Episode:27
「その、連絡したので……用意は、もうしてるはずです。あと日時を言えば、すぐここへ届きます」
このアヴァンの近郊には、小さいながらシュマー家の施設がある。しかも本拠地よりずっと交通の便がいいので、あたしをはじめかなりの人数がよくここを利用していた。
そんなわけでシュマーの面々が使うための服が、そこにはたくさん置いてある。そしてその中には、あたしたち総領家の物も、けっこうあった。
「そんなにすぐ、用意できるの?」
「はい」
このくらいのスピードがなければ、戦闘集団の要望には応えきれない。
まぁ「正装をありったけ用意して持ってこい」っていうのは、珍しい要望だろうけど……。
「ねぇ、ルーフェイア」
エレニア先輩が、鋭く訊いてきた。
「前から思ってたんだけど、あなたいったい、なんなの? ロアと二人で、何か隠してるでしょ」
気持ちは分かった。あたしも多分、目の前でこんなことをされたら疑問に思うだろうから。
でも、答えるわけにいかない。
どうしようかと考え込むあたしに代わって、口を開いたのはシルファ先輩だった。
「エレニア、疑問はわかるが……この際、いいのではないか?」
「それはそうですけど……」
シルファ先輩の言葉にそう応えたものの、エレニア先輩はまだ不満そうだ。とても頭がいいから、曖昧なことが気になるのかもしれない。
そこへ今度は意外にも、シーモアが口を挟んだ。
「先輩、実言うとあたしらも、ルーフェイアのことは知らないんです。けど、それでいいんじゃないですか? 彼女は優しくていい子だってだけで。
だいいちあたしら、殆どがワケありですし」
言外に、これ以上突っ込むのならたとえ先輩でも容赦しないというものを、漂わせている。
一瞬どうなることかと思ったけれど、幸いにもそれはなかった。
「――そうね」
思うところがあったらしく、先輩が引き下がる。
――こうやって、どれだけみんなにかばってもらっただろう?
あたしがみんなに話したことは、ほとんどゼロと言っていい。
それなのにみんな、何も聞かないでいてくれる。あたしが曰く付きなのを知りながら、知らないふりをしてくれている。
ありがたかった。
もしみんながこうしてくれなければ、とうの昔にバレて、学院を退学しなきゃいけなかったはずだ。
「あるだけ、用意したの。みんな好きなの使ってね?」
思わずそう言う。
「ああ、使わせてもらうさ。ただあたしとしては、あんまり着たくないんだけどね」
「だよね〜。シーモア、こゆのあんまり似合いそうにな――ったぁい!!」
言葉の途中で見事に殴り付けられて、ミルが悲鳴を上げた。
「ったく、見たこともないくせに好き勝手言いやがって。後で驚くんじゃないよ」
思わずみんなで爆笑する。
でもシーモア、ミルの一言に怒って嫌いなドレスを着ることにしたみたいだ。
――乗せられたって言う気もするけど。
ただとりあえず、説得しなくてすむのは助かる。シーモアのスカート嫌いは有名だ。
「それにしてもあるだけって、いったいどのくらいなの?」
「え? たいした量じゃないけど……でも少しでも、多いほうがいいと思って……」
やけに期待してるナティエスに、そう答えるしかなかった。いちおうひととおりは揃ってるけど、あくまでも「それなり」だ。だいいちシュマーはもともと戦闘集団で、貴族じゃない。
「ふぅん、そう。でもまぁいいかな? 滅多に着られないもんね♪」
「ごめんね、期待裏切っちゃって」
久しぶりにのんびり、みんなと会話しながらの時間だった。