どっちがそうなの?
結局出発は6日後の朝となった。
ルート選定は元々のアルテマトゥーレの記憶をもとに、うちのメンバーの中では一番交遊が広いメイが集めた情報と合わせて女性陣3名で行ってくれた。男性陣は俺を含め特にここだというものはなかったので(岩鉄が装備品のために、その辺が多く取り扱われている街の滞在を希望したくらいか)、これに関しては任せっきりとなった。まぁ新設したレクリエーションルームでごろごろ寝転がりながら3人で楽しそうにワイワイやっていたようなのでいいだろう。
俺の方としては、長期で家を空けるための準備に時間を割いていた。細かい所で言えば水回りの掃除とかもしていたし、村の方で特に親しく信用できる相手に長期で不在になる事も伝えておいた。
外の花壇の整備等に関しては、そこに植えた花とかを購入した店舗の方に数日おきくらいでメンテしてもらうように依頼した(当然有償で)。
それ以外にも荷物の準備や細々としたことをこなしていたので、出発の日まではあっという間だった気がする。
そんなこんなで、俺達は6日目の朝最低限の荷物を持ち出発した。
そう、最低限の荷物だ。手ぶらではない。
俺達には拡張インベントリがあるため、基本的に持ち運びにくいものや重たいものはそっちに放り込んできた。だが武器までしまってしまうと万が一不慮の襲撃を受けた場合に咄嗟の対応がしづらくなるし、何より拡張インベントリは現状広まっている機能ではないので人前で大っぴらに使いづらい(こないだ感づかれたしな……)。それにそもそもギルドハウスを大きく離れて旅をしているのにほぼ手ぶらだったら使ってる所を見られなくても、何か特殊なアイテムとか持ってるかと疑われそうだ。
その辺の事を話し合った結果、装備品の一部や頻繁に使用するものは普通にバックパック等に入れて持ち運ぶことになった。そもそも今回は街道沿いの移動しかする予定がないため、基本的に馬車での移動だ。荷物があってもそれほど苦にはならない。
まぁ馬車移動、連日乗ってると尻や腰にそれなりにダメージが来るんだが……そのうち大陸間横断鉄道とか誰か作り出さないかねぇ。最近はファンタジー系の作品でも鉄道やそれ擬きが出てくるのは珍しくないし。
とはいえ現状存在しないものはしょうがない。
俺達は馬車に揺られ、少しずつ尻にダメージを受けながらも数日旅を続け、一つの街にたどり着いていた。
ルドガルド。俺達のギルドハウスの近くにある都市より更に規模も大きい大都市だ。
「ええと……こっちだよな」
そのルドガルドの街の一角、観光向けの施設や商店が多く並んだ中心街よりやや外れた街並みの中を俺とシードは歩いていた。
「……うん、あってると思う」
手元を見ながら頷くシード。その手元は俺の目からは何も見えていないが、彼女の目には俺の手元にあるものと同じものが映っているはず。
俺達は今、ウィンドウに映した地図のスクショを元にある建物を探していた。他のメンバーはいない、シードと二人きりだ。
二人っきりな理由は単純で、これから向かう建物にいる人物……ぶっちゃけていうと武雷牙亜に会いに行くためだった。
先のグレン戦で重傷を負ったらしいアイツが、現在この街に滞在しているらしい。なんでも所属ギルドが拠点の一つとしてこの街で屋敷を買い取ったらしく、今はそこを拠点に活動しているとのことだった。
……大手ギルドはやはり違うな、他にも何カ所か拠点を用意したらしいし。うちは用意しても維持できんわ(金銭的な面ではなく管理的な面で)。
で、そこにアレスタさんもいるなら全員で来ようかと思ったが、残念ながら彼女は別ギルドの所属らしくこの街にはいないとのことだった。なので武雷牙亜の知人である俺とシードだけで来ることになったわけだ。ちなみに他のメンバーはそれぞれ分かれて街中に繰り出しており、昼過ぎに合流する予定となっている。
「しかしわかりづらい地図だな……」
武雷牙亜が手書きで書いたと思われる地図を眺めながら愚痴をこぼす。地図が大雑把すぎるし目印になるようなものもあまり書いてないから非常にわかりづらい。
「まぁでも店舗になってるからわかりやすいって……ほら、あれじゃない?」
先の方を眺めていたシードが言葉と共に指さした先には、食堂か酒場に見える大きな建物があった。店舗名は……
「聞いてた名前だな。間違いなさそうだ」
「それじゃ、いってみましょうか」
シードに頷き、俺達は並んで歩きだす。
「それにしても、本当に大きい建物ね。ウチのギルドハウスくらいあるんじゃないかしら?」
「アイツの所属ギルド、こっちに来てる人間だけでも数十人はいるらしいしな。実質俺とお前の二人だけで蓄財していたようなもんのウチですら余裕があるんだ、それだけの規模ならこの程度の建物買い取るくらい何の問題もないんだろう」
まぁそのレベルのギルドとなると内部的なトラブルがよくあったり、ギルド内のルールで縛られて窮屈さを感じたりという話を聞くので羨ましいということは別にないが。
「お店は……やってないみたいね?」
近づくにつれ店舗の中が見えてきたが、見える範囲には人影はない。
「店舗としては夜しかやってないらしいぞ……まぁ誰かいてくれると世話なくていいんだが」
今日顔を出しに行くことはメールで武雷牙亜には連絡済みなので、アイツが不在ということはない(もし不在だったら次あった時殴る)。とりあえず覗いてみて誰もいないようだったらメールを入れればいいか……そう考えながら入口より中を覗き込む。
幸いなことに、中には女性が一人いた。手元で何かを拭いている。恐らく食器の手入れをしているのだろう。
その女性が、俺達の気配を感じたのか顔を上げた。そして、その顔に営業スマイルを浮かべ、
「申し訳ありませーん。当店は夕方よりの営業になっておりまして」
「あ、いえ。すみません客ではないんです。武雷牙亜に会いに来たんですが……」
「あー、聞いてる、聞いてるわよ」
彼女はその表情を営業スマイルから感情を伴った笑みに変え、手に持った食器を置くとこちらへと駆け寄ってきた。
「リセさんとシードさんでいいかしら?」
「ええ。私がリセで、こっちがシードです。武雷牙亜は?」
「ちゃんといるわよ。この建物奥に広くて、手前側が食堂兼酒場、奥がギルドのスペースになっているの。案内するわ、ついてきて」
そう言って彼女が先だって歩き出したので、俺とシードはついていくことにする。
と、彼女がふと振り返り
「ところでちょっと不躾なことを聞くようだけど」
「あ、はい。なんでしょう?」
「あなた達、どちらが武雷牙亜と恋人なのか伺っていいかしら?」
……はい?
一瞬言葉が理解できず動きが固まった俺の横で、シードが苦笑しつつ答える。
「私達と彼はそんな関係ではないですよ。古い友人ってだけです」
その答えに彼女は驚きを浮かべ
「そうなの!? あの女の子とか相手にしても全然意識しないしちょっかいも出さない武雷牙亜がやたらウキウキしてたから、てっきり恋人でも来るのかと……ということは片思いかしら」
……はい?(2回目)
「いやいや、女の子とかにちょっかい出さないって!?」
今度は彼女はきょとんとし、
「武雷牙亜はいつもそうよ? 相手が男でも女でも態度変えないし余計な手出しもしないから真の紳士とか一部で言われてるくらいだし」
あれか!? 俺は今ドッキリでも受けてるのか!?
いや、違う。これはあれか、俺の中身が男だからそういうのしても大丈夫だと思ってるからだな?
成程成程。
「中身が男の相手には冗談でプロポーズとかしたりしてるのに、中身が女だとそういうことしないんですねぇ」
「いえ、さっきも言った通り中身とかで態度変えないからそんなことしないわよ?」
「俺にはしょっちゅうかましてきてますよ!? プロポーズとか」
「えっ、俺って……あなた中身男性なの?」
「そうですよ!」
「ごめんなさい、物腰や仕草からてっきり中身も女性だと思ってたわ」
「ぶふっ!」
隣でシードが思いっきり噴き出した。




