8-2
ティーテとメルラ、そしてアイリスは話があるとの事で謁見の間に残り、俺達はティーテが別に呼んだ侍女に客間まで案内されていた。その客間は旅館であるような和室そのもの。唯一、無いものとすれば畳だけだ。フローリングになかなかの心地の良い絨毯が敷かれていた。
座椅子が2つあったのでクーラと俺が座り、ギーベストは立ったまま壁に背中を預けた。侍女が案内を終わり、「御用があれば」と客人に対するテンプレ対応の後、客間を後にした。
・・・って、俺とクーラ。同じ部屋かよっ。ま、いいけど。
「っと・・・それで、武闘会。だったか?ルールとかあるのか?」
「・・・そうか。シューイチは知らなくて当然か」
『私も知らないんだけど~』
「ああ、すまない。お前達は。だな」
『そうそうっ』
「クーラ様はご存知で?」
「はい・・・アイリスから話で聞いておりますので」
まだ元気の無いクーラ。返答は出来ているが相手を見ず、ずっと下を向いていた。
「なるほど。ならシューイチ。イリス。武闘会っていうのは・・・」
ギーベストから簡単に説明を受ける。
武闘会。フォレフォスは昔、強者が物事を決めるのが習わしだったそうだ。そしてそれが次第に王を決める闘いへと発展し、現在では王の座を得たい者は現王に武闘を挑み、勝利する事で次代の王なれる。そして王はその挑戦を拒否する事は出来ない。必ず受け、挑戦者にその資格があるか。すなわち民を預けるのに相応しいかを見定める。
だが、ティーテの代になってからは誰一人挑戦者が居なくなった。ティーテがあまりにも強すぎたからだ。ギーベストも居たという王と精鋭達の武闘。それは誰も挑みに来ず、退屈だったティーテが提案したものだった。「私に一撃でも入れることが出来た者には褒美を与える」との報酬を付けて。だが結果は2秒で決着。ティーテの戦斧から放たれた魔法の衝撃により、武闘会の会場が半壊したと共に精鋭達は気が付くとベッドの上で天井を見ていた、との事だった。そんな中で辛うじて意識を保っていたギーベストは近付いてきたティーテに「1割も出さずに終わってしまった」とかなり幻滅した顔をしながら言っていたのをよく覚えていたらしい。
それもあってティーテの代からは武闘会は王を決める物ではなくなり、物事を公平に決めるための手段へと変わってしまった。
そして武闘会のルール。
ルールはエルフ、ドワーフで違うらしい。エルフは武器禁止で魔法のみによる闘い。杖などの魔道具による魔力の強化は認められている。ドワーフは武器のみの闘い。ドワーフは武器に魔法を宿らせるのが主な戦い方らしい。もちろんどちらも現在では殺傷は禁止されている。万が一があるために肉体ダメージを魔力ダメージに。ゲームで言うならHPダメージをMPダメージにする魔具を身につけてから闘うのが義務付けられている。体力=魔力という事だ。
ブリズで俺とイリスが魔法の打ち合いをした時に魔力が減りすぎて動けなくなった。つまり最終的に動けなくなったほうが負けという事になるのだが、もちろんそれだけではない。攻撃を受ければ受けるほど魔力が急激に減って行き、闘いが不利になるという事だ。それに魔法攻撃を外す事になればそれだけ自分の魔力を削ることになる。ならばこちらは攻撃をせず、相手にどんどん攻撃させればいいと考えるがそこもちゃんとしっかりとしている。2分間行動を攻撃行動を起こさなかった場合はその者の負け、両者共にそうなった場合は無効試合。そもそも闘う意思が、勝つ気がないと見なされてしまう。避け続けての相手の自滅や、弱った所での一撃を入れて勝ったとしても勝者以外は誰も納得しないからだろう。ただ、拘束魔法などで両者共に攻撃行動が出来なくなった場合は拘束されている者が魔力切れで気を失うか、降参をするかで決着が着く。
だがこれは通常ルール。ティーテだけはルールが変わる。ティーテはハーフ。つまりどちらも適応出来るという事。ティーテが出る武闘会のルールは魔法有り武器在り。魔具があるおかげで命は守られるが、精神までは守ってくれない。実際、精鋭達の中で何人かはトラウマのあまりに武器や魔法に抵抗が出てしまう者までいるという。つまり死ぬというのはそういう者のことを指すらしい。
・・・つまり要約すると。
前提、ティーテはやばい
1.勝利条件は相手を動けなくする(手段はMP切れ、もしくは拘束による降参)
2.武器・魔法の使用はあり(ティーテが相手の時のみ)
3.2分間に1度でも攻撃行動をしないと強制敗北
4、ティーテはやばい
「なるほどな」
『ますたー、勝てそう?』
「さあな。こればかりはやってみないとな」
「本当に陛下に挑むつもりか?話を聞いたら普通は止めると思うが・・・」
「ギーベスト。そういうのは挑んだ奴だから言えることだ。まだ挑んでも無い俺が話を聞いて危険と思ったから止めますなんて言ったらティーテに失礼だろ」
「むぅ・・・だが」
「それに」
ギーベストの言葉を遮って周一は続ける。
「強すぎるとか、才能があるからだとか。見た目とか。噂とか。そんな相手の事を何も知りもしないで距離を置こうとするような奴にはなりたくないんでね」
その発言にクーラがはっと顔を上げる。
「どんな形でもいい。相手とぶつかって分かり合える機会があるなら俺はそれを使って相手がどんな奴かを知る。良い奴なら親睦を深めたいし、悪い奴なら相応の対応をするだけだ」
「・・・もしも、陛下がお前にとって悪いお人だったらどうするのだ?」
「俺達の邪魔をしないなら別に何もしない」
『だねっ』
ギーベストは返答に困った。俺達の答えに嘘偽りが無いと感じたからだろう。
「まあルールはわかった事だし・・・っと」
俺は座椅子を動かして座椅子の座布団を二つに折り曲げ、枕代わりにして横になる。
「んじゃ、何かあるまで寝るわ」
『じゃあ私もますたーの中で』
「イリス、俺の服の外でスリープモード」
『ひどいっ!?』
ズボンの中へ入ろうとする仕草をしていたイリスちゃんモードはショックを受け、仕方なく俺の折り曲げた座布団の空いてるスペースへと移動して丸くなった。
「・・・それで、クーラ様はどうするおつもりですか?今なら陛下に言って、武闘会を辞退することも出来ますが?」
「私は・・・」
クーラは先程の周一の言葉が何度も頭に過ぎる。そして決断する。
「私も出ようと思います」
「・・・本気ですか?出なくても陛下なら支援の手段を講じてくださると思いますが」
「それだと私は彼のオマケになってしまいます。そんな女王の、私みたいな小娘の国に誰が手を貸したいと思うのですか?」
「それはクーラ様の目線ではなく私たち民の目線で考えてくださっての事なのですね?」
「はい」
「・・・そうですね。事情を聞いた私からすれば陛下に命を受ければ支援に向かうでしょうが、他の者からすれば不満が出るのは確実でしょう。それにクーラ様と同じように、風の民達が私達を受け入れてくれるかどうかは私達には知る由もありません。その方法も信用も全く無いですから」
「わかっています」
何かを決意したその顔はアイリスのあの言葉が強く響いていた。客間に向かう前、アイリスがクーラに告げていた。「シュウイチさんを信じて」と。
「わかりました。持ち場に戻る前に陛下にお伝えしてきます」
「お願いいたします」
「はい」
了承をしたギーベストは軽く頭を下げ、客間を後にした。
3人だけとなった客間。
クーラは決断するきっかけとなった男の寝顔をただじっと見つめ、「大丈夫ですよね・・・」と小さく呟いた。




