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ワイバーンライダー


俺は全員を押しとどめるように一歩前に出た。


遠目だったが気づけて良かった。ワイバーンは非敵性エネミーだがあくまで中立属性なだけだ。こちらから仕掛ければそのまま敵対状態に移行してしまう。そしてワイバーンはかなり高レベルのエネミーだ。正直戦いたい相手ではない。


徐々にこちらに近づいてくるその姿の上には、やはり間違いなく人の姿があった。


その速度は少し減速をしており、攻撃態勢に入ってるようにも見えない。それを見て俺は全員に指示を出す。


「全員武器は収めてくれ。……念のためフラットはスキルの準備を」


ずっと真っすぐこちらに飛んでくる軌道を考えれば、あのワイバーンの目的は俺達ではなく俺達の背後の家だ。で、あればあのワイバーン上の人物が目的の人物である可能性が高い。であれば、敵対行為をとってしまうことは不味い。それこそ彼が俺たちの事を逆恨みで狙ってきたものと認識してしまい、このままどこかに飛び去られてしまったら俺達にはなすすべがなくなる。

ただ最優先は皆の命ではあるので、フラットに支援スキルの待機をさせておく。


ワイバーンはどんどん速度を下げていく。そしてやがて我々の眼前の上空でその速度はほぼ停止しホバリング状態になった。


誰かが息を飲む音が聞こえる。


ワイバーンはゆっくりと降下を始める。少なくともこちらに襲い掛かってくるようなそぶりはないから選択は間違っていなかったと考えていいかな。


ワイバーンが降下してくるにつれて、ヘリのダウンウォッシュのような強い下向きの風がだんだん強くなってくる。


「うぁっ……」


その風に煽られてめくれ上がりそうになったスカートを、慌てて抑えようとしたのが不味かった。重心が高くなってしまった体は踏ん張ることができなくなり、俺の体は後ろへととばれそうになったところで何かに支えられる。


「大丈夫か?」

「ああ……ありがとう、岩鉄。そのまま支えてもらっていいか」

「了解」


いつの間にか俺の後ろに回っていた岩鉄が、俺の両肩を支えてくれていた。スカートのせいで風の影響をもろに受けてしまっているので、素直に甘えることにする。体の大きい岩鉄に支えられている姿は、はた目からみるときっと親に支えられた子供みたいに見えてあれだろうが、別に気にすることでもない。


やがてワイバーンはその巨躯からは想像できないほど静かにソフトランディングを決めた。ワイバーンはその巨躯をそのま地面に落ろし、首を横たえる。

それにより、ワイバーンの首の根本に座っていた人物と、メンバーの中で先頭に立っていた俺の目が合った。


ワイバーンの上に騎乗したまま、見上げる俺達の姿を見下ろしている青年相手に、俺は意を決して声をかける。


「竜翔さんでしょうか?」


その名は、メイから聞いていた運営側プレイヤーの名前だ。

彼がもし目的の人物であれば俺達がここにいる理由は予想がついているだろう。ならば変なごまかしを入れるよりストレートにぶつかった方がいいはずだ。


ワイバーンの上の人物の表情から笑みが消える。おそらくビンゴだ。ならば


「警戒しないでください。我々は猫柴さんにあなたのことを聞いて、伺いたいことがあってやってきたんです。


今度は情報の提供主の名前を出し、敵意がないことを伝える。これで俺達の目的がどちら側なのかは伝わっただろう。後は信じてもらえるかどうかだ。

武器を置いて敵意がないことを表せればいいんだが、生憎この世界はスキルで大体どうにかなってしまう世界なので、武器を下ろしたくらいでは敵意がないことを示せない。我々の言葉を信じてもらうしかなく、それでも疑念を持たれてしまえばそれでアウトだ。……ほんと確定でいけるところがない綱渡りじゃないか、俺らの旅路?


出来るだけ無防備に見せるために全身の力を抜いてワイバーン上の青年と見つめ合う。


「……やれやれ」


長く感じる沈黙の後、青年は大きくため息を吐くと身を翻しワイバーンの背中から飛び降りる。そしてワイバーンの顔の丁度横に並び立った。


「僕がどういう人間なのか知っている、ということでいいのかな」


彼の言葉に俺は頷く。これは信じてもらえたか?


「まぁ猫柴の事は信用している。あいつが教えたなら君たちも大丈夫だろうさ」

「ありがとうございます」


俺は頭を下げた。ほかのメンバーも合わせて頭を下げている気配を感じる。とりあえずこれで第一関門クリアで話を聞いてはもらえそうだなと考えたとき、ふと一人俺の背後から声を上げた奴がいた。


「あ、あの一つ伺ってもいいですか!」

「リアル?」


緊張を含んだ声でそう竜翔さんに話しかけるリアル。もしかしてもう話を切り出すつもりかと思ったが


「そのワイバーンって、テイムしたんですか!?」


違った。

……そういやリアル、以前空を自在に飛んでみたいと言っていたな、ということをふと思い出す。まぁ<<フライト>>とか飛行系のスキルはあるんだが、あのあたり速度もそんなに出ないし消費もでかくて自在とはいいづらい。それで思わず聞いちゃったのか。直情な子だからなぁ……


突然のぶしつけな質問をどう思うかと思ったが、気を悪くするようなことはなかったらしい。彼は優しく微笑むと、だが首を振り否定する。


「テイムではないよ。テイムは使用可能な相手が定まっていて、その中にワイバーンは含まれていなかっただろう?」


確かにテイム系のスキルはあるが、行えるのは動物型などの一部のエネミーだけだ。ワイバーンが出来るなど言う話は聞いたこともない。


「え……じゃあどうやって?」

「あー……実はだね」


何故か彼はリアルの問いに対してその顔に照れたようなものを浮かべ、そして答えた。


「実は彼女はね、私の妻なんだよ」

「妻」


妻?


「ああ妻だ。つい先日ようやくプロポーズを受け入れてもらえてね。めでたく夫婦となれたんだよ。式は挙げていないけどね」


彼はそういって、ワイバーンの眼の下の辺りをなでる。それに応じてワイバーンが気持ちよさそうに目を弓なりに細めた。


「今も空のデートから戻って来たところなんだよ」


ええと。


俺は彼の表情と瞳を見た。

……ああ、うん。これ多分ガチだわ。こっちを揶揄ってるとか、そういうのじゃない。


「あの、でもプロポーズってどうやったんですか? 言葉通じないですよね?」


「<<ビーストエンパシー>>というスキルがあるよね。ゲーム上は動物の敵意を無くすスキルだけど、こちらの世界ではどうやら意思疎通ができるスキルにグレードアップしたらしくてね」


ああ、スキルの増減だけではなくてスキルの効果が変わっているものもあるのか。……新規追加スキルに関してはわかる範囲で確認してたけど、内容が変動しているスキルも確認した方が良さそうだなぁ……使えるようになっているスキルもあるかもしれない。


俺がそんなことを考えている間にも、竜翔さんは言葉を続ける。


「普通はそこまで明確な会話をするようなものではないけど、ワイバーンは知能が高く人語を理解しているためかこのスキルを使うと会話自体ができるようになるんだ。なので僕は美しいワイバーン達の中でももっとも容姿端麗で、初めて見たときに一目ぼれをしてしまった彼女を口説き落としたんだよ」


喋るごとに明らかに声のテンションが上がっていくのがわかる竜翔さん。


そのまま彼の語りはどんどん盛り上がっていき、彼女との馴れ初めや繰り返しアタックをかけの話などまで語り始めた。


正直なところちょっと理解が追いついていない。ただそれを顔に出して機嫌を悪くされるのも問題なので、表面上は笑みを浮かべておいた。

他のメンバーを横目で見れば、俺と同じくポーカーフェイスが得意なメイは俺と同様に穏やかな笑みを浮かべている。あまり感情を出さない岩鉄は無表情、フラットはそもそもよくわからない。シードは何に対してかはわからないが、感心した表情を浮かべていた。


そして質問主のリアルはその目を輝かせ、彼の言葉にうんうんと頻繁に相槌をつきながら聞き入っていた。これ多分最初の質問した時の意図はもう忘れてるな?


そのまま、ゆうに5分は超えただろうか? その時のことを思い出し興奮したのかやや顔を紅潮させてプロポーズ時の一シーンを語り切ったかれの話がようやく止まった。


彼は大きく息を吐くと、ぽりぽりと頭を掻きながら明らかに友好的と取れる表情をその顔に浮かべて言った。


「いやぁすまないすまない、つい興奮して語りすぎてしまったよ。君たちの話もこれから聞くから、ひとまず中に入ろうか」


あれこれリアル超ファインプレーか?






トル

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