強者たる所以
遅くなってすみません
ささ、どうなるんでしょうかねー
クラリスはふと、あることを思い出した。
「そういえば、神父シンテティアム様への挨拶はまだでしたね」
この神殿の長である、神父シンテティアムと山本はまだ顔を合わせていない。というよりも、顔を合わせていたものの彼の意識はなかったため、一方的に顔を見られたと言うべきか。
「し、神父様ですか?」
「ええ、この神殿で一番偉い方ですよ。今呼んできますね」
「ほえー、この大きい神殿の…すごい人なんだろうなぁ、きっと」
これほどの神殿の長であれば、どれほどの人物なのだろうか、厳格で怖い人なのだろうか、はたまた慈愛に満ち溢れた心優しい人物なのか、などとどうでもいいことを思いつく。
しかし、先ほどから疑問に思っていることだが、果たしてここがどこなのか、少なくとも日本ではないということは理解できる。それに、日本という国の存在すら神聖視されている…。つまり、この世界の地図上にの本はおそらく存在しないといっていいだろう。ただ、山本が不思議に思っていることがただ一つ、使用されている言語についてだ。これまでクラリスやギャリーとの会話は日本語でなんの問題もなく行えている。となれば、ここでは日本語がメジャーな言語として扱われているのだろうと推測する。しかし、神殿の造りの西洋風の趣や、クラリスの服装、ギャリーの武装といった要素が日本語が使われているという事実に大きな違和感を生む。
「どうした?俺の鎧になんかついてるか?」
「ああ、いや、ええと…」
この状況を整理しているうちに無意識にギャリーの鎧をじっと見つめてしまっていたようだ。そうだなぁ…ええと…
「ぎゃ、ギャリーさんって戦士をやられているんですよね?」
「おう。俺はこう見えてもこの辺じゃ名の通る戦士なんだぜ?」
「へー、じゃあお強いんですね」
「まぁな、王国の剣術選手権大会で優勝したくらいだからな」
「剣術選手権大会…?」
「おう。この辺の腕っぷしに自信あるやつらが参加する大きな大会だ。剣で王国の中で誰が一番強えのかを決める大会だな。」
「え!?そんな大きな大会で優勝したんですか…それはすごいですね」
「だろ?」
それよりも、ここがどこなのか、何が起こっているのか、この世界で生き永らえるために、なるべく多く情報を集めなくては。
「えっと、ここって一体どこなんですか?」
「ああ、お前は確かニホン?とかいうところから来たんだよな。俺も上の世界とやらに行ってみたいなぁ」
上の世界だの神の国だの、そんな大層なものじゃないと山本は憤慨する。むしろ逆だ。あそこは地獄でしかない。何が「全員が幸福を享受できる」だ。幸せなんてこれっぽっちも無かった。幼いころから勉学も運動も全く出来ず、親にも期待されず、学校でもいじめられ、不登校になり、そっから頑張って勉強して、なんとか中堅の大学に入学して、就活も頑張って、自立して、色々頑張ったよ…。でも、ブラック企業に死ぬまでシゴかれ、しまいには女性とのお付き合いなんてせずに、童貞のまま死んでしまった。
そう考えているうちに、自分の積み上げた苦労のように、瞳に涙があふれてきた。
「何が…神の国だよ…」
「ん…?」
「一生懸命に生きたよ!努力もしたよ!それでも、幸福なんてこれっぽっちもありゃしなかった!」
「…」
しまった、ギャリーに八つ当たりしてしまった。そんなに親しいわけではない相手に怒りをぶつけるなど言語道断である。ギャリーだって人間だ。そりゃ怒りをぶつけられたらまた怒りを返すに決まっている。
どんなことを言われるのだろうか、恐ろしくて仕方がない。
「……そうか、ヤマモトも色々大変だったんだな」
「え…?」
山本は想定外の一言に戸惑う。怒鳴られると思った。殴られるかと思った。しかし、彼は山本に同情し、慰めの一言を投げかけた。
「結局、甘い汁吸えんのは一部だけだよなぁ。それはこの世界でも一緒だよ。どんなに努力しようが苦労しようが、権力や才能に勝ることはありえない。これは絶対だ。」
明確な根拠はないが、彼の発言には説得力がある。この悲壮な顔を見れば誰だってそう思うはずだろう。きっと、彼もそういう世界で生きて、そういう人たちをこの目で見てきたのだろう。あるいは、彼自身がそういう経験をしたのかもしれない。
「ニホンとやらで相当な苦労をしたんだろうなぁ。お前さんのひどくやつれてるその面を見ればわかるよ」
一瞬、ギャリーの表情が曇った。
「俺も、そういうやつらを見てきたからな…」
彼もまた、この世界に負の感情を抱いているのかもしれない。それでも、彼は剣を手に取り、戦い続け、強くあろうと努力をするのだろう。
なら―――
「僕に、強さの秘訣を教えてもらえませんか?」
「強さの秘訣か…そうだな、その前にまず一つ聞こう。お前、童貞か?」
―――
この世界において、魔法技術はヴァージンエネルギーを主たる源として成り立つ。このエネルギーはヴァージンであれば誰もが持つことができ、ヴァージンを拗らせればこじらせるほど、あるいは年月を経れば経るほど、個人の持つことができるヴァージンエネルギーは増幅する。ただ、注意すべきことにヴァージンを捨ててしまうとこのエネルギーを一切持てなくなり、魔法は一切使えなくなる。
【魔法技術大全―第一項 概説】より抜粋
―――
「…というわけだ」
一通り話を聞いた山本は、あの胡散臭い神様が言っていたチカラについて納得する。32にして未だ童貞の彼が持つエネルギーの量は小さな村を一人で滅ぼすには十分な程だ。それに彼の場合は女性経験が非常に乏しいため、それも相乗すると考えればこの世界の一国を滅ぼすには十分すぎるほどだ。いや、それどころか世界を揺るぎかねないほどのチカラかもしれない。
「で、ヤマモトって結構歳行ってそうに見えるし、これで童貞だったら逆にすげぇレベルだぜ」
悪意に満ちた―あるいは確信を持っているのかもしれない―笑顔で自分のコンプレックスを小馬鹿にされ少々の苛立ちと恥ずかしさが交錯する。だが、この世界で生き残るため、強くなるため、彼に教えを乞うのが最も賢明な判断だろうと思い、山本はこう答えることにした。
「残念ながら、童貞です」
「ハハハッ!言われなくてもわかってたぜ!お前、クラリスと話してるときめちゃくちゃ挙動不審で、もう、笑いこらえるのに必死だったんだぞ?」
「ず、ずいぶんと失礼ですね…」
「おう、俺は正直者だからな。話すときはいつも本音だぞ?」
ギャリーはまた一瞬少々怪訝な表情を浮かべた。
「正直すぎるから、ああなっちまったのかもしれねぇな…」
「…?」
「ああ、いやなんでもねぇ。こっちの話さ」
彼の過去を詮索するつもりは一切ないが、そこにその強さの理由があるならば、いつか聞いてみたいと思ってしまった。今は聞くべきではない。彼のひきつった笑顔を見れば、聞く気にもなれない。それこそ本当の無礼にあたるだろう。
「いつか、僕に強さの秘訣を教えてくださいね」
この一言にギャリーは驚いた。童貞のくせに、中々言ってくれるじゃないか。不本意ながら彼は、青白くやつれた顔をした人間が、いつか強くなって、世界を救うのだろうと思ってしまった。
「ああ、いいぜ」
―――
話し込んでいるうちに、クラリスが戻ってきた。隣には神父と思しき貫禄のある人物が立っている。
「お待たせしました。こちらがこの神殿の神父を務めるシンテティアム様でございます。」
ギャリーからはこの世界の魔法の仕組みくらいしか聞けなかったし、まずは、この人に色々訊ねてみよう。
―――
「クーマルムサマ、コチラガオッシャッテイタツエデゴザイマス」
「ふむ、ご苦労様ー。あっさり盗めると思ったけど、結構時間かかっちゃったねー」
「モウシワケゴザイマセン」
「うーん、それなんかダサいし、それは君が持ってていいよー。それにもうすぐ人間滅ぼすしー。それ盗んでも盗まなくてもあんまり関係なかったかなー?これさえ盗めばあそこ弱体化できると思ったんだけどねー。ま、計画通り進んだしいっかー」
「…カンダイナオココロ、カンシャイタシマス」
「うん。あ、そうだ。お願いがあるんだー。最近レイデル王国に空から人が降ってきたらしーよー。なんか面白そうだし、その人間を捕まえてさ、オモチャにしようよー♪」
「ハッ、カシコマリマシタ。タダチニケイカクヲタテ、ジッコウイタシマス」
「うん、よろしくー♪」
おそらくこの先、執筆ペース落ちると思われます。目安として2週間に一回投稿できれば…と思っております。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
ささ、クーマルムがしゃべりましたよー




