希望
二週間に一回とか言いつつ、いつの間にか3週間たっちゃいました…申し訳ございません。
今年から受験生なのでもっと頻度落ちる可能性大です。ほんとすみません。
シンテティアムは山本の様子を見に行った時、彼が持つ力に驚愕した。あれは大賢者≪グレートアフターマスターベイショナー≫にも劣らぬ―いや、それ以上かもしれない力を感知したからである。
というのも、ヴァージンエネルギーには、ヴァージンエネルギーを持っていれば持っているほど、他者が持つヴァージンエネルギーの度合いというものがより正確にわかるようになるという性質があるためだ。
「はじめまして、神父を務めておりますシンテティアムと申します。」
窓から光が差し込み、彼の肌白い顔がより一層白く見え、しわも明るさのせいでかなり目立っている。立派な髭も光の反射でつやつやしているように見える。その様子が彼の貫禄をより高く見せ、山本は多少ながらひるんでしまった。見るからに厳つい。しかし、今は彼に対し自分を敵と思わせない何かしらのアプローチが必要だと考えた山本はひきつった笑顔で挨拶を返した。
「は、はじめまして。山本健史です」
この大きく豪華な神殿の神父であるということは社会的地位も相当高いはずであると山本は判断する。そうであれば、この世界で楽に暮らすため、是非とも彼を味方に引き込みたい。そのためにも、慎重に言葉を選ばなくては。
「えっと、俺、いまいちこの状況をつかめてないんですよ…。一体ここってどこなんですか?」
とりあえずここがどこなのかははっきりさせておきたい。
「ここはレイデル王国の城下に位置する、ゼンブルの町です。ここはその町の中心にあたります。」
うん、念のため確認したけど、やっぱりここが異世界ってのは確定した。
「なるほど…」
しばらくの沈黙が続く。この間に自分がいま置かれている状況を確認してみるが…情報量が少なさ過ぎてかなりやばい。童貞なら魔法が使えるらしいけど…ちょっとその辺聞いてみよう。
「あ、あの、童貞なら魔法が使えるって本当ですか?」
恐る恐る質問してみる。この世界で魔法が使えるなら、前の世界では味わえなかったワクワクするような冒険ができるのではないか。魔物を倒して、ダンジョンでお宝を探して、お金持ちになって、名声も手に入れて…。山本は子供のように胸を弾ませる。
「ふむ。ヴァージンであれば、みな等しくヴァージンエネルギーを持っているので、多少の知識があれば魔法を使えるでしょうな。ただ、500年前の童帝≪ヴァージンオブヴァージン≫様は、感覚だけで魔法を使ってたそうですが…」
それを聞いたクラリスは、シンテティアムに報告し忘れたことをすぐに思い出す。
「あ、それなんですけど、タケシさんってその500年前の童帝≪ヴァージンオブヴァージン≫様と共通点が多いんですよ。それに、ヴァジナス様から啓示を授かったり、お腹のあたりに不思議な紋様もうかがえましたし。」
聞いた途端、シンテティアムの目が大きく見開いた。
「なんと!?真か!?失礼ですがタケシ殿、腹部を見せてはいただけませんか?」
山本は一瞬躊躇する。彼の体型は細身―といってもまるで病人のようであるが、しまりのない腹を見られることに多少の抵抗があったからだ。しかし、これは彼を味方に引き込む大きなチャンスかもしれない。結局、見せるのが最も賢明だと山本は判断した。
「ええ、まあ…いいですけど…」
「ありがとうございます。それではそちらのベッドに横になってもらえますかな?」
「はい」
言われた通り、ベッドに横たわる。そして彼のパジャマを開くと、腹部には青白く、神々しく光る紋様が浮かび上がっていた。それを見たシンテティアムは興奮のあまり、声を張り上げてしまう。
「こ、これは…まさしく500年前の童帝≪ヴァージンオブヴァージン≫様と同じ紋様ではないか!」
シンテティアムは彼が持つ力が桁外れだとは理解していたが、正直、あの英雄と同格クラスの力を持っているとは想像もつかなかった。世界が救われる時が来たという歓喜からか、シンテティアムはかなり興奮していた。クラリスはこんなシンテティアムを初めて見るほどである。
彼は毎日毎日、いつ魔物の軍勢が攻めてくるのか、人間が生き残ることはできるのか、いつも悲観していた。しかし、ある日、彼は珍奇な出来事から、一つの希望を手に入れた。人間が勝てるかもしれないたった一つの希望。こんなぬぼーっとした男に人類を託す時が来たのである。
「どうか!どうか、人類に平和と安寧を…!!!我々をお救いください!!!」
彼の必死の懇願をみて、ノーと答えられる人間はどれほどいるのだろうか。そう思わせるほどの鬼気迫る土下座を彼は躊躇もなくやって見せたのだ。こうまでされたら、イエスと答えるほかあるまい。
「わかりました!わかりました!やりますから頭を上げてください!ね?」
そういわれシンテティアムは落ち着きを取り戻し、顔を上げる。そのしわくちゃな顔には、大量の涙が垂れている。彼がどれだけの思いで山本に人類の辿る運命を委ねたのか、それを見れば嫌でも一目瞭然である。
「本当ですか…?」
涙目で恐る恐る聞く彼を見ると、どうしても断れない。ここまでされて断るのはなにかいたたまれない気がするので、快く承諾した。
「もちろん!この山本にお任せください!」
彼はその言葉を聞き、また深く頭を下げ、嗚咽と混じった感謝の言葉を何度も繰り返す。
「ありがどうございまず…!ありがどうございまず…!」
―――
「みっともない姿をお見せして申し訳ありませんでした」
シンテティアムはまずそう謝罪する。しかし、そこにわずかでも人類が救われるという希望があるならば、それは不自然な行為ではないし、みっともないどころかむしろ彼は立派である。
半ば強引ではあるが、彼は世界が救われる僅かな可能性を手にしたという事実は評価されるべきだろうと私は思う。そしてこの可能性というのが私である。つまるところ、権力者である彼を味方に引き入れることができたわけである。
「い、いえ、あなたがこの世界を救いたいという願いは、なんていうかその、すごく立派といいますか…」
中々うまく伝えることができない。
ところで、よくよく考えてみよう。
命題:頼りない男に世界の命運を託せるだろうか。
無理ですね、はい。なのになんでこの人たちは疑わないの?大体話がぶっ飛びすぎてるんだよ。なんで俺が500年前の英雄と一緒にされてんの?おかしくない?
「いえ、所詮は何も出来ぬおいぼれ。立派なのはその寛大な心と勇気を持ったタケシ殿の方ではありませんかな?」
なんかすげえ持ち上げられてるし…。
「い、いえ!ともかく世界の命運は私にお任せください!」
よし、途中で死んだことにして、どっか辺境の村辺りにでも亡命しよう。それまではこの神殿にお世話になろう。
―――
以下の問いに答えよ。
問1 タケシ・ヤマモトがこの地に降り立ったのは何年のことか。
A.789年
問2 775年にビグレイト神殿の神父に就いたシンテティアムはタケシ・ヤマモトをどんな人物と評したか。
A.寛大な心と勇気を持った真の勇者
≪サフィエヌト魔法学院 1469年 入試問題 歴史≫より抜粋
なんかすごい英雄扱いされちゃいましたね…




