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家族旅行の行先決定


「アズマか」


まぁそこになるよな、とは思う。


東の島国、アズマ。

ゲームとしてのアルテマトゥーレでは未実装だったエリアだ。

ただアズマはすでにリリースの予定日まで決定していた状況だったため、設定から世界の補填によって生まれたユグドラシル関連のエリアとは違いすでにデータとしてもほぼ完成していたハズ。なので既存エリアと同様にそれがベースになっているハズだ。


未実装だったので直接見たことは当然ないが、公式からスクリーンショットと共にいくつかのエリアも出回っていたため、どのような場所なのかというのもわかっている。発表当時東の島国という表現から多くのプレイヤーが予測した通り、日本をモチーフとしたエリアだった。時代は江戸時代あたりがベースといったところか。


それとアズマは検証勢により大分早期に発見されており、すでに多くのプレイヤーが渡っている。そちら方面の情報収集はしていなかったため今の所はあまり手元に情報はないが、すでに現地を探索している知人などから情報を集めれば岩テュランソスの時のような不意の襲撃を受けるリスクもほぼなくせるだろう。


ユグドラシルのように公開すらされていなかった俺達の見たことのない追加エリアは他にもあるかもしれないが、旅行先という観点で見ればここ以上の場所はないか。


「他に行先の希望がある奴はいるか?」


そう皆に聞いてみるが、全員が首を振る。


「アズマでいいんじゃないですかね。お米の件もありますし」

「ああ、それもあったな」


フラットの言葉に、俺もそのことを思い出す。

こちらの世界だと米は流通していないので主食はパンとなっているため、ちょくちょくお米が恋しいと話題になる。以前公開されたアズマのスクショの中には明らかに稲穂の実った水田もあったためそちらから流通してくるのを期待しているのだが、今の所その気配はない。

聞いた話だと個人レベルでの取引はあるらしいんだが、さすがにアルテマトゥーレの世界全体に広がる流通経路が生まれるのはそう簡単にはいかないらしい。

そもそもプレイヤー達はともかくこの世界の住人の大部分を占めるNPC達にとっては未知の食材だから、どこまで商売になるか見えないところではあるしな。


「現地では当然食べられるでしょうし、向こうで買い付けて拡張インベントリに放り込んでおけば戻ってきてからも暫くは食べられますよね」

「あー、いいねぇ。よだれが出てきそう」


メイが喜色満面な笑みを浮かべて言う。


元の世界では毎日口に入れた当たり前の食材だが、それをもう二ヶ月以上も口に入れていないとなると想像するだけで口の中に涎が出てくるのはよくわかる。何より米があれば元の世界のいろいろな料理が再現できるしな。割と他の食材は揃ってたりするので。


「他の食材の事を考えると、お米も私達の知ってるものとそう変わらないハズだしね」


この辺り、アルテマトゥーレが独自食材ばかりではなく概ね現実に沿ったものを設定していたことが今となっては本当にありがたい。


「これは楽しみが増えたわね?」

「ああ」


シードの言葉に頷く。


あとアズマ、日本ベースだったなら温泉とかたくさんあったりしないかなぁ。温泉巡りしたいなぁ。公衆の温泉は今の自分の体の事を考えると使えないから難しいかなぁ。


「リセねぇ、なんかすごく表情が緩んだけど何か想像してる? もしかして温泉とか?」

「なぜバレた」

「いや、旅行情報誌とかで温泉の情報見てた時と同じような緩み方してたから」


……俺現実時代の時もそんな感じになっていたのか。電車で移動中とかにその手の雑誌読んでた時周囲からどんな目で見られていたのか怖くなってくるな。


……まぁ、そんなことはどうでもいいか。


「それじゃ、旅行先はアズマということでいいな?」

「意義なーし!」


問いかけにメイが即答し、他のメンバーも頷きを見せる。


「よし、じゃあ行先は決定だ。ええと、アズマにはどこから渡れるんだっけ?」

「港町マクリオだ。ここからだと馬車を使っても10日以上かかる距離だな」

「そこから船で1泊2日でアズマ到着だねー。確か到着する先はゼンヒという街だったかな」


俺の言葉に岩鉄が答え、メイがその先の行程を補足する。

それを聞いたリアルが、落胆というよりは感嘆に近いものを感じさせるため息を吐く。


「かかる日付で聞くと、ものすごく遠くに行く感じがするね。地球一周旅行に行くみたい」

「元の世界では、一日で移動できる距離ですものね。本当に便利な世界に生きていたものだわ」

「帰路だけ考えるとこっちの世界の方が早いけどね! 何せリセねぇが居れば一瞬で帰ってこれるし」

「<<テレポート>>、現実世界にあれば楽だったなぁ……少なくとも朝の満員電車避けれる上にギリギリまで寝てられるし、帰りの方に回せば終電の時間気にする必要もないし」

「リセねぇ、目が虚ろになってきてるからその辺回想するのやめよ?」

「うん」


もう2度と乗ることは無くなったわけだが、さすがにアレを懐かしんでもう一度乗りたいなんて絶対に思わないぞ。


「まぁ高校生だし自転車通学だった僕にはわからないリセさんの闇の部分は置いといて、それだけの日数がかかるとなるとアズマだけ目指して移動だけというのもアレですね」

「別に闇でもなんでもないが……別に移動だけにする必要ないだろ。途中でいくつか大きな街経由してそこで観光すればいい」


立ち上がって体を伸ばし、机の上で食事をする(いつものこと)フラットに軽いチョップを入れつつ、彼の言葉にそう返す。


「その分所要日数は増えますが、今の僕達は時間はあり余っていますし」

「そうだな。大きくルートを外れるのはさすがに無理だが、多少は逸れてもいいだろう。その辺を頭に入れて予定を考えて行こうか」


フラットの言葉に答え全員に向けてそういうと、それぞれが頷いてきた。そんな中リアルが身を乗り出して


「いつ頃出発する!? 明後日くらい!?」


その勢いに俺は苦笑しつつも答える。


「さすがに明後日は無理だな。また長期でここを離れることになるから準備がいるし、食材も丁度買い足しちゃったから、この食材を使い切ったあたりで出発にするか」

「そっかー……」

「どれくらいになりそう?」

「5、6日後って所だろ」


シードの問いにそう答えると、彼女はリアルの方に視線を移し


「それじゃリアルちゃん、それまではいろいろ調べて道中でよる所とか、アズマで観光する場所とかしらべようか?」

「うん!」


その光景を眺めつつ、俺は頭の中でいろいろな事を計算する。食材の消費や荷物の準備、それに花壇とかを作ってしまったからその辺の世話も誰かに依頼する必要があるかもしれない。一応殆ど世話しないでも問題ない奴を植えてはいるんだけどな。


日常的にやることを含めると、出発までそれなりに忙しくなりそうだ。俺自身は特に行きたいところがあるわけじゃないし、ルート選定は他のメンバーに任せて俺はギルドハウスの出発に向けた準備でもするか。


そんなことを考えていたら、ふとメイと目があった。

彼女は両手で頬杖をつき、俺の方を目を弓にして眺めながら言った。


「ところでリセねぇ」

「ん、なんだ?」

「フルハイムで買ったお洋服、あの後あまり街へとかいってないから着てないみたいだけど、忘れず全部持っていこうね?」

「あ、はい」


あの時の服、後で見返してみたら外で着るの恥ずかしくなった奴いくつかあるんだけど(露出が多いとかいう話ではなく、デザインが可愛いよりで……)、結局押されて着る羽目になるんだろうな……


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