刃は沈み込まない。
それを見たペネットが遅れて追撃しようとするが──
『これは!?』
『危ないッ!』
「ッ?!」
直感的に危険を察知した瑤華と、その思考が伝播したユイナがアヤネをペネットの方に突き飛ばす。
状況が理解出来ていないアヤネをペネットが辛うじて受け止めたが、2人は揃って地に落ちていった。
……その直後、眩い光の束がペネットが居た場所を消し飛ばした。瑤華とユイナも巻き込まれ、その姿は光の中に消えてしまった…。
◇◇◇◇
「瑤華ッ!」
回収したペネットが叫ぶ。
私の障壁展開も間に合わず、瑤華さんと勇者の姿は見付かりません。
「……撤退です」
「マリア、何言っテ!?」
「私達では歯が立たなかったではないですか!2人のお陰で死者は出ていませんが、それももう限界です……敵が動きを止めてる今のうちに──」
私の残存魔力なら、街の住民の半数までなら連れて拠点に戻れます。先を見据えるなら、撤退するのが最も合理的です。
「師匠、あれ……」
「っ……手遅れのようですね…」
瑤華さん達が斬り刻んだ触手が、殆ど再生を終えた──こうなってはもう勝てません。こんなの端から負け戦だったんです。
配下の魔道士達も、怯えながら身を寄せ合う結美と双子の姉妹も、瑤華さんの弟子も、ペネットでさえ浮かべるのは絶望の色。
「"古より在りて、呑まれし者は大罪人。その血は爆ぜる、その身は裂ける、その心臓は脈動を忘れる──」
聞こえて来たのは魔法の詠唱……その声の主に、俯いた皆の顔が上がりました。
「痛み、温もり、恐怖、憎悪、愛情……全ては絶対の氷の前に平伏すのみ。嘆け、狂え、幾許と無い狂騒を無限の寂寞に響かせよ──」
情けない……声を聞くだけで、こんなに安心するなんて……。
「──降り給え" «大紅蓮地獄»」
敵の躰に咲き誇る紅蓮の華、そして身も凍りそうな冷気が漂う中に、瑤華さんは立っていました。
「無事ですか?」
「…こちらの台詞ですよ」
「良かった。アヤネ、あと1分だけ背中をお願い出来る?」
「(コクッ!)」
瑤華さんは少し微笑んで、正眼に構えて眼を瞑ってしまいました。一斉に襲い掛かる触手達に、再び緊張が走ります……が。
「(«裂海»でもきっと追い付かない。でも、瑤華が頼ってくれた───応えたい!)」
アヤネさんの斬撃が間合いの10倍以上まで伸びて、まるで鞭を使うように触手を落として行きます。
「(無縫艶舞«裂海・一ノ太刀»……未熟な私じゃ躰への負担が大きい…っけど!1分程度なら絶対持たす!!)」
「……凄い」
戦いの中で成長する人は居ますし、瑤華さんもその部類です。
しかし、彼女の成長速度は瑤華さんをも上回っています!動く度に鬱血痕が浮かんでいるのに、剣の精度は増していくなんて…。
「動ける者は援護しなさいッ!ペネットも!」
「わかっタ………って言いたいけド、出番は無いみたいだゾ?」
「えっ?」
ペネットの視線の先には、上空から降って来る人影。
私がそれに気付くのとほぼ同時に、瑤華さんが居合の要領で刀を振り抜きました。狙いは……その人影です。
「«邪鬼爆血・葬»」
「っ…よし!受け取ったよっ!!」
瑤華さんの斬撃を受け止めた、あれは勇者ですか……姿が見えないと思ったらあんな所に居たんですね…。
「ぶっ飛ばせッ!」
「言われなくてもッ!!」
瑤華さんの氷魔法が勇者の剣を一回り大きくなるように包んだのをみて、私は咄嗟に土の魔法でその上から補強しました。
釣られて結美の炎が、仲間達の風が、剣をツヴァイハンダーにも匹敵する大きさまで増強させました。
敵の間合いに入る直前、振り被った剣が光を纏って……最早武器ではなく塔と形容すべき大きさまで膨張しました。
「«聖──」
「ユイナッ!」
「ユイナさん」
「「マスター!!」」
「行けっ!」
「やっちまえッ!!」
「──剣»アァァァァアァッ!!!!」
光の柱が敵を包み込み、その上半身ごと消し飛ばした瞬間………種族や立場に関係無く、その場の全員から歓声が湧き上がりました。
◇◇◇◇
「えっ!?あれは核じゃなかったのですか!??」
「はい、それっぽく見せておいて敵を誘き出す撒き餌みたいなモノです」
気絶したユイナを回収し、結美に治療を頼んだ瑤華が事情を説明する。
「さっき、核だと思っていたモノから直接攻撃を食らって気付きました。でもあの状況から本命を探す余裕は無かっただから私達はプランを変更して、本当の核がありそうな所を纏めて吹き飛ばす事にしました」
「普通そうはならんだロ…」
「ですね……あの技は一度使えば魔力が枯渇して意識を失うくらいの大技ですけど、ユイナの魔力だけだったら表面を焦がす程度だったと思います。でも、«共鳴»で繋がった私の魔力も上乗せすれば、加算じゃなくて乗算の威力を引き出せるかも知れない……そこに賭けました」
「かも知れない?」
クオリアが露骨に顔を顰めた。
瑤華はそれに対して申し訳無さそうに言葉を紡いだ。
「«共鳴»は互いの信頼度が高いほど効果を発揮する……魔力の受け渡しってなると、本当に一点の迷いも無いくらいじゃないと出来ないんです互いに成功を疑っちゃいけない、不安に思っちゃいけない……だから何も考えず、ユイナを信じました」
「結果論ですか……まぁ、他に手が無かった以上は文句を言いようもありませんね」
「そもそも!さっきの攻撃で2人共死んじゃったかと思ったのに…どうやって生き残ったの?」
結美の質問に、瑤華は気不味そうに目を逸らした。
「ごめん、必死過ぎて覚えてない……」
「……そっか、そうだよね…」
「………とにかく、今は勝った事を喜びましょう。本部に連絡して復興を────ペネット?」
「………」
「ペネットさん、どうかしたんですか?」
彼女の性格なら瑤華を抱き締めるくらいはしてたであろうペネット。
だがいつの間にか会話に加わらず、呆然と見ていた先には敵の下半身が転がっている。
「なぁ……本当に倒したんだよナ?」
「え、えぇ……」
「じゃあ何デ、普通の魔物みたいに躰が崩れないんだ?」
「…………………ッ?!!!」
そう、魔物やキメラは核を失うと機能を停止して躰が霧散する。
それがこの世界の仕組みだ。
しかし、皆が見詰める先には倒れこそすれ散る兆しの無い下半身。悪寒を感じたマリアが即座に魔法を繰り出す。だが、それより早くそれはスライムの様に変形。魔法を避ける様に跳躍した挙句、防壁の上に着地した。
「…………嘘だろ」
「まだ生きてるの……?」
ドス黒いスライムが徐々に人の形になっていく。
やがて瑤華と変わらない年頃の少女の姿に収まり、憎悪の篭った赤い眼で瑤華達を見渡して…一言。
「人ゲン…許サ、ナイ」
その一言が引鉄となり、少女の全身に苦しむ顔が無数に浮かび上がる。
『許サナイ、殺シテヤル』
全身をカクカクさせながら吐き出される怨みと殺気を前に、誰もが恐怖に膝を折った……。




