ハウジングエリア
翌日。
充分な休息も取れ先日の疲労から大分回復した我々は、軽い朝食だけ取ると俺達の今回の旅の目的(正確にいうと最終目的を達成するための事前段階でしかないが)である、運営の人間の捜索を開始した。
幸いなことにというか、このアークバレイは清流沿いに峡谷がずっと続いており、分岐点は殆どない。なので目的の人物が本当にここにいるのであれば、高確率で会えるはずだ。そう、ここにいさえすれば。
「本当にここにいるのかな、こんなところに」
リアルがぼそっと口にした疑念は、おそらく全員が多かれ少なかれ感じていることだろう。
このエリアは近くに人里も何もなく、最寄りの町に出るためには俺達が通って来たストレイア大森林と地竜の揺り籠を越えなければいけない。まぁこれに関しては<<テレポート>>を使える人間が二人いれば解決できる問題ではあるんだが──ただ<<テレポート>>、かなり上位のスキルだから使える人間少ないんだよな。実際うちの今のメンバーでも使えるのは俺だけだ。そして<<テレポート>>は<<マークポイント>>というスキルで設定した場所にしか転移できないため、一人だけだと往復はできない。
「ご飯とかどうしてるんだろ?」
「食材とかはまぁ魚いるし、山でもいろいろ取れるだろうから何とかなりそうではあるけど」
立ち止まって、遠視のスキルで周囲を確認していたメイがリアルの疑問に答える。
まぁ確かに食料に関しては自炊関連の技術があればなんとかなりそうだ。
「そう考えると、この辺り潜伏するには都合がいい場所ではあるか」
何せ今このあたりのエリアに来るメリットがない。この辺り、渓谷を抜けた先も含めたエリアで進行する直近のイベントは存在していないし、今の状態になった以降ドロップ品目当ての戦闘があまり意味を無くしている(一部の鉱石型エネミーなど倒した時点で素材となるものもいるので0ではないが)現状、わざわざ地竜の揺り籠という高レベルエネミーの巣を超えてここまでくる理由がないのだ。実際ここまでくる間に俺達は他のプレイヤーに一切あっていない。
「とりあえずこの周囲にはいないみたい。先に進もうか」
遠視で清流部分以外の斜面をチェックしていたメイが、目の辺りをマッサージしながら告げる。峡谷の両端にある傾斜のきつい斜面まで徒歩で探しきるのは厳しいので、一定距離進むごとに彼女のスキルで確認を取るようにしていた。遠視スキルは使用すると逆に身の回りは見えないようになるので(まんま双眼鏡を覗いているような感じだ)その都度立ち止まってチェックを行っている。
ちなみに斜面の向こう側に関しては考えないことにした。ゲーム上は設定上飛竜たちの住処があるというだけでその先のエリアが存在しないため、何が起きるかわからないためだ。
最終目的地であるやはり設定上だけの存在であるユグドラシルと違い、本当にいるかいないかもわからない人間を(むしろいない可能性が高いと思っている)探しにいくのは、結果に対してリスクが高すぎると判断したため全員一致でその場合は諦めようということになった。
「ここにいないとなるとまた情報が0になるから、いて欲しい所ではありますが」
進むペースがあまり早くないため、今日はぴょんぴょんと自分で跳ねながら進むフラットの言葉に頷く。
「気分的には細い蜘蛛の糸を進んでいるみたいで頼りないよなぁ」
ここに運営の人間がいるかもしれない。その人物がユグドラシルの場所を知っているかもしれない。ユグドラシルにいけば現実に帰れる方法がわかるかもしれない。かもしれないづくしで、どこで糸が切れるかもわからない状態だ。
「ただ今はその蜘蛛の糸を上るしかない。……ところで森のような箇所が見えてきたんだが」
先頭を歩く岩鉄の言葉に視線を送れば、確かにずっと続いている斜面が一部分だけ途切れて、森……というまでではないが木々が生い茂っている場所があった。
「あれ、こんなところにこんな所あったけ?」
心辺りがあったので、シードの疑問に答えてやる。
「多分ハウジングエリアの入り口だ、これ」
確かエリアの入り口としては非常にわかりづらかったはずで、このエリアが戦闘が発生しない上に次のエリアまでの通路みたいな用途なこともあったので大体は一気に通り過ぎてしまうため、わりと存在自体に気づいていない人間が少なくない。ただ世界が間延びした影響でこの森、というか林部分も広がったため、わかりやすくなった形か。
「……こんな所にもハウジングエリアあるの?」
「敵性エネミーがいないエリアは基本あるぞハウジングエリア」
普通はギルドハウスは基本町へのアクセスがいいとか稼ぎポイントが近いとかそういった場所に建てるので、こういったところを利用するギルドはほぼいないが。
「こっちの方に来たのだいぶ前で、その時にはギルドハウス存在していなかったけど、もし人がいるとしたらこの辺りか」
「少なくとも可能性は一番高そうだね」
俺達にもいえることだが現代人がずっと野宿はきつい。体の強靭さは現実より上なので病気とかの心配は薄いにしろ、メンタル面もつらいだろう。ハウジングの建物があるならそこにいる可能性はかなりある。
「行ってみよう。森林自体はすぐに抜けれるはずだ」
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「ビンゴじゃねーかな、これ」
予想通り、その林は大した広さはなくすぐに突破できた。
林を超えたその先には山の斜面に囲まれた…そうあれだ、たまにテレビで見る山間部の限界集落みたいな景色が広がっていた。ただし、建物は1軒だけしかないが。
そう、1軒はあるのだ。
「LV1ギルドハウスでしたっけ、これ」
「だな。なんだか久しぶりに見るわ」
うちのギルドハウスに比べると全然小さいが、確かにギルドハウスとして見覚えがある建物がそこにはあった。
「これは希望が出てきたかな」
「でも、レベル1だと捨てキャラのギルドとかの可能性もない?」
「いや、それはまずない」
リアルの言葉に俺は首を振る。
リアルはうちが初ギルドでギルドハウスも立てた後の加入だからあまり仕様をしらないんだろうが、まず前提としてギルドマスターになるのに一定以上のレベルがいるし、その後ハウジングの土地を買って建物を建てるのは結構な金額がかかる、サブ垢で個人ギルドを立ててる人間はいるかもしれないが、それにしたってこんな所に作るとは思えない……というかサブ垢レベルだとここにたどり着くのも難しいだろう。
勿論対象の人物以外のギルドのモノである可能性はあるが、対象の人物はこの辺りに入り浸っていたという話を考えると可能性は高いんじゃないか?
「まぁとりあえず声かけてみましょうよ」
「そうだな」
俺はすうっと息を吸い、
「すみませーん、いらっしゃいますかー!?」
めいいっぱい声を張って呼びかける。
……
……
反応がないな。
「……もしかして、もうここには住んでいないとか?」
「いや、大丈夫そう」
リアルが上げた不安げな声を、だがメイが即座に否定する。
「失礼とは思いつつちょっと窓から覗いてみたんだけど、まだ新しく見える食材がいくつか見えた。埃を被ってるようにも見えないし、まだここに住んでいる可能性は高いんじゃないかな」
「だとしたら、外出中かもな。このエリアならそれこそエネミー遭遇するリスクは低いだろうし、しばらく待ってみるか」
「そうだねぇ……」
その時だった。
念のため周囲を警戒してくれていたのだろう。俺達とは別の方向を見ていた岩鉄が、警戒を含んだ声音で声を上げる。
「ワイバーンがこっちに向けて飛んできている」
「は!?」
そちらに視線を振れば、確かにこっち向けてワイバーンが一体飛んできている。しかも明らかに降下軌道だ!
「そんな! ワイバーンは中立エネミーじゃ!?」
悲鳴に近い声を上げつつ、シードが弓を構え他のメンバーも戦闘態勢に入ろうとする。
だが俺はあることに気づき、それを慌てて止めた。
「待て! 飛竜の背中に人がいる!」
・スキル効果について
<<マークポイント>>
テレポートの転移先を設定するスキル。テレポートを取得した時自動取得する。
<<テレポート>>
<<マークポイント>>で設定したポイントにテレポートするスキル。レベル1だと自分だけだがレベルを上げるとパーティ全員をテレポートさせることができる。
尚リセは現在テレポート先をギルドハウスのエントランスに設定している。




