8-1 武闘を極めし者
「シューイチ。私達と仲良くなると言ったが、民達にも私と同じように自分語りをして受け入れてくれる者を探すのか?」
「いや、さすがにそれは手間がかかりすぎる。そもそも俺の事をペラペラ語る気も無いしな」
「今まで散々語って置いてか?」
『語ったのはほとんど私なんですけどー』
「ははっ。そうであったな」
そうティーテは笑うとクーラの顔をチラッと見て、何かを思いついたかのようにニヤリと薄気味悪く笑う。
「・・・ならば、シューイチ。イリス。そして風の」
呼ばれたクーラは顔に出ていたであろう不安をさっと隠す。
「おぬし等には[ぶとうかい]に出てもらうとしよう」
「ぶとーかい?」『舞踏会?』「武闘会にっ!?」
俺達はそれぞれ違った反応をした。
ぶとーかいってアレだよな?あの音楽に合わせて踊るだけパーティーみたいなやつ。
「ティーテ様。どうし・・・ああ!そういうことですかっ」
「なるほど・・・さすが陛下だ」
「ああ。そういうことだ」
「そっか!それならブリズとの交友関係が・・・それに復興にもっ」
「シューイチ。お前の目的も叶うぞ」
「『ん?』」
え?よく知りもしない相手と踊ると仲良くなれる風習でもあるのか?
「で、ですが私が出てもっ!?」
「だから言ったではないか。おぬし等、とな」
「そ、そんな・・・」
クーラは理解出来て無さそうな俺達を見て不安そうな顔をおもむろに出した。
「安心しろ。死なない程度の加減はするつもりだ」
「『えっ、死ぬの!?』」
そして疲れ果てても踊り続けさせられ、最後には・・・
「加減をすると言っただろう。話はちゃんと聞くものだぞ」
「・・・って、え?もしかして、ティーテ様が出るの?」
「ん?当たり前だろう。私が出ないで民達が納得するわけ無かろう」
その発言の後、静寂からしばらくして。
「「いやいやいやいやいやいやっ!!?!?」」
アイリスとギーベストは全力で否定した。
「なんだ?2人して騒々しい」
「陛下!それはあんまりです!いくらなんでも惨すぎますっ」
「そうだよティーテ様!シュウイチさんならともかくっ」
「おい」
「クーラを危険な目には合わせられないかなっ!」
クーラもそれだけはと言った風に首を縦に振る。
『ねえねえ。その[ぶとうかい]ってどんなことするの?説明して欲しいよ』
「あっ、えっとね」
「なに、私達フォレフォスの風習さ。武で闘い、互いに力を示し合う。勝った者は負けた者に1つ願いを叶える。その願いは事前に互いに了承を、そして王である私に承認を得る必要がある。・・・と言っても婚約や物事を決めるのに使われることが多いがな」
国のトップであるティーテが承認すれば、それは国の決定である。覆そうとするものは王であるティーテに逆らう事を意味する。
「へえ。それは相手が出来る事なら何でもか?」
「ああ。相手と私が認めるならな」
『じゃあティーテにエッチな事を』
「ヘンタイっ!!!」
「ぐばぁっ!!?」
アイリスが全力全開と呼べるような拳を作り、俺にボディブローを綺麗に決めて庭までブッ飛ばした。そして激しい衝撃音と共に庭に新たな痕跡が増えた。
『ま、ますたああああああああああっ!!!』
「まったくもうっ!まったくもうだよ、まったくもうっ!」
「その、アイリス様。シューイチは何も言ってなかったですよ」
「え?」
アイリスはギーベストの視線を辿ると、その先には宙に浮かぶ板に映るテヘペロ少女の姿。
「・・・あっ」
アイリスは思い出した。先程聞いた、この少女の特技を。
「ご、ごめんなさあああああああああああいっ!!!!」
アイリスは謝りながら急いで治療するために周一の下へと駆けて行った。
『・・・それで、何でクーラはそんなに嫌がってるの?』
「えっ?」
アイリスの背中を見ていた3人の視線がイリスに集まる。
『闘うって言っても加減してくれるんでしょ?話からして私達が勝てばいいし、負けてもティーテさんがいい感じに対応してくれるんでしょ?』
「知らないからそんな事が言えるのです・・・」
『え?』
「イリス。陛下はこの国最強・・・いや。この世界で精霊様達とアイリス様の次に強いと言われている。武闘を極めしお方なのだ。実際近接戦ではアイリス様は度々負けている」
『・・・え?でも加減してくれるって』
「アイリスから聞いた話だと、フォレフォスの精鋭たちが100人集まってティーテ様に挑んだけど、戦斧を一振りで蹴散らしたって・・・」
『・・・いやいや、それはきっと本気でやった時の』
「その中に私も居たが、あの時は「1割も出す必要が無い」って言っていたな」
『えぇ・・・・・・』
イリスはそっと目をその噂へと向かわせる。すると、ちびっこ女王様は自身の武勇伝の話をされて少しご満悦な笑みを浮かべていた。
「安心せい!悪いようにはせん!それにあやつがアイリス程度に闘えるかどうかも確かめたいのでなっ」
「わ・・・はい。よろしくお願い致します」
そのクーラの返事に覇気は無かった。
「・・・うむっ。あとは任せておけ。民達への通達と準備が終わるのは今日中に済む。部屋もあるからしばらくはここに泊まってゆくが良い」
クーラの反応を見なかった事にして、ティーテは目を瞑った。すると20秒程で早足でここに向かって来る足音が聞こえてくる。
「お呼びでしょうか、陛下」
現れたのは耳長・高身長。巨乳美人のエル・・・じゃなくてドワーフお姉さんだった。その姿は和をモチーフにしたメイド服と言った感じで入口で案内してくれた侍女達よりも綺麗な装飾が施されていた。きっと侍女達のリーダー的存在なのだろう。
「メルラ。ここに居るのが風の女王クーラ・ブリズ。そしてこっちがイリスだ」
「お初にお目にかかります。私はメルラと申します」
クーラとイリスに丁寧に挨拶をするメルラ。そのお辞儀は気品に満ちていた。
「あっちでアイリスに介抱されておるのがシューイチ・エンドーだ」
「あらっ。アイリス様が来てらしたのですね」
その声にアイリスはメルラに対しペコッと頭だけで軽くお辞儀をした。
「・・・陛下」
「むう?」
「私はあの害虫を駆除すればよろしいのです、ねっ」
「っ!?お、おい待てメルラ!」
ティーテが呼び止める前にメルラは笑顔で勢いよく飛び出し、何処からか取り出した紅い戦斧を構えて横たわっている周一に襲い掛かる。
「ちょっ!?メルラさっ!!?・・・えっ!」
「なっ!?」
だが、その戦斧が振り下ろされる事は無かった。
気付けばメルラは目の前に立っていた周一に欠けて鋭利になっていた石を首筋に当てられていた。
メルラは周一の姿を目で捕らえることが出来なかった。メルラだけではない。この場に居た誰もがその光景に至った経緯を目視する事が出来なかった。
「・・・オマエ、ナンノツモリダ?」
「うっ・・・」
石を軽く押し当てるとドワーフの女は小さくうめき声を出した。
この石には俺の魔力を宿らせている。石を動かされれば首が切られる事をわかっている為か、振り下ろそうとした紅い戦斧をその場で止めざるおえなかったようだ。
「止めぬかっ!!」
そこにティーテが止めに入った。
「ナゼ?」
「っ!?」
ティーテが少しうろたえる。先程の周一とは明らかに別の空気を放っていたからだ。その姿を見たクーラとギーベストの体が震え出す。
『ますたーに殺意を向けないでっ!!』
そんな空気の中でイリスが声を荒げる。
「言う通りにするのだ!メルラ!!」
「で、ですがっ!?」
ティーテの命令に対してメルラの解答はイエスでもノーでもなかった。どちらの行動もすることが出来なかったのだ。イエスなら気を抜いた瞬間に殺されるかもしれない恐怖。ノーならこのままの状態が続き、いずれ殺されると体が思い込んでしまっている。ならば少しでも生き続けられる選択、イエスもノーも応えないという選択が何処まで猶予を与えてくれるかどうかにかかっていた。
「くっ・・・」
だが、そんな猶予をメルラには与えてはくれなかった。メルラの振り降ろそうとした戦斧を急に止めた反動が腕に大きな負荷をかけていたからだ。
「メルラ!!!」
「(申し訳ございません・・・陛下)」
限界が来たメルラは線斧を下ろす選択を強制される。そんなメルラは思わず目を瞑る。
「駄目だよ。シュウイチさん」
そんな声と共にメルラの戦斧は地へと叩きつけられた。
「メルラさんはあなたの敵じゃない・・・大丈夫だから、ね?」
後ろから、ドワーフ女の首に当てていた石を持った右腕に優しい両手が添えられる。
その温かさの所為か、右腕を動かすことが出来なかった。
『ますたー!めっ!!なんだよっ』
いつもの、あいつの声が聞こえる。
「・・・ああ」
石を手から離し、周りに安全が確保される。あの空気が無くなった事にメルラは気が抜けたのか腰を落とした。
「悪かったな、イリス」
『ほんとだよっ!』
「それに、アイリスも」
後ろを振り向き、アイリスの顔を見る。その顔はすごくホッとしている顔だった。
「んーん。ありがとう。シュウイチさん」
「・・・いや、状況的にそれは俺が」
「んーん。私のお願いを聞いてくれたんだから。合ってるかな」
そんなアイリスの言葉に甘えてしまうかのように、俺はアイリスとイリスに聞こえる声で「わかった」と告げた。




