はじめてのりあるだんじょん②
薄暗い下り階段を80段くらい降りたところだろうか。目の前に現れた少し汚れた白い扉を開けると(罠も鍵もなかった)、その先には整備された長い通路が伸びていた。
「完全に人工物だねぇ」
「そうだな」
最初に扉をくぐったメイの後に続いてダンジョン内に足を踏み入れる。続けて残りのメンバーも全員中へと入って来た。
通路とはいえ、その広さは大分余裕がある。高さは俺の身長の倍以上はあるし、横幅も6人が並んでまだ余裕がある程度に広い。あまり狭いと動き回るタイプの多いうちのギルドだとかなり戦闘時に厄介な事にになりそうだったが、これだけのスペースがあればとりあえずは大丈夫だろう。
しかし、ここが自然ではなく人工のダンジョンだとするとメイが居てくれて助かったな。
俺が彼女の顔を見ると、彼女はウィンクと共に言った。
「任せて」
「ああ、頼む」
「行きまーす。コネクト:<<フルスキャン>>」
メイが一歩前に出て、スキルを宣言する。
アルテマトゥーレのダンジョンは自然の洞窟と人工的な迷宮で大きな違いがある。それはエネミーの分布なのもそうなのだが、何より大きいものはトラップやギミックの存在だ。自然窟はほぼトラップは存在しないがその代わりにエネミーの出現率が高い。それに対して人工的な迷宮は罠やギミックが多数存在しているケースが多い。そしてここは未実装とはいえゲーム的には終盤部分にあたるはずのダンジョンだ。そういった仕掛けが少ないとは考えづらい。
「あー、やっぱりいろいろあるね。アロースリット、ポイズンミスト……これはテレポーターかな。まだ入り口近くなのに殺意高すぎないかな、これ?」
メイが自分の目の前の空間を一つ一つ指さしながらつぶやく。
恐らく今彼女の視界には、この周辺エリアの3D地形がワイヤーフレームのような形で表示されているはずだ。探索者系の上位スキル、<<フルスキャン>>の効果である。俺は覚えていないため実際どう見えているかは公式や有志の紹介しているスクショでしか知らないが、このスキルを使えばそのエリアの道筋だけではなく、隠されているギミックなどまで見つけ出す事が可能なので、新規実装された高難易度エリアに特攻する検証勢などには必須となっている。
逆に言うとトラップの位置は一度設定されてしまうと次のメンテナンスまではリセットされないので、特攻をしない情報待ち組などは取得しないスキルでもある。そのため、実は取得者はそれほど多くない。(戦闘には役に立たないのに取得がわりと大変なせいもある)。
実際うちのギルドは新規エリアに突撃するタイプでもなかったため、ここにきていない人間も含め探索者系統を伸ばしていたのは一人だけで、しかも上位スキルまでは伸ばしていなかった。
位置が変動するトラップもいくらか存在するが、高レベルプレイヤーになるとそれくらいならダメージ覚悟で突っ込んで回復すればいいだろうなスタンスだ。だが、間違っても死ぬわけにはいかない状態で、しかも完全に情報なしで先の見えない今回の攻略はそうはいかない。彼女のスキルが命綱となる。
「特定できそうか?」
「多分ね。新規の、しかも絡繰型じゃないギミックがなければ大丈夫だと思う」
まぁこのスキル難点があって、あくまでそのエリアの構造やギミックの絡繰りが見えるだけであって別にここに罠があるとか表示されるかわけではないので、使用者の知識で判断するしかないという点だ。なので普通に見落としが発生する可能性もあるし、ギミックの種類によっては見えていても気づかないという可能性もある。
とはいえ、俺達にはそもそも見つける術がないのでここはメイに頼ることしかできない。
「とりあえず見つけた奴は機能停止させるね。コネクト:<<マルチロック>>」
メイが別のスキルを宣言して、目の前の空間を何カ所かタッチしていく。
こっちはスキャン系のスキルで表示される3D情報上で位置を指定することで、その位置に存在するギミックを停止させるスキルである<<ロック>>の上位スキルで、名前の通り複数の指定をまとめてできるスキルだ。ちなみに解除するわけではなくあくまで一定期間停止させるだけのスキルの為、いざダンジョンから戻る時に効果が切れたトラップに引っかかるというのはよくある笑い話だったりする。
「ん。多分これでこの周辺のエリアの罠は封じられたかな? 見落としがあったらごめんねー」
「まぁその場合は仕方ないわよね、即死級のトラップがないことを祈りましょ? あ、痛覚軽減入れなおしておくね」
シードがスキルの宣言をし、その後現実側での流行り歌のサビを鼻歌のように歌う。
スキルの発動条件は音であればなんでもいいため、最近ではシードはこのように歌で発動するようになっていた。本人曰く「ほら私スキルの系統が、狩人、吟遊詩人系統だから」との事。
ところで彼女の歌声妙に聞き覚えがあるような気がするけどなんでだろう? 別に今までゲームプレイ中に歌声を聞くようなことなんてまずなかったと思うけど。いや鼻歌くらいならあったかな?
まあいいか。
「とりあえずこんなところかな?」
手持無沙汰なのかその場で何故かぴょんぴょんと飛び跳ねているリアルの言葉に俺がみんなを見回すと、全員がOKサインなり頷きを返してきた。
「陣形は先ほどのままで行きますか?」
「いや、リアルと岩鉄がチェンジだな。この先は後方からより正面からの方がエンカウント可能性が高いだろうし」
「了解だ」
「はぁ~い」
リアルと岩鉄がハイタッチしながらポジションを交換する。仲がいいことだ。まぁうちは全員仲がいいけど。
「ところで」
「ん?」
俺の胸元に抱かれたままのフラットがこちらを見上げてくる。
「僕はこのままのポジションでいいんですか?」
「あー」
俺は少しだけ考え
「まぁ距離がどれだけあるかわからんし、段差とかもあるだろうからこのままでよかろ。ただ戦闘始まったらその辺に放り投げるから自分でなんとかしろ」
「了解です、それではもう少し特等席を満喫むぎゅ」
余計な事を言い始めたので両手で押し込んで潰してやる。……こいつなんか潰すときの感触面白いんだよな。
「ふぁべびぶらいでぶね」
「……お前さ、こうされてる時どんな感じなの?」
「ぽっぺをびょうばばばらぽぱぺていぷぱんぴでぷかぺ」
何言ってるか分かんねぇ。
今度は逆に引っ張たりもしてみる。謎生物だよなぁ……こいつ。
「これはマスターに弄ばれてしまいましたね……」
「うるさい」
元の状態で抱えなおしてやったらさっそく余計な事を言ってきやがったが、ここでまた潰したりすると無限ループに入りそうだったのでやめておく。
「あーでもいいなぁ。あたしもその特等席座りたーい」
「メイ……お前俺より体大きいだろ」
「あ、じゃああたしがリセねぇお姫様抱っこする?」
「なんでだよ!? 断・固・拒・否だ!」
外見が今は違うとはいえ中身30半ばのおっさんが一回り以上年下の知り合いの女の子にお姫様抱っこされるってどんな状況だよ!
「リセー。場所が場所で響くからあんまり大声ださなーい」
「うえっ」
シードが注意と共に俺の額を人差し指で押してくる、俺か? 俺が悪いのか?
いやでかい声を上げたのは俺が悪いか。これでエネミーに察知されていたら間抜け所の話ではない。自分の突っ込み気質をちゃんと抑えなければならぬ。
「というかお前らもあまりこういう場所で俺を揶揄わないように」
「あい」
信用ならん返事だな……まぁいい。ともかくとっとと攻略を始めよう。
「岩鉄、メイ」
前衛の二人に合図を送ると二人は頷いてダンジョンの薄暗い通路の中を歩き出す。そういやこのダンジョンの中、外ほどではないにしろそれなりに明るいな? ヒカリゴケというわけでもないし……まぁ謎機構ってことでいいか。明かりを準備しないで済むのは助かるし。




