小隊部門③
戦闘シーン書くの上手くなりたい…。
左右の刀を十字に構えた瑤華は、水平に構えた氷の刀を見せ付けるように横に振るう。
「──«漆閃延太刀»」
一瞬のタイムラグを挟んで、結美とランに3本ずつ、ゲオルグに1本の斬撃が直撃した。
計7本の斬撃に、会場の全員が困惑した。
瑤華が放った斬撃は、氷の刀を水平に薙いだ一撃だけ。予選で見せた飛来する斬撃でも驚いたのに、たった1回の斬撃で7回も攻撃出来るなら…それはチートが過ぎる。
「これは……確かに恐ろしいね……」
「マスター、何か気付いたのですか?」
「ううん。事前に瑤華からタネを教えて貰ってあったんだ。まぁ…説明されてても今初めて見るまで信じられなかったけど……と言うかまだ信じ切れてない」
ユイナは前日の鍛錬で、アヤネと一緒に«延太刀»の説明を受けていた。その場で実演はされなかったし、説明を聞いても半信半疑だった。
……瑤華曰く、振るった左手の刀は囮だ。
氷の刀は白いのに対して、瑤華の愛刀の玖音断は黒い刀身を持つ。
膨張色の白と収縮色の黒……人の眼は白に向き易い。加えてそれが攻撃を放とうとしているなら視線は釘付けになる。……その隙に、垂直に構えた玖音斬を僅かに揺らす。極僅かな幅を、より素早く、何度も……それによってたった一撃で無数の斬撃を飛ばせると思い込ませている。
「あれ?一撃くらいは躱してくれると思ったんだけど…」
「…バケモノだねェ……」
「ぐうっ……«ヒール»」
ランと結美は傷が深く、すぐには動けない。
瑤華はすぐさまゲオルグに攻撃を仕掛ける。
「本気で来なって……じゃなきゃ1分も持たないよ」
「このっ……!」
「無縫艶舞«刈桜»」
ユイナとの鍛錬を通して瑤華は成長している。
最初は不安定だった«刈桜»を、今は安定して繰り出せる。
ゲオルグの攻撃は掠りもせず、一気に50を超える攻撃を叩き込まれたゲオルグは全身から血が吹き出ていた。
「ヒャッハーッ!!!ワシとも遊べェッ!! 」
「…動きが単調だよ」
回復したランが瑤華を襲う。
しかし、瑤華は見透かしたようにそれを躱した。
「殺気を隠せって、何度も言ったよね?」
「ッ──!?」
背後から突き出された槍を中程で掴み、引き絞ると同時に1回転して逆に背後に回る。槍を手放さなかったランがつんのめってバランスを崩し、脇腹に瑤華の斬撃をモロに食らってしまった。
更に、氷の刀で地面に縫い付けて動きを封じる。
「無縫艶舞«穿荊棘»」
次に瑤華は狙ったのは……否、最初から瑤華の狙いは結美だった。
ヒーラーが居ては、幾ら斬っても交代されながら戦われるとジリ貧だ。だからトドメを無理に狙わず、行動不能にする事で結美を確実に斬るチャンスを窺っていた。
瑤華が放った«穿荊棘»は、全て突き技で構成される。
本来は『死ニ太刀』とすら言われる程に隙の大きい突き技を、"繋げる"事でその弱点を軽減した型だ。
瑤華が敢えてこの型を選んだのは……
──キンッ!
……結美が魔法障壁を張る事を予測していたからだ。
──ガガガガガガガガッ、ピキッ!!!
「ッ!?」
ただ一点を、狂ったような正確さで突き続けた結果……たったの2秒で障壁がヒビ割れ、程無く砕け散った。
「嘘ッ!?」
「遅い」
その言葉は結美に向けられたモノであるが、同時にゲオルグに向けられたモノでもあった。瑤華は背後から迫っていた斧を左腕で受けた。
幾ら瑤華と言えども、当然刃は肉を抉って肘から下を吹き飛ばした。だが、瑤華もタダで片腕を失った訳ではない。首を狙っていたゲオルグの攻撃は見事に去なされた。
だがそれでも、両腕がある分自分が有利と踏んだゲオルグが追撃を仕掛け──
「貰ったッ!」
「──馬鹿だね、私を低く見過ぎ」
紅い荊棘がゲオルグの首に纏わり付いた。
瑤華の意のままに動く血の荊棘が、ゲオルグの首の皮をズタズタに引き裂きながら瑤華の傷口に戻っていく。
「瑤華ちゃん……うぐっ!」
「……論外」
首を落とされた結美が最後に見たのは、荊棘が全て瑤華の体内に戻り、傷口同士が音も無く癒着した瞬間だった…。
◇◇◇◇
試合終了のブザーが鳴った。
ランはいつの間にか死んじゃってたみたい。
…左手を握ったり開いたりして、腕をぐるぐる回してみる。うん、もう元通りの感覚だね。私の腕から生えた荊棘は、闇属性に属する«血操魔法»で創り出したモノ。
血操魔法はその名の通り、血を自在に操る魔法。
形状、重量、動く軌道を私のイメージ通りに変えられる。イメージがより明確であるほど技の精度も上がるんだけど、逆にちゃんとイメージ出来ないと何も出来ない……面倒な魔法なんだ。
ユイナにはもう見られたけど、アヤネはどう思うかな……、なんて考えてたら控え室に自動転送された。
「ッ!」
「ただいま、勝ったよ」
「ッ…?」
「うん、大丈夫だよ。そういう魔法だからね」
「………」
「……予定だとすぐ表彰式らしいし、行こっか」
「(…コクッ)」
アヤネが何を考えてるかは理解る、でもまだ私が何か言う時じゃない……。
私達はその後、全校生徒の見ている中で優勝者に与えられるバッジを(心底嫌そうな顔をした教師に)制服に付けられた。
観客席も基本盛り上がりは無い、私があんな戦い方をしたから場が白けたんだろうね。アヤネを馬鹿にしてた奴等も黙ってるのは好い気味……、ただね…ユイナを始めとしたレギオンの皆の声援が場違い過ぎて辛い。逆に恥ずかしくなってくる。
「……」
「…アヤネ?」
「ッ!……………?」
「これ終わったらすぐ、私の部屋に来て」
「?」
賞賛の拍手も、優勝者へのインタビューも無く舞台裏へ案内される私達を、貴族達はどんな心持ちで見ていたのか────なんて、どうでも良かった。レギオンのメンバーに労われるアヤネを他所に、私は3人の所に向かった。
「……ねぇ、私まだ本気出せてないよ?」
「ッ……何しに来た……」
「一応上官なんだけど、まぁ良いや。要件は1つ、アヤネは正式に私達の方に勧誘する……それだけ」
「ぼ、僕達はお払い箱って…事ですか……」
「ううん。別に今まで通りやって貰うけど、3人は勇者を暗殺するにしても戦力に加味しない事にしたから。私1人で殺る」
「「「ッ!?」」」
私は暗殺部隊の隊長、実力を見て判断しなきゃいけない。
連携も真面に出来ない3人を庇いながらユイナを倒すのは無理。ランは攻撃に迫力はあるけど単調で、そもそもユイナからすればその迫力なんて無いも同然。結美は予想だにしない状況になった時に魔法の発動が遅れる。そしてゲオルグは……
「あとゲオルグ、この後医務室に行って精密検査して来なよ。どの麻薬を吸ったのか知らないけど、お前が服用したのがバレれば芋づる式にそのレギオンを潰せる」
「っ、何の事だよ……」
「気付いてないと思った?悪いけど、そんなに嫌な匂い漂ってたら気付くよ」
「お、俺は……そんな…」
「瑤華ちゃん、どういう事なの?」
いや、察して欲しかったな……。
「ゲオルグは薬物中毒なんだよ。昔嗅いだ、依存性が特に高い薬の匂いに似てる。私は薬物耐性があるから多分大丈夫だけど……もう手遅れに近いよ」
「……任務を熟せばなんでも良いだろ………」
「………………うん、手遅れみたい。じゃあね──」
丁度薬が切れたのかな?
ふらついて顔色が悪くなったゲオルグの意識を手刀で刈り取って、ランに預ける。
「正式に結果が出たら、私の権限でゲオルグは基地に戻す。あとは宜しくね…」
「あの…瑤華ちゃんは?」
「…愛弟子を待たせてる、早く行かないと」
「な、仲間なんだよ!そんなに冷たくしなくても……」
「……悪いけど、どんな精神状態であったとしても…ゲオルグがアヤネを愚弄したのは許せない…任務に影響を来すなら尚の事ね」
「「……」」
正直、初めて会った時から自己顕示欲の塊みたいな所があったし、驚きはしなかった。残念だとは思う……でも、嘆く事かと言われたらそれは違う気がするんだ。
◇◇◇◇
「ごめん、待たせちゃったね」
「(フルフル……)」
椅子に座って待ってたアヤネは……やっぱり、辛そうな顔してる。
「……率直に聞くけどさ、今どんな気持ち?」
「ッ……」
「満足?」
首を振って否定。
「悔しい?」
今度は肯定。
「それは……ゲオルグ負けたから?」
少し悩んで、否定。
「……最善を尽くせなかったから?」
「ッ…」
「自分が満足してないから、悔しい?」
アヤネは、泣きながら首を縦に振った。
血が滲むほど唇を噛み締めて、握った拳を震わせてる。……よく理解る。悔しくて、不甲斐無くて……でもそれを口に出そうとするだけで吐き気がする。その気持ちが、私はよく理解るよ。
「アヤネ、泣いて良いんだよ」
「……」
「私が思ってたよりも何倍も、アヤネは頑張った。今はそれで良いじゃん……言ったでしょ?私は真面に無縫艶舞を使うのに何年も掛かったって…。それをアヤネは、一瞬とは言え2週間で真似してみせた」
「……」
下積みや教え方が違ったりするし、比べるのは本当はおかしな話なんだけど……アヤネの方が会得するのが早いんだよ。
「アヤネは努力し続けてた、だから悔しくて泣く権利がある。悔しさをバネに前に進むのは、その後でも遅くないと思うよ?」
「ッ……!!」
アヤネはすぐに顔をぐちゃぐちゃにして大泣きした。
声が出ない筈なのに、私にはアヤネの声が痛いほど届いて来る。悔しい、自分の力で勝ちたかった、もっと上手く動けたのに……その想いが、強さへの原動力になる。
「……お疲れ様、頑張ったね…」
瑤華を慰めててる私まで泣きそう…。
師匠もこんな気持ちだったのかな?
……私、師匠にこんな温かい想いになって貰えてたのかな?
◇◇◇◇
「…あぅ………ぁ……ごめ……なさい……うぅ…」
「……今日は、一段と酷いね…」
ユイナが魘される瑤華をベッドの上で抱き締める。
ガタガタと震えて、許しを乞う姿は見るに堪えないが、ユイナに出来る事は抱き締める事だけ。
「瑤華……」
ユイナも最近、瑤華とどう接するべきか理解らなくなっていた。瑤華は日に日に酷い魘され方になっている…幸福を受け入れられるのを待つより、全てを暴露した上で一緒に居るべきなのでは……と。
「……はぁ…僕に、強引にキミを僕のモノにする勇気があったら……何か変わるかな?」
当然、答えは無い。
やっと落ち着いた瑤華を強く抱いても、胸の内に巣食う不安は消えてくれなかった。




