表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/65

Episode:36

 呪文が発動して、虚空に稲妻が閃いた。これを見れば、先輩たちは何か起こったことは、分かってくれるはずだ。

「な、なんだ?」

 瞬間明るくなった辺りに、男たちが慌てる。


「わからん、だが急ぐぞ!」

 短銃を突き付けられたまま――あたしにはあんまり意味が無い――追い立てられるように暗い庭園を横切って、塀のところまで来る。


 驚いたことに柵の一部が門になっていて、出入りが可能だった。なにかあったときのために隠しでつくられたのだろうけど、これが今回は裏目に出たみたいだ。

 暗いうえに、に門の向こうも木々が茂っていて、見通しはあまりよくない。けどどうにか、車が停められているのを確認する。


――それにしても。

 さっきも思ったけど、やっぱり内通者がいたらしい。そうじゃなきゃこんな場所の隠し扉、部外者が知ってるわけがない。

 「過激派」って話でここへ来たけど、アヴァンの内部事情は、かなり複雑みたいだった。

 何かの手がかりになるかもしれないと、男たちの話を聞き漏らさないようにする。


「ほんとにこのまま、殿下とこの子を連れて行くのか?」

「目撃者を放っておくことは出来ん。

 まぁ、少ししてから死体を放り出すさ。そうすればアヴァンの手落ちだと、ユリアスが責め立ててくれる。好都合だ」


 なるほど、と思った。

 どうもこの過激派、アヴァンがユリアス――シエラの本校があるあたしたちの国――と対立すること自体は、むしろ嬉しいみたいだ。ただそれには、少し長引かせて騒ぎを大きくしてからのほうが、確実ってことなんだろう。

 何か特定の思想で動く集団が、騒ぎを起こしてるだけって思ってたけど、もっと大掛かりな組織みたいだった。


 いろいろ考えながら、ともかく当分は、おとなしくしておくことに決める。

 今のあたしの強みは、ふつうの女の子と思われてることだ。彼らはあたしが戦えるなんて、夢にも思ってない。

 この勘違いを、利用しない手はなかった。


「予定通り白い森へ向かうぞ。――さっさと乗るんだ」

 この部隊?のリーダー各らしい男に、車へ押し込まれる。

「この子に乱暴なことをするな。骨でも折れたらどうする気だ」

「殿下、立場が分かってらっしゃらないようですね」


 言葉とともに、銃口が向けられる。

 けど殿下は、微動だにしなかった。


「生かしておいたほうが価値があるから、攫うのだろう?

 それに僕に手を出せば、この国の世論は一気に動く。そうなったら困るのは、お前たちのほうだと思うが」


 この殿下、思ってたよりもずっと、肝が据わってる。それに自分の価値がどこにあるかも、それがどう利用できるかも、ちゃんと把握してる。

 ちょっと見直した。

 まぁそれでも、いざ脱出となったら、役には立たないだろうけど……。


「まったく、口の減らない殿下だ。まぁそれも、いまのうちだろうが」

 男が言いながら、前の席に乗り込む。

「尾けられていないだろうな。よし、出せ」

 闇の中を、車が走り始めた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ