8-3
「・・・夕食を食べながら話すとしよう」
声が聞こえる。この声は、ティーテか?
「はぁ・・・にしても良くもまあ。こやつは寝ておられるな・・・」
『それがますたーだもん』
「まったく・・・」
これ流れは・・・来るか?
「起きぬかっ!」
(キターーー!!)
俺はパッと目を開き、すぐさま声の方へと警戒する。
だが何かに足を引っ張られ、気付けばアイリス達が天井に足を着けた状態で立っている視界になっていた。
「おはよっ。シュウイチさん」
「・・・ああ、おはよう」
なあ、俺のこの構えはどうしたらいいんだ?この腕の存在がメッチャ恥ずかしいんですけど・・・。もう一度あの台詞を言おうとしてたのが恥ずかしいんですけど・・・。
『おはよーますたー』
「ああ・・・?」
イリスの挨拶に応答するもそこには異変があった。
イリスのディスプレイにはお知らせアイコンのように小さく「!」のマークが出ていた。これは何かの通知があった時に出るアイコンだ。だがこの世界で通知が届くとは思えない。そもそも俺達の世界はもう・・・
「あれ?イリス。なんかイリスの所に変なマークがあるよ?」
『あ、ホントだ!消しとこー』
「それって大丈夫なの?」
『うん。これ、ますたーの健康状態の情報が更新されたよってお知らせ。この程度は私達の世界の日常では良くあることだから』
「へぇ~。イリスってそういう事も出来るんだ。それってどんな感じに解るの?」
『えっとね~』
イリスがアイリスに色々な数値が表記された俺の健康ステータスを画面に表示して見せながら説明する。その画面にはティーテもクーラも興味があるらしく、一緒に画面を見ている。
(つまり、この状況に何かがあるという事だ。しかも周りには気付かれて欲しくないと言う訳か)
あんな通知、本当なら出す必要が無い。俺の健康に変化が出た時は通知なんか出さずにすぐに言ってくれるからだ。
(・・・はっ!?イリス!)
『(そうだよっ、ますたー!)』
そして状況を冷静に見直すと奇跡的状況だという事が解った。イリスにそれを知らせるように視線を送るとイリスもそれに答えるように視線を返した。
今の俺の状況は客間の天井に木の根のような蔦で吊るされている。これはきっとティーテの魔法だろう。俺達の世界のイメージならエルフは植物を、ドワーフは土を。それぞれ得意としている。そしてエルフとドワーフのハーフであるティーテならどちらを使えてもおかしくは無い。ティーテはあの大樹を使って声を伝達していたし、俺に土の魔法を当てた。植物系の魔法を使えるのも頷ける。
だが論点はそこではない。注目すべきは今の光景なのだ。
状況としてはただ天地がひっくり返っているだけだ。だがその視線の位置が絶妙すぎた。
(・・・み・・・み・・・みえっ!?・・ないっ!くっ!)
そう。目の位置がちょうどアイリスとクーラのスカートの裾、見えるか見えないかのギリギリの位置だった。ティーテは身長的に無理だから仕方が無い。
アイリスとクーラが少し動きを見せると、その度スカートが揺れ、綺麗で柔らかそうな太ももがチラチラと見える。・・・だが肝心な領域が見えないっ!!
・・・これはこれでアリだけど。
(はっ!?)
ちょっと視界をずらすと、アイリス達の足元にすごく小さいディスプレイが見えた。そしてそこには赤い丸ランプが点滅していた。
(イリス!!)
『(ふふんっ。私にぬかりは無いんだよっ)』
やだこの子、ほんと優秀すぎっ!
「ねえねえ、シュウイチさん」
突然アイリスに声をかけられる。
「ん・・・どうした?」
気付かれないように平静をよそお
「シュウイチさんは何処を見ていたのかな?」
「ん?何処って?」
「私が、というか女の子が気付かないと思ったのかな?」
・・・おや?アイリスさんや、その右手に集まって行く魔力はなんじゃ?
「女の子ってそういう視線に敏感なんだよ」
「いやっ、見てない!俺はまだ何も見てはいない!!」
その台詞にイリスが『あっ』と小さく呟く。
「そっか~。やっぱり見てたんだね」
「あっ」
イリスと同じ反応をしてしまう。
「これはお仕置きかな?」
「い、いや待て!見てないって言っただろ!」
「うんっ。でも・・・見ようとはしてたかなっ!!」
「ぐぼおっ!!?」
『ま、ますっ!!?』
思いっきり溝に拳を叩き込まれる。
はいはい。いつものスケベ男の末路でっ・・・え?
「おかわりもあるかな」
次は左の拳もセットですか!?
「え?!?ちょっ!?ま!これぐぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ・・・・・・」
『ますたああああああああああ!!!』
俺は足を吊るされたままだったのを失念していた。
漫画やアニメなら紐などが千切れて空へと吹っ飛んでいくが、これが現実なのだ。縛っている紐が頑丈なら。そもそも発生源で土台となっているはずの天井と魔法の蔦に関係が無かったとしたら。純粋にティーテの魔法の力だけだとしたら。何一つ壊れる心配も無く。重力に逆らうこと無く。アイリスの前に戻って行く訳で・・・。サンドバッグな訳で・・・。
そして意識が薄れ行く中で微かに見えたアイリスの聖なる白き布に、俺は無意識に勝利の笑みを浮かべた。




