二人の英雄と二つの正義
更新頻度が…
今週末は暇なのでもう一本投稿できるかと。
ここレイデル王国は城壁で囲まれており、その外側にはネイブル平原が広がって、そこは薄い霧に包まれている。この霧についての具体的な原因は未だ分かっておらず、学者のほとんどは気候によってのものであるとの見解を示している。地面は一面が芝に覆われていて至って普通の平原である。しかし、そこでは幾度となく魔族と人間との戦争が繰り広げられてきたわけだが、その戦争の度にもたらす損害は王国にとっては非常に大きく、今現在国力が疲弊しきっている状態であると言える。対して、魔族はというと軍の大半は知恵や意志の持たない低位のアンデットによって構成されているため、人間が勝ったとしても大した損害にはなり得ない。というのも、低位のアンデット程であれば高位な魔族の≪賢者/アフターマスターベイショナー≫なら容易に生み出すことができるからだ。それにアンデットには生者を恨み、ひたすらに惨殺するという習性がある。その習性を活かせば、あとは指揮官が命じた通りに動くので魔族側の本丸は高みの見物をしているだけで相手を苦しめるには十分なのである。
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国王ラルフ=アルバート=ガリマニル2世は憂いていた。人間がこの先生存できるかどうか、ということを。魔族の力は強大で、我々人間は所詮矮小な存在にすぎないのかもしれない。
彼がそう思うに至ったのはこれまでの戦争の結果によってである。
低位のアンデットの大軍相手に勝利を収めるどころか、やっとの思いで撃退できるほどの力しかないわけで、彼らがもし本気を出してきたとすれば我々人間の敗北は濃厚である。
そして、三日前ほどに国王に宛てられた文書が一通届いた。
『レイデル王国国王ガリマニル2世に告ぐ。1ヵ月後が人間が生きられる最後の日であると宣告しておく。そしてその日、我々の力をもってして貴様ら人間を我が僕、あるいは奴隷とし、汝らの国も我がものとする。よってここに宣戦を布告する。
魔界王及び魔族軍第3代総統 魔神王クーマルム』
今回は今までの戦争とは違う。我々を支配するため、苦しめるため、人間としての尊厳を奪うための、絶望を与えるための戦争だ。いや、戦争なんて生ぬるい言葉では言い表せないほどのものかもしれない。あの憎き魔族どもめ。500年前の恨みだとすれば、我々に非はない。人間を恐怖に陥らせた魔族こそが悪なのだ。
ともかくこの状況を打破するためにどうするべきか、ガリマニル2世は必死に思考をこらすものの1ヵ月で何ができるかと問われればヴァジナスに祈りを捧げる他ないという結論に至った。
「ヴァジナス様、どうかか弱き人間をお救い下され…」
こんな時に神頼み以外の術を思いつかないとは、なんて不甲斐ない王だ。自分は本当に君主たる器に相応しいのか。そう問われれば否と私は答える。ならば、せめて人民を避難させ…いや、魔族の進行が東側まで来てしまえば混乱が生じてしまう。ならば、人類の存続のために戦うほかはあるまい。しかし、勝算があるかといえばほぼ0に等しいが、何かしら策を練ればわずかに勝算は浮かび上がるかもしれない。ならばどうすればいい。
先ほどの願いが届いたかどうかは不明であるが、その瞬間にドアをノックする音が聞こえた。
「陛下、少々よろしいでしょうか。」
宰相のフェルゲイか。何かあったようだな。この先の人類が存亡の危機に立たされている中ではあるが、今できることの最善は国王としての責務を果たし、人類を救う手立てを必死に考えることだ。ならば、まずはフェルゲイの話を聞く他あるまい。
「フェルゲイか、入れ」
「はっ、失礼致します。」
そこでフェルゲイは突如としてゼンブルの町の広場に謎の男が空から降ってきたと伝えた。人が空から降ってくるとはなんと奇怪なことであるか。そんな信じられん。しかし、そんな信じ難いことにすらすがりたくなるほど、我々に危機が迫っている。もし彼が、何らかの力を持っているとするなら―――
「ビグレイト神殿に勤める者によると、500年前の彼の大英雄と同様の力を持った者の可能性があるかもしれないと…」
これは奇跡あるいは幸運だろうか、それとも予定された運命だろうか。いや、そんなことはどうでもいい。もし彼が彼の大英雄、童帝≪ヴァージンオブヴァージン≫と同様であるなら、我々人間は救われるはずだ。
「うむ、今すぐ連れてまいれ」
「かしこまりました。直ちに連れてまいります」
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人類にとっての希望の剣、彼の童帝≪ヴァージンオブヴァージン≫はそう言われて魔界を統べる王である第2代魔界王グスコフを討ち、封印した。500年前の大戦争では彼の活躍により人類は魔界を壊滅させるまでに至った。これを受け以後、魔族は400年以上もの間人間の奴隷として酷使され、その恨みを晴らすかの如く、30年ほど前にある指導者を筆頭に西方で大反乱を起こし、魔族が住むための国の独立―現魔界を立ち上げることに成功した。そして反乱の幼いながらも指導者であったクーマルムは魔族を統べる魔界王になり自らを魔神王と名乗っている。彼は魔界の間では英雄視されており、魔界の代表的歴史家スケラマの著書、「魔族の興亡について」の中では「魔界は獅子の如き勇猛と神の知を持ち合わせたクーマルムの賜物」と評するほどである。
『魔界についての研究報告』より一部抜粋
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ここ魔界はネイブル平原が属するグレゴント大陸の最西端に位置し、レイデル王国の隣国であり、そして西側には広大なグレゴント洋が広がっている。魔界の都市は見栄えこそ人間の都市と大差はないものの、そこに住む人々はほぼ亜人か魔族である。この世界には様々な人種が存在し、大きく2つに分けると人間と魔族、さらに魔族の中にはドワーフやオーガ、亜人にはエルフやヒューマンビーストなどなど様々で、中には異種間同士の親から生まれた魔物もいるためその種類は数え切れないほどである。魔界において高位な種族は、ほとんど魔法を使うことができ、その中でも最も高位な種族は賢者≪アフターマスターベイショナー≫と呼ばれ、強力な攻撃魔法を使ったり、難解な術式を用いた高位な魔法、他にもアンデットをほぼ無限に生み出し、使役することができる魔法などなど、魔法に関して優れた才能を持っている。
また、魔族の中でも差別はあり、人間に近い亜人は迫害される傾向にあるため都市では暮らせない。そのため彼らは森に集落を作りそこで共生している。
魔族がなぜ亜人を迫害するかといえば、500年前の大戦争に大敗し、彼らは人間に奴隷として扱われ酷い仕打ちを受けた。そのため魔族は人間に恨みをもっており、人型に近い亜人を差別してしまうのだ。
しかし、亜人とてかつては人間の奴隷として扱われた哀れな種族。そこで王であるクーマルムは亜人を役人として積極的に登用するなど非常に寛大な政策をとっている。このおかげで差別はこれまでよりも少なくなり都市に暮らす亜人も徐々に増えてきているのが現状である。
また、中には1000年以上も生きる種族もおり、人間に支配されていた頃を経験した者もいる。そういった者から話を聞いた若者が人間を恨み、いつか自分が親の仇をとるために人類を滅ぼすと躍起になっている者も多い。
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魔族にとって人間は絶対悪であり、魔族にとっての魔族は絶対の正義である。
しかし、人間にとっての魔族は絶対悪であり、人間にとっての人間は絶対の正義である。
クーマルムはこれが何よりも許せなかった。自分たちが犯した罪に対して碌に反省もせず、謝罪もない。そもそも500年前の事の発端は人間が魔界に住むすべての生物を悪とみなしていたからではないか。確かに、魔界の中で重大な罪を犯した者は外へ追放され、人間を襲ったりもするが…魔界にはそんな魔族は決していない。魔族の全てが凶暴で、残忍で、残虐であると決めつける人間こそが傲慢で酷悪なんだ。僕は、人間が許せない。だったら人間を徹底的に滅ぼすまで。人類に絶望を与え、魔族こそがこの世において偉大な存在であることを示そう。
「先代の仇は僕が取るよ。だからゆっくり休んでね、グスコフさん」
人間どもよ、絶望をもってして魔族の偉大さを知れ。
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クーマルムは王としての器には相応しい人物である。彼は456年に奴隷の両親から生まれ、幼いころから300年程も人間の奴隷として労働の日々を送り、そして彼が303歳の時、魔界の独立を求め反乱を起こした。奴隷たちは主人の命令に背けないよう支配魔法を施されていたが、クーマルムは夜な夜な主人の魔法書を盗み見し、そこから得た知識によってその魔法の解除術式を編み出し奴隷を次々と解放した。彼の手によって解放された奴隷はクーマルムの反乱に参加し、最終的には5000を超す魔族が反乱に参加したと言われる。これを鎮静するために人間側は兵士2万に及ぶ大軍を派遣するも、人間側の死者8000人に対し魔族側の死者700と大敗。この反乱の鎮静に大失敗し、魔界の独立を認めざるを得なかった。魔界の独立後、反乱の指導者で大活躍したクーマルムが即位。彼は君主としても素晴らしい人物であった。それぞれの種族に個人間での宗教の選択の自由を与える他、人種差別を無くすため亜人の役人を積極的に登用し、さらには魔法技術への投資を行い国力を漸次蓄えていった。こういった事から魔界は獅子の如き勇猛と神の知を持ち合わせたクーマルムの賜物と言えるだろう。
『魔界の興亡について―第三代魔界王についての記述―』より抜粋
クーマルムさんも実はすごい人なんです




