小隊部門②
今回ちょっと短いです。
日を跨ぎ、小隊部門本戦。
準決勝を勝ち進んだ瑤華とアヤネは、控えで作戦会議をしていた。
「アヤネはゲオルグの相手をして」
「(コクッ…)」
「正直、分が悪いとは思ってる……でも、重量級の相手の攻撃を受け流す良い練習になると思う」
『どこまで行っても鍛錬なんですね』
「当然。本当に勝つべき時の為に、何度も敗北は味わって置く方が良いよ」
『瑤華も、そうだったんですか?』
「私は…師匠に『革命軍を頼む』って言われて、早く強くなろうと躍起だったからなぁ……負けを無駄にした事は無かったけど、焦り続けて余裕が無くなってたね」
当時の事を思い出し、瑤華は頬をポリポリ掻いた。
「もう誰も失いたくなくて、誰も私の中に入り込まないように振舞ってた……でも、疲れちゃって……」
「……」
「いつしか、優しくて明るい女の子を演じるようになった。まぁ、ここに来てユイナにその仮面も剥がされたけど……」
悔しいなぁ……そう呟く割に、顔は嬉しそうだ。
「私からしたらそれだって負けの一種だよ。お腹の探り合いで、簡単に負けた…。悔しかったけど、ユイナの着眼点は勉強になった」
『私は、瑤華と同じですか?』
「……ううん、もう違うよ。確かに出逢った頃は、アヤネは結果ばかり欲しがってた。でも今は、大事な事に気付いてるでしょ?」
『努力した過程』
「そう。1回勝っても何の役にも立たない。でも1回勝つ為の努力は、2回目に繋がる……それが理解るなら、私とは違う」
瑤華はずっと、2回同じ相手に負ける事を恥じていた。1回目はまだ許せた、しかし2回目は自分が成長していないと思い込んでしまった。
焦った瑤華は、強者との実力差がすぐには埋まらない事にも、戦った相手も成長する事にも気付けなかった。
「…そろそろウォームアップしよっか」
「(…コクッ!)」
瑤華は正直、アヤネがゲオルグに勝てるとは思っていない。それでも、アヤネには負けた時に正しく立ち直れるようになって欲しかった。
──ストレッチで躰を解していると、中継画面が切り替わって結美達の決勝進出を報せた。
◇◇◇◇
「……」
「…」
「………」
私達の間には、相変わらず重苦しい空気が流れていました。先程の戦いも辛勝、連携なんてありませんでした。
「……結美」
「何?」
「どうしていつも魔法のタイミングが遅いんだよ…、お前が遅いから俺が何度も囲まれただろ……」
「……何度も言ってるけど、タイミングはいつも通りで、あれ以上早く出来ないの!瑤華ちゃんが埋めてくれたタイムラグを無理に詰めるから…」
「ゆ、結美さんの言う通りですよ……」
「…大体、お前がいつも戦闘が始まる度に勝手な事するから連携が取れないんだろーがッ!」
「それも瑤華ちゃんがずっとカバーしてたの!」
結局私達は、瑤華ちゃんにおんぶにだっこだったんです。いつだって動き易いように場面を作って貰って、上手くいったのを自分の実力と勘違いして……、その手助けが無くなった途端こんな調子です。
届かない……努力は人の何倍もやってるのに、私は瑤華ちゃんに追い付けない……どうして…?
「そもそも、なんであんな何考えてるかも判らん奴がリーダーやってんだよ……」
「本気の瑤華ちゃんの前で1秒も立ってられない雑魚が何を言ってるの?」
「……あ?」
「ふ、2人共喧嘩は……」
許せない、瑤華ちゃんの悪口を言うなんて。
瑤華ちゃんがどれだけ重いモノを背負ってるかも知らないクセに……。
「俺が本気出せば、あの女なんて簡単に倒せるんだよ!」
「じゃあその本気を出してよ、どうせ無理だけどね!」
「そうやってあの女の手下やってて恥ずかしくないのか負け犬ッ!」
「お前なんかが瑤華ちゃんに勝てると思ってる方が恥ずかしいよっ!! 」
「け、喧嘩は──」
『決勝戦開始15分前です。出場選手は準備して下さい。繰り返します……』
アナウンスのお陰で、私達はこの場で争うのを止める事が出来ました。
…でも、こんな状態で戦っても……そう考えると、悔しさよりも先に諦めが心に浮かびました…。
◇◇◇◇
〜決勝戦〜
決勝戦のマップは、遮蔽物の無い草原フィールドでした。結美さんが魔法職なので不利になると一瞬思ったけど、多分大丈夫です。
瑤華が任せてと言ったって事は、心配しなくて良いって事ですから。私はゲオルグさんを倒す事だけを考えるようにします。
「緊張してる?」
「(フルフル)」
「そっか、ならあとは頑張るだけだね」
試合開始まであと少し。
今回は隠れる場所も無いので、2つの部隊が50メートルくらいの距離で転送されました。重苦しい空気の中で沈黙を破ったのは、ゲオルグさんでした。
「おい瑤華、俺とサシで勝負しろッ!」
「私と戦いたいならアヤネに勝ってからにしてよ、お前の駄々に付き合う義理は無い」
「…んだとゴラァ!」
……瑤華、いやーな顔してます。
煽って煽って、冷静な判断が出来ないように仕向けてるんです。そんな事しなくても強いのに…と言うか私の獲物なのに……。
『決勝戦開始まで、10…9…8……』
唐突に始まったカウントに、全員が表情を改めます。
最初は手筈通りに……
『…3…2…1……始め!』
合図と同時に地面を蹴った瑤華が、ゲオルグさんを何百メートルも向こうへ吹き飛ばしました。2人が呆気を取られた隙に、私はゲオルグさんを追う──瑤華の作戦が見事に決まりました。
「邪魔だ退けッ!」
「ッ──!」
──間一髪、ゲオルグさんが振り下ろした斧を受け流す事が出来ました。
「──!」
「っぶねぇ…」
でも……衝撃で腕が痺れてカウンターが決まりません。今度は下から振り上げられる斧を後転しながら避けて、また最初の硬直状態。
「雑魚は下がってろ──«アースシェイカー»ッ!」
「(地面がっ!? )」
「オラッ、墜ちろッ!」
「(焦らないで────ここだっ!!)」
地面が盛り上がって空中に投げ出された私を叩き落とそうと迫ったゲオルグさんの斧を、今度こそしっかり受け流せました!
でもここで終わっちゃいけない……斧の重さで先に落ちていくゲオルグさんの着地場所を予測して、魔法で突風を巻き起こします。
「ぐっ、視界が……」
「(貰った!)」
着地の寸前に利き手の腱を断ち斬って、風で作った道を滑って距離を取ります。追撃しなかったのは、闇雲に振られた斧でも至近距離だと躱すのが難しいから。
…案の定振り回された斧は、誰も居ない空間を斬り続けていました。
「ッ……調子に乗るなあぁぁぁああぁぁあぁっ!」
「(────ッ!?)」
危険だ……本能がそう叫んで、一目散に逃げようとした時でした。全身に強い衝撃と痛みが走って……遅巻きながらも、電撃を受けた事に気付きました。
狭窄する視界の隅でゲオルグさんを捉えたのに、躰が全く動かな────
◇◇◇◇
……痛い、痛い。
何度も地面に叩き付けられた衝撃と、両脚の膝から下が吹き飛んだ痛みでどうにかなりそう…。
「…まだ生きてるのかよ……」
「ッ……」
「……何だよその眼は…。反抗的だな──」
髪を掴まれて、何度も地面に叩き付けられる。
ただでさえ短い髪が、根元からブチブチ音を立てて千切れていくのも痛い。叩き付けられる度に肺から空気が抜けて息が出来ない、助けて……
『助けてと言う前に刀を握って、願ったら助けてくれるヒーローなんてこの世界には居ないよ』
…そうだ、私は──
「……もういいや、死ね」
「──」
振り下ろされる斧が──とてもゆっくりに見えます。
……違う、斧だけじゃなくて…世界の全てが遅く感じるんです。
『死を間近にした時、世界がゆっくりに見える事がある。走馬灯の一種で、実はそうなった時に無縫艶舞は発動し易いんだ』
そうだ…瑤華が言ってたのはコレだったんだ。
『何十秒も掛けて深呼吸するの。その時、脳が本来の許容量以上の空気を取り込んだと錯覚する。その感覚を現実で再現するには、さほど時間が掛からない……』
──この瞬間だけ、全身の痛みが消えて力が湧いてきました。徐々に速くなって…元の速さになっていく世界の中で、私が振るった刀は────
◇◇◇◇
──その瞬間を直接見ていた者は、決して多くない。
だが観ていた者は口を揃えて言う、何が起きた…と。
──ギリリリリリッ…ゴォッ!!!
鎬で去なされたゲオルグの一撃は、大地を大きく割く程の威力だった。逆にアヤネは踏ん張りの効かない、殆ど腕力だけでその一撃を受け流したのだ。
…そしてそれだけではなく、受け流した勢いそのままに刀を振り抜いた────その風圧だけで、ゲオルグの肩から脇腹までに紅い筋を刻んでみせた。
困惑するゲオルグ、そんな彼を他所にアヤネは躰を抱き込むようにのたうち回っている。
一瞬とは言え、強引に無縫艶舞を使ったツケは重かった。全身の皮を剥がれ、痛覚神経に直接針を刺されるような痛み。アヤネは声が出せないから静かだが、仮に声が出せたとしたら……恐らくは人間が出したとは思えない怒号が響いただろう。
「ッ〜〜!!!……」
しかし、その苦しみも長くは続かない。
蓄積したダメージによってアヤネは強制退場、傷を負ったもののゲオルグは生きている。
アヤネの刃は、あと少し届かなかった。
「……お疲れ様、上出来だよ」
だが、届かなかったから無意味だった訳では無い。
瑤華はその足跡を視ていた。血反吐を吐いて、泣きながらでも前に進んだアヤネを、瑤華は心から尊敬する。
「……で?あれほど格好付けてた癖に、随分とボロボロだね」
「…まぐれだろ。雑魚に何を教えたって、本当に強い奴には敵わないんだよ」
「何?自分が無縫艶舞を教えて貰えなかったのを根に持ってるの?」
それまで瑤華に遊ばれていた結美とランは満身創痍、そんな結美に治癒魔法を強要したゲオルグが、苛付いた口調で答える。
「当然だッ!お前は仲間の俺達に何も教えなかったのに、あんな奴に……」
「……ゲオルグじゃ何年やっても無理だからね」
結美達に回復の時間を与えて、その上で完膚無きまでにするつもりだった。だが、ゲオルグの発言は瑤華の怒りを焚き付けた。
「自分の弱さを認めない、失敗を他人の所為にするお前には一生掛けても会得出来ないよ」
「何だとッ……」
「教えなかったんじゃない、お前達が教えるに値しなかっただけ。結美は弱い自分を、私を持ち上げる事で隠そうとする。ゲオルグは弱さを他人の所為にする。ランは人格が変わるのを良い事に、自分の実力を自分とは関係無いって他人事にする」
「「「ッ……」」」
「勘違いしてるみたいだから教えてあげる。アヤネは弱いよ……すぐに泣くし、人の何倍も努力しないと何も出来ない。でも、声が出せない事やアーツが使えない事を言い訳に立ち止まったりしない。お前達の強さはね、アヤネの弱さよりもずっとずっと脆いッ!」
氷で刀を創り、左手に握る。
休憩はもう十分与えた……あとはその身に叩き込ませるだけ。
「悪いけど、私だって怒ってるんだ……手加減なんて出来ないよ」
これは、瑤華が招いた結果でもある。
結束力を高める為に、連携の穴を何も言わずに埋め続けて来た結果、3人は自分の実力を見誤ってしまった。それが途端に瑤華無しで、連携が成立しなくなり、4人に亀裂を生んだ。
特に、"合わせる"事を知らないゲオルグにとっては、連携が上手くいかない状態は酷いストレスだっただろう。
……瑤華が、その虚像を打ち砕かなければならない。
「……来ないの?なら私から行くよ──」
予選で見せた«延太刀»だが、ただ魔力を込めた程度で瑤華が満足する筈が無かった。
左右の刀を十字に構えた瑤華は、水平に構えた氷の刀を見せ付けるように横に振るう。
「──«漆閃延太刀»」




