はじめてのりあるだんじょん③
「リアル、右回避!」
俺の言葉の意図を理解し、リアルがその体を大きく右へ飛ばす。
そうして開いた目標に向けての射線へと、俺は勢いよく右腕を突き出して叫んだ。
「コネクト:<<サンダーバレル>>!」
伸ばした右腕から放たれた雷撃は、狙い違わず目標とした鋼鉄の巨人を打ち貫く。
リアルら近接組の攻撃を何度も受けながら耐えていたそいつは、その全身を大きくガタガタと震わせた後バラバラになって崩れ落ちた。
「ふぅ」
小さく息を吐いて、俺はバラバラのパーツの山となったエネミー──アイアンゴーレムの姿を見下ろす。
綺麗に決まってくれてよかった。威力は高めな分それなりに消耗はあるし無駄撃ちは避けたくはあるスキルだ。アイアンゴーレムは動きがそこまで素早くないエネミーで、当てやすいんだから猶更である。
「この手の固い奴相手には、下手に抑えないで俺がぶっ放した方が消耗は避けられそうだな」
それぞれ戦闘態勢を解いた他のメンバーにそう声をかける。その中からシードが返事を返してきた。
「そうだね。明らかにこの辺りのゴーレム上位種くさいし、アイアンゴーレム以上の耐久が高いのが出てきた場合はリセに任せた方が良さそう」
これはギルドメンバーでダンジョン等を攻略するときほぼいつものことなんだが、強力な威力だが消耗が大きいスキルをいくつか持つ俺は前半は力を温存するケースが多い。中ボス的な存在や大ボス相手にぶっ放すためだ。
今回もいつもと同じ温存作戦で行く予定ではあったのだが……やはり未開のダンジョンだけあって思いの外固いエネミーが存在しているようだ。俺が上位のスキルをかまさなくても倒せないことはないレベルではあるが、俺の体力を温存するために他のメンバーが疲弊してしまったら意味がないだろう。
「戦術変更だな。ゴーレム系とか物理が通りにくい相手には俺が出張った方が良さそうだ」
これ今のパーティーの弱点だな。攻撃方法が物理偏重だ。物理が通りづらい相手だと俺が出ざるを得ない。
「でもリセ、体力大丈夫?」
「温存できるところでは温存するさ」
心配気に聞いてくるリアルに笑ってそう答え、そのまま話を続ける。
「ここのボスがどんなのかわからないしな。俺だけ消耗を抑えておいていざボスにあったら物理攻撃の方が有効だったら笑えないぜ」
「そもそも雑魚でこのレベルだとなると、ボス戦全員が戦える状態じゃないと無理じゃないかしら?」
「ごもっとも」
シードに対して大きく頷いて見せる。
「本当はボス戦がないのが一番なんだけどな」
「この規模のダンジョンでないなんてことあると思う?」
「ないだろうなぁ……」
一応ここ攻略した後に出現するはずのユグドラシルへ至る道こそが本命なので、こっちにはボスクラスが居ない可能性もあるっちゃあるが……甘い期待は捨てといた方が無難だ。
「敵を見て出来るだけ消耗が少ない戦法を随時選ぶべきでしょうね。消耗戦になりそうな相手ならリセさんの一撃で、固くないけど数が多い相手ならシードさん主体、攻撃を当てにくい相手ならリアルさんとメイさんで」
「臨機応変って奴だね!」
「俺とお前はどれ相手でもやることは変わらんがな」
「ですねー」
ははは、と岩鉄とフラットが笑いあう。この二人は役割が明確であり、かつうちのメンバーの中ではその役割が無二だからな。その二人を眺めながらシードが頷いて
「妥当よね。相手に対して有効な手段を持つ人間はあまり出し惜しみをしないようにして、他のメンバーを消耗させないようにしましょう」
「了解だ。みんなもそのつもりで。受け持ちはさっきフラットが提案した通りでいいかな」
俺の言葉に他のメンバーが了解を返す。
「その上で途中で誰かの消耗が不味いことになるようだったら、一時撤退も視野に入れて動くぞ。全員生存が第一優先だからな」
帰りたい気持ちはあっても、こちらでの生活が長くなるにつれてこの世界での現実感が強くなってきて何は何でも急いでという思いは薄らいできてはいる。こないだのように休息を入れる気になってる事がその証拠だ。先が見えてきているということもある(その先に正解の扉があるかはまだ怪しいんだが)。で、あれば無理をし過ぎることはない、安全第一というわけにはいかないだろうがいのちだいじにって奴だ。
「リセねぇ、<<テレポート>>は使えないんだよね?」
「いろいろ外れたときとっとと帰れるようにって、ギルドハウスにポインタ設置しっぱなしだからな。先が見えてきたし再設置してもいいんだが」
「いや、このままでいいでしょ。 本当にヤバイ状態になったらギルドハウスまで戻っちゃっていいんじゃない? 間違いなく安全だし、そこまでヤバイ状態になったらいろいろ検討しなおしや鍛えなおしになって即再挑戦とかどうせできないでしょ」
「そういう考えもあるか」
ポイントが2カ所以上設定できれば考えずにダンジョン入り口か最寄りの街の宿にマーキングしとけばいいんだけど、本当になんで移動系に関してはこんな不便設定にしてんだこのゲーム。世界が(物理的に距離が)広がったせいでその不便さが更に際立っている、
「まぁ倒した敵はそんなすぐには復活しないでしょうし、帰る時は大丈夫じゃないですかね?黒の森を抜ける分の力は残しておく必要があるでしょうが」
「なんにせよ引き返す事を相談するのはまだ先じゃない? みんなまだ一割も消耗してない感じでしょ?」
リアルの言葉に全員頷く。ゲームの時と違って具体的なパラメータの表示がないため体感だから細かい割合なんてものはわからないが、まだ殆ど消耗していないといって差し支えないレベルなのは間違いない。
「確かに帰還の話をするには早すぎだな。そろそろ先に進むか」
「あまってまって」
武器を抱えなおし歩き出そうとした岩鉄を、メイが慌てて止める。
「む、どうした?」
「さっき<<フルスキャン>>で確認できた場所がこの部屋までだったのよ。だからここでまたスキル使いなおすからちょっと待ってー」
「了解した」
抱えなおしたハンマーを、力を抜いて地面に降ろす岩鉄。その横でメイがスキルを宣言する。
「コネクト:<<フルスキャン>>」
再び前方の空間を眺めて、一つ一つチェックを入れていく。と、不意にメイが眉を潜めた。
「どうした? 見たことないギミックでもあったか?」
「あー、いやそういうんじゃないけど……いいや、とりあえず見つけたトラップを潰してから説明するからちょっと待ってね」
「了解だ」
<<マルチロック>>を使って見つけた罠の一つ一つを停止させていくメイの姿を黙って見守る。
数分の後、トラップのロックを終えたらしいメイが大きく一息吐いて腕を落とした。
「いやぁ、これってスキル使用よりもトラップのチェックの方で疲労するねぇ、見落としたら不味いし」
「お疲れ様だ。そのおかげでこっちは安心して進められるよ」
頭を撫でてやる。……こっちの方が背が低いので撫でにくいな。
「へへ、ありがと。それでさっきの件だけどさ」
「ああ」
「トラップやギミックじゃなくてなんといいうかアクション要素? みたいなのが」
「アクション要素?」
リアルが首をかしげるが、俺はピンときた。アルテマトゥーレの人工ダンジョンでたまに見かけるやつだ。
「飛んだり跳ねたりして進んでいく奴か?」
こくりと頷く。
同時に視界に入っていた岩鉄が少し悲しそうな顔をした。お前AGI──敏捷の数字低めだからその辺苦手だしな。まぁ俺も高くないから苦手なんだけど。内容によっては<<フライト>>で抜けちまえばいいかな。
「どんな感じの奴だ?」
「んー。まぁどうせ次のエリアだし行っちゃおう。見ればわかるよ」
・各スキルの効果について
<<サンダーバレル>>
自分の腕を砲身と見立てて雷撃を放つスキル。腕を向けた方向に向けて真っすぐ飛ぶ。




