安息
「大体、今水着なんかもってきてないだろ」
「今度大きな街に行ったときに一緒に買いに行こうね、リセねぇ……」
「いかねぇよ?」
大体水着なら、お前らも持ってるはずの去年のイベント報酬水着を持ってるよ。絶対に着ないけどな。
「サービスシーンは置いといてさ。リセも水浴びはしましょうよ。ほら、みんなしてるし」
気付けば岩鉄も鎧を脱いで水浴びに突入していた。まぁあいつ散々転がされてたから全身埃まみれ砂まみれだろうしなぁ……
自分の姿を眺める。
シードとメイ、それにリアルもそうだが、鎧部分の装備を外してしまえばその下は軽装だ。下半身も外せる部分を全部外してしまえば後はショートパンツのような格好になるから、それほど深くない清流での水遊びに支障はないだろう。岩鉄は長いズボンだが、それをまくり上げて水に浸かっている。あれは多少濡れるのは厭わない感じだろうな。
それに対し俺の格好は、上はまぁ袖をまくればいいにしろ下は丈の長いスカートだ。そしてスカートを外せば当然下は下着しか付けてないわけで、外すわけにもいかない。本来長旅になるんだったらもっと動きやすい服にするべきだったのだろうが、この服最近のリセのメイン装備で、特殊素材からの製作品だからダメージ減少とかいくつか効果がついていたりする。なので戦闘を考えると選択肢はこれになるんだよなぁ……
膝下まであるスカートなのでこのまま突っ込めば裾が水浸しになるのは確定で、そうするとズボンと違って座ろうとすると酷いことになるのが確定なわけで。
とはいえ俺も一度地面を転がされてるのもあるし、汗もさんざん掻いているから水浴びはしたい。
ふむ。
「あ。ちょっとリセ?」
スカートの裾をもって持ち上げた俺を見て、シードがちょっと慌てた様子を見せる。
「いや、丈を短くするだけだよ」
俺はスカートを太ももの辺りまでまくり上げると、その裾を絞って結ぶ。タイトスカートみたいで(いや、穿いたことないけど)動きづらいけど、まぁ飛んだり跳ねたりするわけではないので別にいいだろう。
ええと、座るところ、と。
丁度俺の身長に合う高さの岩に腰を下ろすと、シードの方を振り返る。
「シード。髪結ってもらっていいか?」
「お。了解よ♪」
「洗うために屈んだ時濡れなければいいんだから、適当にな?」
「……はぁい」
不満そうな顔を一瞬浮かべつつ、それでもすぐに鼻歌を口ずさみながら俺の髪をいじり始めたので俺は姿勢を戻す。いろいろ弄り回されるのはごめんだが、シードに髪をまとめてもらうの自体は嫌いじゃないんだよな。
そして俺は目の前の少女をジト目で見る。
「で、何してんだメイ」
「いや、リセねぇがせくしぃな格好してるから覗こうとするのが礼儀かな、と」
「なんでそんなスケベ親父みたいな思考回路してんの?」
「こないだVTRPGでそういうキャラクターやったからかなぁ」
ああ、そういえばやってたなそんなキャラクター。
「まぁとりあえず覗くなこっちみんな」
「はぁい」
まぁ当然メイも本気で覗く気はないわけで、素直に立ち上がると自分の装備を外し始める。ああ、俺も靴とソックスは脱いでおくか。
「あ、こら動くな! ……まぁちょうど終わったけどさ」
「おう、サンキュ」
こっちもちょうど脱ぎ終わったところだ。
「んじゃ俺達も水遊びとしゃれこみますか」
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清流の流れの音というのは、自然のBGMとしてはかなり上級に位置するものだと俺は思う。以前新潟のとある渓流沿いにある宿に泊まった時なども、非常によく眠れた記憶がある。
あの後束の間の休息として水遊びを楽しんだ俺達は、岩鉄が捕まえた川魚(スキルを使わずに素手で取っていた。どうやら現実側での経験者らしい)をメインにした夕食を済ませた後に、大分早めに床に就いた。全員昨日に比べて明らかに疲労がたまっていたので、一人頭の睡眠時間を多くとるためだ。
で、明らかに疲労の色が見えていたのだろう。順番の決定の際に全員から最初に休むように勧められたので素直に従った。それ以外のメンバーに関してはエネミー避けのスキルの張り直しがあるフラットが2番手、全然元気と自己申告したリアルが1番手になった以外はじゃんけんでの順番決めとなった。
その結果、俺の相方となった人物は、今俺の体にもたれ掛かって寝息を立てている。
責任感が強いところがあるシードがこうして自分の番の時に眠るというのは、非常に珍しく感じる。まぁ野営はまだこの世界に来て2回目だから実は単純に夜が弱いという可能性もないことはないが、ゲームとしてのアルテマトゥーレをプレイしていた時は俺と一緒に朝までイベント攻略とかやってたので、その可能性は低いと思う。
そもそも交代で起きてきたときにすでに眠そうにしていた。どうしたと聞いてみれば、なにやら夢見が悪くて途中で目覚めてしまい、その後あまり寝付けなかったらしい。なんならそのまま寝ててもいいぞとも勧めたが、そういうわけにはいかないと見張りの番についた。その後しばらくは頑張っていたようだが、会話が途切れたその間に気が付けば彼女は力尽きていた。
俺の方といえば、上質なBGMもあって爆睡できたので、完全回復とまではいわないまでもだるさがないレベルにまでは回復できてるし、眠気も全くない。黎明と呼ぶにはまだ早い時間で、日が顔を出すにはまだ少し時間があるので、シードはそのまま寝かせておくことにした。夜が明けたら捜索は始まるのだ、寝不足というわけにもいかないだろう。
しかしこのシチュエーション、俺が男の姿だったらいいシチュエーションだったんだろうがなぁ。
退屈なのでそんなことを考える。
シードは外見は麗しい女性だし、中身が女性なのも知っている。普通だったらかすかな匂いとかに少しはドギマギするべきなのかもしれないが、生憎いい匂いはするもののそれは俺と同じ匂いだ。途中の町でメイが
「何日かお風呂に入れないだろうしこういうの必須っしょ」
と買い込んでおいた匂い消し用の香水の匂い。俺もシードも同じものをかけているので(いいよといったがかけられた。まぁ自分が良くても他のメンバーが気にするのか)匂いはまるっきり一緒である。
こっちがまだ恋もしたことがないような少年だったらそれこそドキドキしてたまらなかっただろうが、あいにくこっちは中身は30半ばだ。しかもこちらの体も今は女性なせいか、それともこれはゲームのアバターという感覚のせいか、あまりそういった感情は起こらなかった。まぁまるっきり無心というわけではないけども。
「……?」
ふと、シードが身じろぎした。目が覚ましたかと思ってみてみると、どうやらそうではないらしい。ただ明らかに眉間に力が入り苦悶ともいえる表情を浮かべていた。
「うう……ああ……」
上がる呻き声。悪夢でも見ているのだろうか……
「シード……?」
「!!?」
その表情があまりにも辛そうだった思わず声をかけると、その声に反応したか、それとも悪夢で目が覚めたのかシードの瞳が大きく見開かれた。
「おい、シード?」
シードの吐く息が荒い。よく見れば川の側で少し冷え込んでいるというのに汗もかいていた。そして顔色も蒼白になっていく。……いや本当に大丈夫か!?
「シード!」
両肩をつかんでこちらを向かせると、その瞳が潤んでいた。
「大丈夫か? 恐い夢でも見たのか?」
シードは暫く俺を放心したように見つめた後、小さく頷いた。
「うん……ごめんなさい、眠っちゃってたのね」
「それは別にいい。本当に大丈夫か?」
「大丈夫……ちょっといやな夢を見ただけ」
そのままお互いが沈黙する。
恐らく夢の内容は話したくないんだろう、それは見ればわかる。だったらどうしてやればいいか、と少しだけ考え
「……リセ?」
俺はシードの頭を抱えると、胸に抱き寄せた。……これ、いつぞやの温泉とポジションが逆だな。
「リセ?」
「こうしていると少しは落ち着くか?」
心音を聞かせるように胸に抱いた頭を撫でてやりながらそう優しく声をかけると。しばしの沈黙の後シードはうんと頷いた。
しばらくそうしてやっていると、本当に安心してくれたのかシードが穏やかな寝息を立て始めた。
とっさに思いついたのがこれで、他にもっといいやりようがあったのかもしれないが、結果としてシードが安心してくれたのなら結果オーライだろう。
さすがにこのままの体勢で寝るのはいろいろと体に悪そうだったので起こさないようにそっと体をずらし膝枕の体勢に移行する。
シードの寝顔は先ほどとはまるで違う、安らかな寝顔だった。
その後夜が明けるまでシードは先ほどのようなこともなく、安らかな寝息で眠ってくれた。その代償として俺の足の痺れとメイのなにやら羨ましそうな視線を浴びることにはなったが。




