7-22
「それじゃあ私は後始末があるから。沙織、それに華蓮と椎名もお願いね」
「ええ」
「「はいっ」」
「わたしは~?」
春原は私にも軽く手を振り、そうい言って病院内へ戻って行った。それを同じく軽く手を振ってみんなで見送る。ここで不自然な行動はしてはいけない。
後始末。私の病室のことや私が殺したあのマスコミとかのことだろうか。まあ病院にとっての厄介事と仮定でもしておこう。実際、あのマスコミはもうこの病院入口前にはいない。血も綺麗に掃除され、残っているのはアリア達を待つマスコミ達だけ。
『桜さん!桜アリアさん!!』
姿が見えた事に大きな声で呼び続けるマスコミ達。動画はアップロード済み。この中にはもう一部でも見たものがいるかも知れない。
「あの動画は何ですか!?」
「人を人扱いしないような言い方は!?」
「一体何様のつもりだ!」
それぞれ違った質問で問い詰めてくるが、聞きたい事は同じ。アップしてからそう時間は経ってない。動画を見れたとしたら冒頭のアリアの[人間について]の部分だけだ。まあ仕方ないといえばそうだろう。
「あの化物に殺させた上山勝さんについては!?」
と、そんな中そんな事を言ったマスコミがいた。
「・・・殺させた?私は事実を言って彼に殺されそうになったのに、まるで私が周一君に指示を出して殺したみたいな言い方をするんですね」
この質問にはアリアもこう言わざる終えない。でなければ、捕らえ方によっては計画殺人に成りかねないからだ。きっとこのマスコミもそれが狙いなのだろう。新たなネタのためだけに、真実にこれっぽちも届いていない仮説を組み上げて言葉にする。世間はそんな仮説にそれが真実だろうと勘違いさせればいい。それだけでこのマスコミ達は大きな結果を手にすることになる。
「っ!?と、当然です!あの状況ならその可能性も考慮しているはずです!」
当然言ってしまったからには引き下がれないマスコミは曖昧な情報を証拠に反論する。だがその反論に便乗するかのように周りのマスコミ達も「そうだ」と反応を示す。
これだ。こんな何の証拠もない。場の空気と言うやつだけで誰かを陥れることだって簡単に出来る。
・・・私やアリアはその対象だった。それをまたこの人間達は繰り返そうとしているのだろう。
ドンナチッポケナ悪デモ。ソノ悪ヲミツケ。ソノ悪ニスベテノ悪ヲオシツケルタメニ。
だからこんな行為に正義も善行も。何一つ存在しない。あるのは人間達の欲望だけだ。自ら真実を知ろうとしない。公表された情報が真実だと。それで自身を満足させるためだけの欲望。
なるほど。
確かに。これを使えば私のこの偽りも、こんな形で役に立つ日が。それも、本当に私が生きるために役立つなんてね。
「それにあんな事があった後だというのにすぐにあの動画を・・・っ!何だキミ・・は?」
私はアリアとマスコミ達の間に手を差し出して間に割って入る。それに苛立つマスコミ達だったが、その姿を見て表情が戸惑いへと急変する。
「お母さんを悪く言うのは止めてください」
綺麗な少女の声。中学生ぐらいの黒髪ゴスロリの美少女がアリアの前に立ってそう言うと、マスコミ達は無意識に距離を取った。そしてカメラやビデオカメラが向けられる。
「あ、あなたは?」
そして当然の質問。
「・・・私は昨日、正式に桜家に迎い入れていただきました。桜鈴音と言います。今後、サクラコーポレーションでお手伝いをさせて頂く事になっています。もしかしたら取材などで度々皆様のお目にかかることがあるかもしれません。その時は綺麗に可愛く撮って貰えると嬉しいです。よろしくお願い致します」
そう丁寧にお辞儀をした。そして顔を上げると出来の良い作り笑顔を見せ付ける。するとまたシャッター音が激しくなり続ける。
そんな中、「リンちゃん!」と呼びながら私に抱きつくアリア。ツーショット写真が目的なのか。それともそれが真実だと世間に伝えるための演・・・あ、これ違う。お母さんと呼ばれた事にただ嬉しくて抱きついてるだけだ。
・・・鬱陶しい。
「あ、あの。ではあなたに、鈴音さんに質問しても?」
年下なのは見た目で解るはずなのに何故[さん]付けなのだろう?
「はい。私で答えられるものであれば」
鬱陶しい呼称[お母さん]に対して嫌がる素振りを見せず、むしろいつもの日常的な振る舞いだということにする。その方が母は私を溺愛している。そして私はそんな母に慣れてしまっている。と言う図が出来る。それは短時間で容易に出来る構図ではない。少しでも違和感を感じさせる行動は、人間に疑念を抱かせる。だがそんな素振りを悟らせなければ、誰も疑わず。そして発言の殆どが真実の力を持つことになる。真実を目に見せた後の言葉は、より力を発揮する。それはもう誰も疑いはしない。
「・・・ではまず。桜家に迎い入れられたという事は孤児だったのでしょうか?」
「孤児、と言えばその通りです。私はあの事件の日より前の記・・んっ。・・・記憶が無く、夜道を歩いていた所をこちらの菊月さんに保護されました」
そう答えてる途中、沙織さんがアリアを引き剥がして拘束した。
「・・・あの事件とは?」
「皆さまもご存知だと思います。あの大量殺害事件の日です」
「っ!それは・・・辛かったでしょう」
「いえ、あの日の事も私の記憶はありませんので。きっとあの日に私の身に何かがあったのでしょう。菊月さんに聞いたら人は自身が壊れないように記憶に鍵をかける事があると。なので・・・」
「あ・・・はい・・・」
聞いてきていたマスコミは黙り込んでしまった。きっとあの日の生き残りだと思ったのだろう。
あの日の死者が数ヵ月後には1万5千人を超えている事が解っていた。そして以降、無謀にもその区域に無許可で侵入して殺害された人物は千人を超えていると噂されていた。
質問が途切れ、別のマスコミが挙手をし、発言する。
「私もいいですか?」
「どうぞ」
「あなたは桜家の一員になったという話ですがアリアさんが釈放されたのは数日前。いくらなんでも早すぎませんか?それにあなたは先程、そちらの秘書の方に今まで保護されていたとの事。つまりはアリアさんと出会って2、3日と言った程度でしょう。そんな知り合って間もないのに迎い入れるなんてありえるのでしょうか?」
「ああ。そんな事ですか」
「そんな事?」
「はい。だって私の事は菊月さんがお母さんの所に度々面会しに行ってこっそり報告してたらしいですよ。それに私と華蓮と椎名は通話で何度も。そしてみんなから何度も養子の話しをされた事もありました。別に手続きがスムーズに進んでいてもおかしくはありませんよね」
その発言に合わせて、沙織さんとアリア。華蓮と椎名がそれぞれ頷く。もちろんこれは大嘘だ。私がテキトウに言い訳するからそれに頷いたりして合わせてとは言ってある。私だけでは疑いは晴れないが証人がいれば話は別。頷いた。ただ頷いただけ。でもそれによって見た者は事実だと勝手に勘違いしてくれる。言葉として聞く必要が無いからボロが出る心配も無い。
「それは・・・いや。子供がそんな手続きなど気にするわけが」
「子供ですが、子供が色々な事を気にかけるのはいけない事なのでしょうか?」
「くっ・・・いえ・・・」
反論が出来なくなったのか顔を逸らした。そして次のマスコミが挙手をする。
「で、では私も1つよろしいですか?」
「どうぞ」
「こちらの画像を」
そう言ってマスコミの男はSTからある画像を見せる。それはネットのSNSであがっていた閉鎖区域を歩く私の写真だった。
「これはあなたでしょうか?」
「・・・はい。私です」
気まずそうな素振りを見せておく。
その答えにマスコミ達はざわついた。
「で、では何故」
「あの場所にいたのですか、ですね」
「っ!・・・はい。この区域はあの変態。化物がいた場所。実際に滞在、生存していましたが。あまりに危険すぎる行動だと思いますが」
「理由はいくつかありますが。まず、買い物です」
「・・・は?」
「安売りしているスーパーに向かう時に近道で便利だったんですよ。あそこを通るのは」
「いやいやいやっ!通行禁止区域なんだから回り道するでしょう!普通は!」
「くすっ。そうですね。でも、あそこでなら。あそこにしか記憶の手がかりは無いと思うので。思い出せるきっかけが見つかるかもしれない。まあ、本当は思い出さない方がいいのでしょうけど・・・あの日の事はニュースなどで知っています。でもいつか、向き合わなければいけない時がくるかも知れませんから」
「・・・お強いのですね」
「いえ。強くなんて無いです。菊月さんが私を見つけてくれなかったら、何も解らずに死んでいたのですから。それにアリアさん。んーん。お母さんも。こんな辛い状況なのに私を受け入れてくれた。それに、あの人も。周りの助けがあるからこそ今があるんです。皆さんだってST、便利ですよね?だからお母さん達を悪く言うのは止めてください。お願いします」
再び頭を下げる。今度は願いを込める様に少し長めに。
「・・・そうだ!あの区域に入って、あの化物とは出会わなかったのですか?」
何かに気付いたようにそう質問するマスコミ。
「会いましたよ。あの区域で何度も。そしてこの病院でも。箱に入る前に1度」
再びざわつき始める。その中でも「本当に入ってたのか」と言う言葉。この一言を聞ければ私がもう社内に運ばれたというあの情報の疑惑が晴れる。
「出会ったのなら何故無事だったんですか!?」
「私は許されたからって言っても納得しませんよね。私をつけてた人には説明が面倒だったからこう言ったけど・・・って、さっきあの人が言っていたじゃないですか」
「え?それは?」
「危害を加えるつもりが無いなら危害を加えない。って」
「で、ですが!?あの日、逃げる人々を!無抵抗の人々を殺したのですよ!!そんなの信じられるわけが」
「危害って、逃げるのは危害に含まれないんですか?」
「は?何を言って」
「誰かが誰かを見て、自身から少しでも遠ざけようとする行為はその人に対する危害では無いのですか?」
「それは・・・身を守るための当然の行動でしょう」
マスコミは答えに少し迷ったが対照をあの姿の私にしたらしく、そう答えた。
「・・・あの人に聞いたことがあるんです。何であんなことをしたのかって」
その言葉にマスコミ達だけでなく、アリア達もまた注目した。
「・・・いえ。やっぱり止めておきます。これは言っても受け入れられるものでは無いでしょうから」
「い、言ってください!我々にはあの化物が起こした動機を知る権利があります!」
「・・・それを聞いて、あなたは受け止められるんですか?私はかなり時間がかかりましたよ?」
それを聞いて、口を開けるがなかなか声を出さないマスコミ。
だがそんなのを気にしない別のマスコミが「お願いします。これは世界が知らなければならないことですから」と言った。きっと早く言わせるための見繕った台詞だ。無関心だからこそ言える台詞なのだろう。
「・・・解りました。あの人は・・・」
【誰1人。俺を人間として、人として。見てくれなかった。俺の親ですらな。父さんはカッターナイフをポケットに入れていた。母さんも果物ナイフを。俺に殺されるかもしれないと思ってたのか、それとも殺そうと思ってたのか。俺には知るすべも無い。でも俺は抱きつかれたあの瞬間に全部解ったんだ。この後に未来は無いって。きっと、テレビだと感動のシーンだったのかもしれない。でも俺にとっては希望の全てを奪われた瞬間だった。俺を心配していた?無事だと願っていた?そんな片鱗何処にも無かった。何故って?俺はあの部屋で月日も時間も解らなくなって、メシもまともに出てこない。そんなクソみたいな生活の中でもずっとあのドアが開いて両親が俺を迎えに来ることを願い続けていた。なのに。初めてあのドアが開いたと思ったら俺を閉じ込めたおっさんと知らない奴らばっかりが入って来て、お前は今から年末の見世物になる。って言われたんだぞ?そんでテレビみたいな進行で再会して、両親は抱きついたフリ。腕に何1つ力が入ってなかった。俺の弟だった奴なんて俺のことを知りもしなかった。こんな目にあってた俺のことを何1つな。なあ?お前に俺の気持ちがわかるか?部屋を出る前は変態。犯罪者の卵と呼ばれて。部屋を出れば化物と呼ばれた。俺はあの部屋に閉じ込められた瞬間から人。いや、人間ですらなくなった。人間共にそうさせられた、この俺の気持ちが・・・」
「・・・以上です。私はあの時に答えることが出来ませんでしたが、どうですか?」
「・・・どう、とは?」
意味が解らず聞き返すマスコミ。
「あの人の気持ち、解りましたか。と言う意味です」
「それは・・・」
「そんな化物の気持ちなんて理解できるほうがおかしいだろっ」
聞かれたマスコミが困っているとまた、無関心なマスコミが答えた。
「結論から言えばそんなのただの八つ当たりじゃねーかっ」
「そうだそうだ!」
「関わった人を殺すならまだ解るけど、関係ない人まで殺すなんてどうかしてるわっ」
次々に声をあげるマスコミ達。そのボルテージはどんどん高まっていく。
やはり円道周一は悪だ。あの変態は悪だ。あの化物は悪だ。そう無意識に置き換える事で。
「ふざけるなっ!!!」
その声の中で一際大きな声を出した少女。
「・・・椎名」
その椎名の姿に華蓮はまだ痛む腕を動かして、両手でそっと震える椎名の左手の握りこぶしを包んだ。
「関わった人だとかっ!関係ない人だとかっ!お母さんを捕まえたのはあなた達でしょっ!!周一さんをあんな目にしたのはあなた達でしょっ!!!」
「・・・はあ?何を言って」
「誰も真実を知ろうとしてないくせにっ!真実を見せても!言っても!聞かせても!誰も信じないくせに!!知りたくないならもうほっといてよっ!!!」
椎名は大声でそう叫んだ。その姿にマスコミ達もさすがに口を閉ざしてしまう。椎名の言葉はマスコミ達の真意だったからだ。
マスコミ達は真実を明らかにするなどと言っているが、実際は金になるなら嘘を混ぜてもいい。それで情報誌を手に取る客が増えればいい。そう考えているのが大半だ。嘘も方便と言う言葉がある。良い結果を残すためには多少の悪は許される、と。つまりは真実など、こいつらにとってはオマケ程度なのだ。ゲームで言うなら文字に誤字があったからパッチ当てて修正しとくね。といった程度の考えだ。ましてその誤りに悪者がいるなら、そいつに全て責を押し付けてしまえばいいと。
「椎名」
私はそっと椎名の頭を撫でる。撫でられた椎名は涙目になりながらも怒りをすぐに沈めることが出来た。
「・・・さて。もうよろしいでしょうか?お母さんも私達も。まだこれから色々やることがありますので」
「っ!?いっ、いえまだっ」
「よろしいですよね?」
私のその笑顔を見てしまったマスコミ達は体に震えを覚えた。
「・・・いいみたいですね。それじゃあお母さん。沙織さん。華蓮。椎名。先に行ってください」
そう言った鈴音は4人を先に行くよう指示をした。それに反抗することなく4人は沙織さんが車を止めてあると言っていた駐車場の方へと向かって行った。
「ああ。それと」
そして先に歩き始めた4人の背中を見たあと。スカートをふわりとさせながら体をマスコミ達の方へ向ける。
「とあるサイトにね。世界中。あの人に対しての中傷・暴言・殺意。私達家族に対する同様のコメント。今まで、そしてこれからも。それらをネットで発言した人達の住所・氏名・家族構成・場合によっては顔写真も。洩れなく私達の親友が綺麗にピックアップしてくれてるんですよ」
マスコミ達は鈴音が何を言っているのか理解するのに時間がかかった。
「それをあの人が見たら、どうなるのかな?・・・んー。さすがに海外は時間がかかりそうですよね・・・って、ここだけの話ですよっ」
その事を笑顔で告げた少女が去った後から2週間の間に国内で約800人を軽々と超える人々が無残な死を遂げた犠牲者と成り果て、次々に発見され続けた。そしてそれら全てが自殺。病死と死因が報告されている。
犯人はわかっている。誰もがあの化物がやったのだと。でも逮捕も死刑にも出来ない。
何故ならもう既に円道周一と言う人物はこの世にいない存在。世間の人間達によって殺されているのだから。
生きてると認めればそれは世間が彼をそういう存在にしてしまった事も認める事と同じ。
国が世間が人間が。それを許さない。
そして世間の最後は最悪手とも呼べる結果へとなって幕を無理矢理下ろした。
【化物の逆鱗に触れるべからず 背くならば死を覚悟せよ】と。




