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霧形の獣⑮


彼女の叫びに視線を向けて見てみれば、そこではすでに4体の使役体が生み出されようとしていた。最初に遭遇した時と同じ、普通の狼と同じくらいのサイズの使役体は霧形の獣本体から分裂するように出現すると即座に俺達4人に向けてそれぞれ走り出す。更には、


「咆哮もセットか……!」


使役体を生み出し終えた霧形は、そのままの場所で今度は口を大きく開いていく。咆哮で動きを止めた上で襲わせようという事か。


時間がない。3連続で外れは引かないと思うが、ここは時間を稼ぐために命中重視で行く。


「コネクト:<<アイスバレット>>!」


生み出された氷柱たちは即座に射出され、俺の方へと向かってくる使役体へと飛来し──

氷柱に当たった使役体は瞬く間に()()()()


は?


一撃で一瞬で消滅だと?

<<アイスバレット>>はそこまで強力なスキルじゃない。なのに以前遭遇した時のように少しずつ霧散して消えるのではなく一撃で消失? まるで先ほどの黒の弾丸と同じようにぶちあたっただけで消えるだと?まるで相殺したように?


──しまった!


俺は霧形の本体へと視線を向ける。大きく開けられた口からはまだ咆哮は発せられていない。そしてその代わりに黒い何かが生まれ巨大化していく。


やられた! 外見で判断してしまったがこいつらは使役体ではなくさっきの黒い弾丸とかわらないホーミング性能をつけただけの誘導弾で、いわばただの目くらましだ。だいたいあんな簡単に使役体を生み出せるのなら、これまでの戦闘でもっと何度も使ってきているだろう。


本命は本体が生み出しているであろう黒い何かだ。そしてアイツは今──タツミの方にその口を向けている!


「岩鉄ぅ!」

「コネクト:[不滅の要塞]」


黒い何かはすでに奴の口いっぱいに広がっている。こちらの妨害は間に合わないと咄嗟に上げた声に反応してくれたか、或いは自ら判断してかはわからないが岩鉄のスキルの宣言が響き、そして


次の瞬間、黒い閃光が走った。


「コネクト:<<アラウンドシールド>>」

「コネクト:[聖者の結界]」


岩鉄とフラットの事が聞こえ、その直後に岩鉄の姿が黒の中に消えてその向こう側にいるハズのタツミとフラットの姿が見えなくなる。それは黒い極太のようなレーザーのようなものだった、実態はエネルギーの奔流のようなものだろうが。


時間にすればほんの2秒程度。霧形の口から放たれた黒いレーザーは戦場を駆け抜け──そしてそれが通過した後には──


岩鉄が両腕を顔の前でクロスさせて、立っていた。

その腕が開かれ……


彼は右腕でガッツポーズを見せた。さらには、背後にいるタツミに抱えられたフラットも手のようなものに体を変形させてこちらに手を振る。


危険にさらしてしまったので結果オーライとは言えないが、ちらりと見えたタツミの姿は怪我一つ負っていないように見えた。


「完璧な仕事だぜ……!」


ディフェンス組は見事なまでに役目を果たしてくれた、後は前衛組が仕事をするだけだ!


「同じ手は通用しないからね!」


怒鳴るような声と共に、メイが霧形の顔に爆撃を叩き込む。奴の顔が抉れ、そして


「修復しない?」

「それにサイズも小さくなってるわ」


いつの間にかすぐ横に来ていたシードが俺の呟きに続けて言ってくる。

確かに見れば先ほどより一回りサイズが小さくなっているような……そうか!


「さっきのが最後の切り札だったんだな……!」


大きく消耗するためこれまで使わなかったが、力をどんどん削られていったため奴は一か八かの賭けに出たのだろう。そして奴はその賭けに負けた。


となれば次にやつがする行動は、


「……だよな!」


力を大きく消耗したためだろう、先ほどまでは常に復元していた傷も戻せず気が付けば触手も消失していた霧形は、その身を大きく翻し駆け出した。俺達に背を向けて。


この地に縛られているかと期待したが逃亡は可能か。だが


「逃がすわけないよなぁ!」


他のメンバーにわざわざ指示を出す必要はない、俺が声を上げた時にはすでに皆動き出している。

最初に動いたのはリアルだった。


「コネクト:<<疾風怒濤>>!」


彼女は高速移動スキルで瞬く間に霧形の進行方向に躍り出ると、駆けてくる霧形の姿を見据えて刃を構えスキルを放つ。


「コネクト:<<断空の舞>>!」


彼女の周りに無数の空間毎切り裂く刃が生まれ、その刃が正面から駆け込んできた霧形の姿をズタズタにしていく。だが、まだ黒い獣の動きは止まらない。


後方でシードがスキルを放つ声を聴きながら、俺はメイに視線を送る。彼女は視線に気づき頷きを返してきた。


よし!


「コネクト:<<マークポイント>>!」


俺はこれまでずっとギルドハウスのロビーに設定したままにしていたテレポート先の設定を行う。目標は──奴の進行方向の先!


「コネクト:<<テレポート>>!」


視界が切り替わる。

そしてその瞬間に、シードが放った巨大な矢が霧形を地面にたたきつけた。

完っ璧なタイミングだ!

俺はその光景を視界に収めながら、腕を払うようにしてスキルを放つ。


「コネクト:[樹氷の森]!」


図体がでかいせいで刺さらなそうだったからあまり使っていなかったが、サイズが縮んだ上にシードの矢によって地面に押し付けられた状態なら話が別だ。地面から生えた幾本もの氷の棘が次々と黒い獣の体を貫いていく。

最早元が狼の姿をしていたなどと誰も想像できないようになり、氷の棘で磔にされた霧形の獣はそれでもまだ藻掻き動いていた。


「本当にしぶといね」


なんとかして逃げ出そうとズタボロになった体を動かす霧形の元に、メイが近づいてゆく。


「コネクト:[機雷網]」


氷の棘に捕らわれた霧形の獣の前に十を軽く超える機雷が出現し、そして


「コネクト:[轟爆雷]」


彼女が生み出した爆雷を放った直後、激しい爆発が起こり霧形の姿を包み込んだ。彼女の放った爆雷の爆発に先に散布した機雷が連鎖して誘爆し、大爆発を起こしたのだ。


「さて……どうだ?」


俺は次のスキルを構える。もし奴がこの爆発を耐えきったら即座に次のスキルをぶち込めるように。

だが、爆発が消えた後にはもはや黒い狼を模した獣の姿は欠片も残っていなかった。そこにはただの黒い球形の塊のみが転がっている。


それを見下ろしたメイが無言でナイフを突き立てようとして、だがその刃は欠片も刺さる事もなく弾かれる。


「ふむ」


それを見たメイが、こちらを振り返って聞いてくる。


「これ持たない方がいいよね?」

「使役体の生体エネルギー吸収の話もあるし、やめた方がいいだろうな。もう大丈夫だろうし見てるから、タツミ達を呼んできてくれ」

「りょ」


数分後。


「間違いないです。ヤスツナがこれが霧形の獣の本体といっています」


メイに連れてこられたタツミは、黒い球体を一瞥しただけでそう言った。


「それじゃ後はこれをヤスツナで突き刺せばいいの?」


リアルの問いにタツミは頷き、鞘からなんとかしてヤスツナを抜き放つと俺の方を見てきた。俺はその視線に頷きを返してやると、彼はぎゅっと柄を握る手に力を込めてヤスツナの切っ先を球体に向けて


「行きます」


ゆっくりとした動きでその刃を突き立てていく。

先程メイのナイフを完全に弾いたその球体は、今度はヤスツナの刃をまるで豆腐か何かのように何の抵抗もなく受け入れていき、そして


パァンッ!


風船の弾けるような音と共に、消失した。


「なんか、最後はあっさりだね……」


じっとその光景を見守っていたリアルがストンと腰を落とす。


「これでご両親達も?」

「はい。本体が消失したことで植え付けられた”苗”も消失するそうです。父さん達も無事のハズだと……」


いろんな感情が沸き上がってきているのだろう。震えた声と潤んだ瞳で喋るタツミの頭を撫でてやろう、そう思ったのとほぼ同時足の力が抜けて俺は地面へ尻もちをついてしまう。


「リセねぇ?」

「あー、大丈夫。気が抜けたら力も抜けただけ」


俺はそのまま勢いに任せて地面に体を投げ出した。髪が汚れるがもういいや。


これで風呂に入れるからな!







・コンボスキルについて

[機雷網]

<<ブラストマイン>>+<<インクリーズエクスプローシブ>>

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