はじめてのりあるだんじょん⑫
巨体の崩れ落ちる轟音とともにやってくる振動。
限界まで力を絞り出しきった体はその揺れにさえ耐えきれずに膝の力ががくんと抜け、俺はぺたんと床に尻もちをついた。
「終わった~!」
背後に手をついてなんとか倒れこむのを回避しながら、心の底からの言葉を口から漏らす。
「リセねぇ、女の子座り……」
メイがなにやら言ってくるが、今は突っ込みを入れる気力もないぞ。
もし実はこの後ボスが真の形態とかいって復活してきたり、連戦で別のボスが出てきたりしたらもう無言で<<テレポート>>使ってギルドハウスの床でそのままぶっ倒れるからな、俺は。それくらいもう力が入らない。
リアルも俺のように座り込んだ状態で、他のメンバーはまだ装備を構えたまま警戒を解かずに崩れた竜の姿を見る。
少しの沈黙。動く気配はない。
これは大丈夫そうかな、とみているとブン、と一瞬姿がぶれた気がした。
え、まさか第二形態ありか? <<テレポート>>の構えを取るぞ? 別に構えいらないけど。
などと思ったが、その杞憂は不要だったらしい。倒れ伏した三つ首の竜はまるでポリゴンが崩壊していくように頭部から光の粒子に変わっていき……そして全ての姿が消失した。
「まるでゲームみたいな消え方だね」
その光景を座ったまま眺めながら、リアルが呟く。
これも元はゲームだけどな、とか野暮なことは言わない。実際のところ、こちらに来てからは倒した後消えるエネミーというのは存在していなかったし(このダンジョンにいるエネミーはいずれ消えるかもしれないが)、ゲームとしてのアルテマトゥーレもこういう消え方じゃなかたったしな(倒すとすぐドロップアイテムに変わっていた)。
「しかし、これで道が開けたのかしら? こっちだと通知メッセージみたいなのがないからわからないわねぇ」
本当にな。シードの言う通り、こっちだとシステムからの報告がないから実際みないと何も確認できん。
ピッ
ん、メールか?
「あれ、メールだ。誰だろ」
え?
口に出して呟いたメイを、全員が見る。
「え、何?」
「メイさんも通知が来ましたか?」
「え、フラット君も?」
「私にも来てるよ」
「あたしもー」
メイが俺と岩鉄に視線を送って来たので頷いておく。
というか全員に来ているということはだ。もしやと思い慌ててメニューを開くと、そこには予想通りのモノがあった。
FROM:ユグドラシル
TO:リセ
HEADER:システムメッセージ
BODY:
・「ユグドラシルへと至る道」の扉が解放されました。
・スキル<<ウィンドウ>>に「拡張インベントリ機能」が追加されました。
「え、ダンジョンをクリアするとこんな感じでメッセージ来るの?」
「いや、ここが特例じゃねぇかな。送付元がユグドラシルで、多分ここがユグドラシルが直轄管理するダンジョンだからとか、そういうところじゃないか?」
「ああ、それはありうるかも」
俺の言葉に納得してメイがうんうんと頷く、まぁ俺達今の所別のダンジョン潜ったことがないからほんとただの予測だけどな……というかこの世界に関することは本当にみんな予測だらけだけどな。ただまぁ、
「これで間違いなく次の道は開けたってわけだ」
「ひとまずのゴール前までは辿り着けたって感じかな」
そう言ってメイが「ん~っ」、と大きく伸びをする。明確にダンジョン攻略完了と取れる情報が出たことでようやく彼女も少し力が抜けたのだろう。彼女は戦闘以外にもトラップやエネミーの発見でずっと気が抜けない状態が続いていただろうしな。
本当ならお疲れ様と頭でも撫でてやりたいところではあるが、残念ながら今は立ち上がる気力もない。まぁ後で労ってやろう。それに悪いが今は他にすごく気になることがある。
もう一つの通知メッセージにある拡張インベントリってなんだ?
ゲームとしてのアルテマトゥーレには当然インベントリは存在していたが、こちらの世界だとそれは普通に運ぶ持ち物となっていてインベントリという機能は消失していた。存在しないものを拡張ってどういうことだ?
ウィンドウに追加ってあったよなと思い、開いていたメールを閉じてウィンドウをざっと眺めてみると左下に箱のようなアイコンが追加されていた。これか、と思いそれを押してみる。
「うお!?」
次の瞬間、目の前に灰色の空間が広がった。
サイズは各辺が150cmくらいか?それぐらいの正面が開いた金属の箱のようなものが目の前に広がる。そして、その箱の中にシードの上半身が生えている。
「おい、シード大丈夫か!?」
「何が?」
きょとんとした顔をされた。……あ、これもしかして俺にしか見えてないのか?そう考えてアイコンの存在を伝えると、皆が先ほどの俺と同じような反応を見せた。だが見えているのは自分で開いた目の前の鉄の箱だけだ。なるほど、<<フルスキャン>>や<<ウィンドウ>>と同じで使用者にしか見えない系だな。
でこれがインベントリであるのならば、だ。
俺は持ち物の中から小物を一つ取り出すと、それを箱の中に突っ込んで手を離した。
「あ、消えた!」
その様子を見ていたリアルがそう声を上げる。
俺の目からは消えていない。俺の手から離れた小物はそのまま箱の底部に転がっている。成程、大体わかった気がする。
「これあれか、自分だけが使える四次元ポケットみたいな奴か」
「入る容量が決まってるぽいから、個人用ロッカーじゃないかしら? 見た目的に」
いやそうだけどさぁ。そう表現しちゃうとファンタジー味がすごく薄れない? いや四次元ポケットもどうかと思うけどさ、自分でいうのもあれだけど。
とりあえず俺はもう一度メニューのアイコンをタッチすると、突っ込んだ小物と一緒に目の前に開いていた鉄の箱──拡張インベントリがクローズされた。現状俺は突っ込みたいものがないし、あとシードの体がもろに重なってて上半身だけ切断されたように見えるからちょっと恐い。
見れば他のみんなもそれほど何かを突っ込んでる様子はなかった。まぁ基本的に動きの邪魔にならないように最低限の物しか持ち歩かず、残りは街の預り所に全部おいてきてるからな。
「いや、これでも神機能じゃない?」
メイの言葉に心から同意する。これがあればそもそも預り所に預ける必要がなくなるから用件すませた後元の街に戻る必要がなくなるし、着替えだって余裕でいくつも持ち運べる。しかもそれでいて両手は空くし重さも感じないというおまけつきだ。すぐ使うものだけは常に身に着けておかないとダメだろうが、それ以外は全部突っ込んでしまえばいい。一応格納容量はあるっぽいから何から何までとはいかないだろうが、旅に必要なものを突っ込むだけなら充分な容量だろう。やべぇ、これ現実世界に帰っても使えないかな。
「とりあえず、これで次の行動は決定ですねぇ」
フラットの言葉に全員が頷く、この後ユグドラシルに直接突っ込むか一度街に戻るか決めかねていたんだが、これで街に戻って再度準備のし直しで確定になった。……まぁそれ以前にこの消耗具合でそのまま突撃は無理だったけども。
「となれば、さっさと帰ろうか。リセねぇ、立てる?」
メイが俺の方に手を差し出してくる、
まぁ正直立ちたくないんだけどもスキルによる消耗はそんなすぐに回復しないので、回復するまでここで座り込んでいるわけにもいかない。しんどいが歩くしかないか……そう思い俺はメイの力を借りて立ち上がろう
……として膝が砕けてメイに向けて倒れこんだ。
うおお力が入らねぇ、ここまで消耗してたのかよ!これ数字で表示されてたら残り1とかになってるんじゃないの?
倒れこんだ俺を咄嗟に支えてくれたメイが、俺の耳元で心配気な声を上げる、
「リセねぇ、リセねぇ、大丈夫? なんか全身くたぁとなっててちょっと興奮するんだけど」
「悪い、だめそうだ。全身に力が入らねぇ……いやまて最後なんつった」
「心配なんだけどっていっただけだけど?」
嘘つけちゃんと聞こえてたぞこの野郎──ああでも体離そうにもマジで力入らねぇなんだこれ。最後に竜にぶち込んだ奴で本当に最後の搾りカスまで出し切っちゃった感じか?
「これは……リセさんは歩くの無理そうですねぇ……ああ、ちなみに僕も無理です」
さりげなく自己申告するフラット。まぁ確かにお前もフル稼働だったから疲労はヤバそうだけど、お前は普段からあまりダンジョン内では歩いてないしなぁ……今回もその身をリアルが抱え上げる。
アイツはあれでいいとして俺はどうするか……
「まぁ誰かが運んでいくしかないわよね?」
いや。
「岩鉄さんは一応戻る時敵が復活している時の為にフリーでいて欲しいし、私も一応戻る時も警戒しないといけないから無理かな。残念だけど」
いや待て。
「あたしも疲れてるから流石に無理~」
手に持ったフラットを掲げてリアル。それらの返事を聞いて、シードはうんうんと頷くとしゃがみこんで俺に背中を向けた。
「はいおいで?」
「いやはいおいでじゃなく」
「リセねぇ諦めなよー。ここで一晩野営するわけにもいかないし、他に手段ないよ?」
いやそれはわかってるんだけど! やはり年下と思われる女の子に背負われるのはおっさんとしてはちょっと抵抗が!せめて岩鉄に!
とはいえ全身に力が入らない俺が抵抗できるわけもなく、俺はシードにおんぶされてその部屋を後にするのだった。さめざめ。




