Episode:02
昇降台を降りると、いつものようにひんやりとした風が駆けぬけた。
玄関に飾られてる水盤を、水が流れる音が響く。
はじめて見た時、不思議なくらいに澄んで見えたこの校内。その印象は、いまでも変わらない。
あれから、ちょうど1年。夢を見ているような気がする。
でもその夢は覚めることがなくて、あたしを取り巻きつづけていた。
――覚めませんように。
わかっていても、いつもそう願わずにはいられない。
ある日目が覚めたらそこはやっぱり戦場で、これはぜんぶ夢。そんなふうになりそうで仕方がなかった。
これが夢じゃないと信じられるようになるまで、どのくらいかかるのだろう?
せめてこの学院を卒業するまで、このままでいられますように……。
そう祈りながら廊下を歩く。
もう何度となく歩いて慣れているはずなのに、それでも足元が浮いているような気がした。
廊下を曲がって、中庭へ足を向ける。
図書館、診療所、そして食堂。
傭兵学校のはずなのに、ここにいると戦場を忘れそうだ。
広くて清潔で小綺麗な食堂の中も、まさに平和だった。たくさんの生徒たちが、お喋りをしてる。
それをひととおり見渡して、あたしは先輩たちを見つけた。誰かにぶつかったりしないように、ゆっくり歩いてそっちへ行く。
でも声をかけようとして、あたしは躊躇った。
――先輩たちの周り、空気が違う。
踏みこんじゃいけない、そんな雰囲気だった。
時折交わされる言葉は少ない。でもそこに、絆が見える。
その一言一言、何気ない仕草。そんなところから互いへの思いやりが感じられた。
いいな、と思う。
父さんと母さんもそうだけど、こんな風にお互いに相手を信頼して、尊敬できるなんて。
穏やかに会話を続ける先輩たちが、 見ていてとても羨ましかった。
いつかあたしにも、こんな風に話せる相手ができるんだろうか?
そんなことを考えながら、どのくらいぼうっとしていたのだろう。
「ルーフェイア。そんなところに立っていては、迷惑ですよ」
「あ、すみません」
さっそく先輩に注意される。
――でもよく考えたら、呼び出したのは先輩だったような?
けどそう言ったところで、また怒られるだけだろう。
「ともかく座りなさい」
「はい」
向かい合わせに座る先輩たちの間に入る格好で、あたしも椅子にかけた。
気をつけないと、またいらないことを言って怒られそうで、ともかく落ちつかない。
「あの、お呼びだって、聞いたんですけど……?」
恐る恐る、タシュア先輩に訊いてみる。