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半吸血鬼少女の往く道は  作者: 月弓
崩壊へと向かう少女達
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下地の完成


誰もが及び腰になる中で、心を殺す鍛錬を積んだ瑤華だけは駆け出していた。

次々と溢れ出る恐怖心を押し殺し、敵を引き剥がそうと脇腹目掛けて蹴りを叩き込んだ。


「……は?」


驚かざるを得なかった。

振り切った左脚が、膝より少し上から先が無くなっていたのだから。


「化け物ガッ!!?」


切り落とされた脚でアッパーされて、防壁から叩き落とされる。少女はそれが気に入ったらしく、瑤華の左脚を棍棒の様にして振り回す。


「瑤華ちゃん!」

「……痛いんだよ木偶の坊」


瑤華は落下する途中で«血操(ケッソウ)»魔法を発動、傷口同士を接合する事で戻って来たのだ。

瑤華の左脚を武器扱いしていた事が災いした。

宙返りの姿勢から脇腹に一撃を放ってから離脱、未だ恐怖の鎖から抜け出せない仲間を守るように構え直す。


「結美、ユイナ退がらせて。コイツの狙いはユイナだから」

「えっ、そうなの!?」

「コイツは、蠱毒の犠牲者の怨みが具現化した残滓みたいなモノ……さっきボコボコにしたユイナと私に、恨みを持ったって違和感無いでしょ?」

「わ、わかった!」


本当は、蠱毒に使われたキメラのうち1体にユイナの遺伝子を組み込んだ個体が居て、ユイナを吸収すれば効率良く強化出来るからなのだが、面倒なのでそれらしい理由で誤魔化す。

問題は……


「瑤華さん……倒せますか?」


そう、放たれる威圧感が少女の実力を物語っている。

先程の様に全員で相手取れば勝てるだろう。しかし現状、魔力が残っている者は少ない上にユイナも動けない。

それ等を加味した瑤華の判断は……


「打つ手は、あります……勝てる確証はありません」

「よし乗っタ」

「瑤華ちゃんも、ちゃんと生きて戻れるんだよね?」

「年長者が情けないですが……お願いします」

「……止めないんですか?」


瑤華はてっきり反対されると思っていた。

今度こそ、撤退を余儀無くされると。


「ここまでやっておいて逃げたりすれば、革命軍の大義は無くなります。もう、討ち取る以外の選択肢はありません」

「まぁアタシ等じゃあ手も足も出ないだろうからナ…バックアップは任せロ!」


マリアとペネットの言葉を聞いて、瑤華は少しだけ心が軽くなったのを感じた。

自分でも正体の理解らない、さっき強引に«ルナティック・ブレイヴ»を発動した時から聞こえる(・・・・)声に従わなくては行けない恐怖が、少しだけ自信に変わった。


「……勝ちます」

「おぉ、頑張ってくレ!」


瑤華は一度構えを解き、月夜魅を高々と掲げて叫んだ。


「降りよ、«月華荊棘鬼姫(ゲッカイバラキヒメ)»ッ!!!!」

















◇◇◇◇


多分、私が今まで瑤華と過ごして来た短い時間の中で、ここまで純粋に瑤華を"怖い"って思ったのは初めてだと思う。

額から伸びた2本の紅黒いツノも、全身に浮かんだ刻印も、少し変形した手脚も、驚きこそすれ怖いとは思わない

…次元が違う……技量とか経験とかは関係無しに、存在自体(・・・・)の格の違いが、恐怖を掻き立ててる気がする。


「許サナ、オマエ…」

「そうやって、望むままに殺すのは楽だよね」

「ゴロジテヤルゥゥウゥッ!」

「«破魔(ハマ) 血閃骸(ケッセンガイ)»」


……また見た事無い剣技。

紅い軌道を描きながらバツ字に振られた刀が、敵の躰に食い込んだ。


「イダイヨォォォォ!」

「グルジイグルジィ!!」


躰を埋め尽くしていた死相が幾つか刻まれて、耳を劈くみたいな不協和音が聞こえる。


「……アヤネ、大丈夫?」

「………」


自分は震えてるクセに、ハルは心配そうに私を見てる。


「(だいじょうぶ)」

「…でも辛そうだよ?」


もう、敵わないなぁ……。

内心凄く悲しい。だって、刀を振るう時の躰の動かし方の癖が、瑤華とは全然違うんだもん。

それだけで瑤華が、瑤華じゃない何かになってしまった気がして悲しい。

ほんの少し距離が埋まったと思ったのに、その何倍も突き離された気分だよ…。


「私に隠し事しないで。全部受け止めてあげるから」


私の恋人は、どうやら人たらしのきらいがあるみたい。

私は瑤華から目を離さないまま、ハルを抱き寄せた。

どんな結末でも、師匠の選択を見届ける為に。




「無縫艶舞«月蝕(ツキハミ)»」


後退しつつ繰り出される剣技。

足は細かく踏まれるだけで、力の流れを上半身の撓りだけで制御してる。かなり後ろに重心を置いてる筈なのに、形だけ見れば圧されてるのは瑤華なのに、月夜魅は着実に敵を斬り裂いてる。


「«黒天球(コクテンキュウ)»」


瑤華の周囲に浮かぶ、49個の黒い小球。

サイズは直径1センチくらいのソレが1つ、敵に向かって飛んで行った。見事命中したソレは、接触した瞬間消えて、同時に大きさの3倍くらいの範囲を削り取った。

着弾したのは左膝、関節の大部分が無くなって経たり混んだ好機を逃さず、瑤華はその首を落とそうとする。

敵もそれに気付いたみたいで、一瞬逃げに転じそうだったのを全力で反撃に切り替えてきた。

瑤華は難無く防ぐけど、その間に敵の自己再生が終わって振り出しに戻る。飛び退き際にもう1つ黒球が撃たれたけど、デコピンの容量で弾かれて被害を最小限に抑えられちゃった。


「何ですか…あの魔法は……??」

「師匠も知らない魔法何ですか?」


マリアさんが困惑してる。

エルフでもトップを争う魔法の使い手らしいけど、そんな人でも知らない魔法があるの??


「再生する挙句ちょこまかされるのは面倒だね……«忌太刀(イミタチ)・冬将軍»」


冷気を纏った月夜魅で無縫艶舞が再開すると、さっきまでとは状況が変わった。

一撃食らう度に、何なら刀身が掠めるだけで敵の動きが鈍ってる。冬将軍……その名前から凍ってるんだって予測は出来るけど、こっちも知らない技だから確信が持てない。

……と言うか、さっきから瑤華が圧倒的過ぎる。

速過ぎて全部目で追えてる訳じゃないけど、基本は斬撃で攻めて魔法で迎撃してる。敵はさっきの魔法をかなり警戒してるみたいで、常に退避を考えた半端な攻撃しか出来ない。


「もしかして、勝てるんじゃないか?」

「凄い、本当に勝てるかも…」

「行けー!殺っちまえぇ!」


皆の顔が明るくなる……けど、私は──私とペネットさんはその逆。

瑤華の事はユイナさんの次くらいに近くで見てた、何が出来て、何が出来ないのかを見極める時間は沢山あった。瑤華が何をしたのかは知らないけど、急激に上がった身体能力が瑤華の身の丈に合ってるとは思えない。皺寄せがどこにどう現れるのか、考えるだけでも恐ろしい。


「気付いたカ?匂いも全くの別人なんダ…」

「(……かせいしますか?)」


口の動きだけで伝わるか不安だったけど、ペネットさんには伝わったみたいで、諦めた顔で否定した。


「加勢しても、良くて足手纏いダ。出来る事は無いナ」

「……」

「信じて待ツ…それだけダ……」


笑っては居るけど、その手は震えていた。

気付いたのは、きっと私だけだと思う……。









◇◇◇◇



「ん、あれ…?」

「目が覚めました?」

「「マスター!」」

「僕は…一体────瑤華ッ!?」


視界の端に瑤華が写って慌てて飛び起きた。

寝惚けてる場合じゃない、加勢しないと……そう思って手を柄に伸ばしたのに躰は動かない。まだ完全に回復した訳じゃないんだ……。

音だけで理解る、超高速で緻密な戦闘。

こんな僕じゃ役に立てない、きっと皆もそう…。


「結美、僕はもう良いから瑤華を治療する準備をして」

「え、は…はい」


瑤華に何かが混ざってるのは感覚で理解る。

瑤華の躰に途轍も無い負荷が掛かっていて、強引にそれを遮断してるのも察した。だから、僕に魔力を使っちゃいけない。温存して貰わないとね。


「瑤華」


加勢は出来ない。

でも僕には出来る事がある。


「瑤華…勝て!これは命令だッ!!!!」

「月夜魅、喰らい付け!」


僕の方に一瞬顔を向けた瑤華が、すぐさま愛刀にそう呼び掛けた。

応えるように月夜魅から黒い影が伸びて、瑤華の右腕を締め上げて、ブチブチッて音と一緒に皮膚と肉を割いた。

……でも血は一滴も滴り落ちない。

全部月夜魅が啜ってるから。


「私のお姫様が呼んでるの」


血を吸った月夜魅はその形を歪ませて、膨張して別の形になる…。


「早く終わらせていっぱい褒めて貰うんだ!だから──そろそろ空気読んで死ね」


瑤華の右手に握られてるのは大鎌。

美しい……刀を握る瑤華は大好きだけど、自分よりも大きな鎌を操る瑤華も唆る。

瑤華はただ鎌を振るうんじゃなくて、手の中で回転させながら振るった。遠心力による威力の上昇と、回ってる所為で直撃のタイミングを図るのが難しい。

瑤華自身もヒラヒラとステップを踏むから、敵の対応が全く追い付いてない。


「……凄いなぁ」


それしか言葉が出ない。

だって、あんなに偏った重心の武器をペン回し感覚で扱うなんて僕でも出来っこない。縦横無尽に繰り出される斬撃は、確実に敵を消耗させていた。


「«狂裂(クルイザキ)»」


トドメを狙った一撃は、大振りな垂直斬りでワンテンポ遅れた。

その隙に敵は間合いの内側まで入り込む。


「死ネェェエェっ!!」

「態々近寄ってくれてありがとね」


瑤華は迷わず振り切った。

予測していた……と言うか敢えて隙を見せたんだから対応は容易い。途中で月夜魅を元の形状に戻すと頭頂から胸骨にかけてが真っ二つに割れた。ダメ押しの燕返しで敵を上空に弾き飛ばしてすぐさま左手に氷刀を握る。


「«千閃延太刀(チセンノノベタチ)曲雨(マガリアメ)»」


……幾らステータスが上がってるとは言え、«千閃延太刀»をノーモーションから成功させる事は出来ない筈──その手品の種を先に見破ったのはアヤネだ。


「(鎌を回転させてた時に……)」

「成程……最初からそれが狙いだった訳ね」


何で途中で刀から鎌に変えたのか──、«曲雨»の為の斬撃を稼ぐ為だったんだ。

あの技は一度斬撃が上空に向かった後に、降り注ぐように攻撃する。瑤華はその滞空時間を計算した上で、敢えて隙を見せて誘い込んだ。

果たして敵は、全身に傷を負って立つ事も儘ならない。

そして喉元から覗いていた……赤い魔石。

あれがきっと、このバケモノの核だ。


「あの巨体にこんな小さな核は反則だって。まぁ、もう存在ごと消すけど……«異世渡(コトヨワタ)し»」


瑤華の左手がその核に触れると、黒いナニカが纏わり付いてそのまま消えた。

少女の姿をした黒い器も、核を失ったからか灰のように散ってしまった。

勝った………そう認識するのに、誰もがかなりの時間を要した。


「終わった……やった、勝ったぞ!」

「…勝ったんですか……?」

「凄いのです!勝ったのです!!」

「終わった、凄い!瑤華ちゃん!!」

「あぁ、酒が飲みてぇ…」

「全く……でも、その気持ちもわかりますよ」


人間もエルフ族も吸血鬼族も、皆が抱き合って笑って涙する。

僕も重い躰を起こして瑤華に駆け寄って、倒れそうな所を間一髪で抱き留めた。







◇◇◇◇



「お疲れ様」

「……………ごめん、ちょっと……」

「……頑張ったもんね。血、吸う?」

「…ん、でも……飲ませて欲しい……」


眼と口から血を流す恋人に、僕は胸が締め付けられそうだったけど……でも、1番頑張った彼女をもう休ませてあげたいから努めて穏やかに接した。


「甘えん坊だね」

「……ご褒美…欲しぃ…」

「そうだね。瑤華が素直になってくれたんだから、断るなんて野暮は絶対に出来ないよ」


風の魔法で手首を切って、溢れる血を口に含んだまま瑤華の唇を奪って、少しずつ血を流し込む。

……凄い。コクコクって小さく動く喉が堪らなく愛おしい。さっきまでの気迫を感じさせない蕩けた眼に動悸が加速する。


「……、…ぷはぁ…」

「もっと欲しい?」

「…あとで……もう、ねむい……」

「ゆっくりお休み、瑤華」


そうして、瑤華が完全に意識を手放す──















──その直前だった。





「……は?」

「…な…に……??」


爆発音、熱気、沢山の悲鳴……。

さっき守り抜いた筈の街が……燃えていた。

それだけじゃない、エルフ族の魔法士が屯ろしていた辺りから肉の焼ける匂いがする。

何で、どうしてこんな事に!??

……そんな疑問は直ぐに消えた。

空に浮かぶ10の影……僕はそれをよく知っている。


「聖十二騎士ッ……!」


王国最強の矛が、寄りにもよって3位以下が総出でそこに居た。















ごめん、アヤネ……

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