7-20
・・・本当に騒がしいな。まだ外まで少し距離があるって言うのに騒音の様に聞こえてくる。
病院の正面玄関へと向かう周一は微かに聞こえてくるマスコミ達の声が耳障りだったが仕方なくその声のする方へと歩みを続ける。
入口付近まで近付くとその酷さがより解る。あれでは出待ちをしているマスコミではなくデモ行為にしか見えない。それぐらい密集していた。
「・・・誰か出てきたぞ!」
ずっと入口を見張っていたからか、誰かが病院から出てきたことにすぐに気付いた奴がそう言ったのだろう。だが、あれだけ騒いでいた奴らが一瞬で静寂へと至った。
病院のスタッフたちによって用意されたであろう粗末なバリケード。カラーコーンにバーを付けただけ。まあ当然だろう。警察が俺の居るこの病院に力を貸すわけがない。
だがあのバリケードを超えてこない辺り、常識と言う名のルールに従順に従っているのか。それとも、俺が怖くて入れなかったのか。
周一はたった1人でマスコミ達の前に立ち止まった。
(脅し、か・・・)
桜アリアが言った策。【世界中の人間共を脅して周一君を殺人鬼の象徴にしちゃおう大作戦!】
確かに。そうすれば俺を殺そうとする奴は命知らずの馬鹿と世間ではそういう事になる。だがそう上手くいくのだろうか。ブロッサムもその手段を試して損は無いと思います。とか言ってたしな。
とりあえず、物は試しだ。
「そうだな・・・この中で5人ぐらいは質問に答えてやる。お前達が俺に危害を加えるつもりが無いなら俺もお前達に危害を加えない。さあ。お好きに立候補して質問してくれ」
そう言われたマスコミ達は困惑した。
俺を見つけたらまず脳裏に過ぎるのは死だ。だがその死の存在である化物が話を聞いて、それに答えると言った。状況を整理するのに時間がかかるのは仕方が無い。
だがそんな中、手を挙げてバリケード前まで詰め寄ってきた者が居た。それは20代ぐらい。若い男だった。
「・・・っと。では、私が。あなたは何故あのような奇行を?」
「奇行?」
それは言葉を選んでいるようで選んでいない。
俺が今までして来た事はどれも生き残れる可能性を0から遠ざけるものだ。それが奇行?そうか。世間にとっては俺がして来た事は理解ができない行為と認知されている訳か。
「そうです。あなたの行動は常軌を逸脱しています。隔離されていた理由についてはあなたも知っているはずです。ならば何故あの時そう訴えなかったのですか?あなたを迎えに来たご家族まで殺害する理由も解りません。数年間会えなかったのなら普通は再開に喜ぶのが当然ですよね?そしてあの大量殺人行為。無関係な人達を何故殺したのですか?海原社長を殺害する必要があったのですかっ?」
マスコミの男が聞いてきた質問。それは勿論、俺がとった行動の言及だった。
「なあ」
「・・・はい」
「お前の言う。いや。お前達の言う当然ってのは【人として】ってやつか?」
「勿論です」
「そうか」
確かに。これではもうそれしか手が無いのだろう。
俺は、化物として生きる事を再度決意した。
「他には・・・同じ事を聞きたかったってことでいいか?」
辺りを見渡したがその返答は無い。つまりは同じという事だ。俺が椎名と華蓮を助けたことについては触れていない。いや触れたくないのだろう。悪人が善の行動をするはずが無い。
それが、人として当然だから。
・・・と言っても。海原優作によって色々うやむやになっている。当事者で無ければ何が真実かわからないだろう。あの時の椎名に対する暴言も。自身の命の危機だったから無意識にそう叫んでしまった。と捉えてしまう者がいてもおかしくは無い。
俺が、絶対の悪だから。
「それじゃあ。お前ら。というかテレビ局も居るんだろ?だったらサクラコーポレーションのサイトを開け」
「・・・何故?それにそのサイトはもう昔に閉鎖さ」
「そこに動画のアドレスを貼ってある。そこにリンクすれば俺がその奇行とやらの一端を知ることができるかもな」
「・・・解りました」
この発言はサクラコーポレーションが協力していると。つまり桜アリアも共犯であると発言しているのに等しい。
質問の男がSTでサイトを開く前に他のマスコミ達が既にその動画サイトを開き始めていたので男もそれを覗くように動画を見る。
「・・・これは」
「ああ。そこに流してるのは俺が隔離されていた時の監視カメラの映像。無編集・無加工版だ。どんだけ分割されてるかは俺も知らないけどな」
ブロッサムに聞いた話だと撮られていたのは最初の1年と業者が入ったあの日以降だけらしい。
つまり俺の4年間のうち約3年。監視者は居なかったという事になる。
「何を言って・・・それは既に海原社長がテレビで放映を」
「ええ。私を陥れるために、○○テレビさんの所にね」
すると病院から桜アリアが出てくる。その姿は先程の子供っぽい姿ではなく。ちゃんとした、白衣を纏ったクールな大人の女性だった。
「な、何を言っているのですか!?」
そのアリアの発言にいち早く反応したのはもちろん。名前を出された○○テレビ局の者達。
「あら?いたの」
「それでは私達があなたを陥れたのに海原社長に協力したみたいな言い方では無いですか!侵害です。訴えますよ!」
「ええ、どうぞお好きに。こちらにはその証拠がありますので。いつでも裁判所にお呼び下さい」
「しょう、こ?」
「ええ。私の元夫があなたの所の視聴率のために色々していた事の全て。私が見つけられないと思いましたか?」
「そんなこと私は知らない!」
「あなたが知らなくてもあなたの上の人間さんなら知ってるんじゃないかしら?なんなら聞いてみたらどうですか?私、桜アリアを陥れ、円道周一君がこうなってしまった原因を隠す番組を作るために監視カメラの映像を加工をしたのか。って」
そう言われ、テレビ局スタッフはすぐさまSTを使ってどこかに連絡をし始めた。
「・・・ほんとっ。何が実際の映像よ。周一君の顔に近い子役使ってあんな豪華な暮らしをさせていて。どう?今流れてる動画は?あの時のテレビでやっていた状況と全く違うでしょ?それと最後から4番目か5番目の動画。その辺に元夫の手配で部屋を綺麗にしているシーンがあるわよ。あの子役と同じ生活をしてましたって雰囲気を出させるためにね」
そう言われて確認をするマスコミが数人。そして後に「本当だ」と微かに声が聞こえた。当然だろう。その時に海原優作もいたからな。関わっているのは明白だ。
「では、アリアさん。つまりあなたはこの事を知っていて今まで何もしなかったという事ですか!?」
マスコミの男は矛先をアリアへ向ける。どうしても悪を作りたいらしい。
「今まで?・・・何もさせてくれなったのはあなた達世間の人間ですが?」
「っ!?」
「あの日、12月31日。私が周一君に頭を下げた日。私が周一君の現状を知ることが出来たのはその前日。その日までほぼずっと商談とメカニックの仕事。それが終わってやっと家に帰って娘達に会えるって時よ。それまで周一君の報告は、初めて出たあの検査結果の報告を元夫から聞いた日。それからは度々報告だけ。その報告データには何一つ疑う部分は無かったわ。だって、私に送られていた監視映像のデータはあの子役の子で撮られたものですもの。偶に時間を作って会いに行ったのも子役の子。まさか最初から別人で撮られているとは思ってもいなかった。それを知ったのは私の親友が秘密裏に調べてくれたものが私に送られた時。そして会社に戻って調べたらデータは改竄だらけ。急いで助けようと動いたわ。でも無理だった。それに勘付いた元夫に止められた。挙句に謝罪したい気持ちを利用されてあんなことになって。そんな私に何もしなかった?ええ。そうです。私は周一君に何もしなかった。だって何も出来なかったんですから!!」
アリアの口は止まらない。
「あなた達にとっては面白いですよね。だってそれすらただのネタでしかない。それでお金が手に入る。都合の悪い事は黙ってればお金がまた手に入る。みんなお金になるなら何でもする。あなた達はそれでいいかもしれない。でもネタにされた側は?あなた達によって青春も未来も人生も!人権すら奪われて!これから先、一体何が得られるというの!?」
「・・・そんなの本人次第でしょう」
その解答をしたマスコミの男。するとアリアのSTから何かを知らせる通知音が鳴る。アリアはSTを起動し、その情報を見る。
「上山勝さん」
「っ!?どうしてっ」
「私の親友はそういう事が出来ちゃうすごい人なので」
それブロッサムだろ。
「そんなのプライバシーの侵害だ!」
「プライバシー?そうですか。ではあなたが自殺へ追いやったアイドルさんに対しては?」
「え・・・」
アリアの発言にマスコミ達がざわつき始めた。
「住所特定にストーカー行為。1年以上の直接間接問わず度重なる嫌がらせ。直接の行動は証拠が残ってれば決まりでしょう。でもまあ間接的なこっちでも十分ですけどね」
そう言って上山と呼ばれた男に見せたのはSNSのコメントの数々。結果的にはその周りのマスコミ達にも見える事になる。
「・・・こ、これが何の証拠だよ?俺がやったって証拠でも」
「はいどうぞ。これ、コメントの発信元のIPとあなたの家のIPアドレス。偽装したIPでは暴言。自分のIPではアイドルが自殺した後にその偽装IPに対して批難していますね。それをネタにしたのを情報誌に載せちゃって。自作自演ですね。それにあなたがストーカー行為してた映像もありますよ。他に何か欲しいものがありますか?お願いしてみますけど?」
上山はプルプルとし始めた。
だがそれは自分の身が危ないと察した恐怖ではなく怒りの感情によって起こった症状だった。
「調子にのんなよクソババアアアアアアアアア!!!」
上山はバリケードを押し倒し、ポケットからナイフを取り出してアリアに襲い掛かる。
「・・・はい。お願いね」
と言ってアリアは俺の背中へと隠れてそう告げた。
・・・そういうことかよ。
「っ!?」
上山は襲い掛かる一瞬、ふと思い出したのか。表情が変わる。
【お前達が俺に危害を加えるつもりが無いなら俺もお前達に危害を加えない】
という事はその逆。理由や矛先に関係なく、結果的に見て危害を加える形になるとしたら・・・とでも思ったんだろうな。
「ど、どけっ!!」
そんな声も空しく辺りに響くだけだった。
周一は向かってくる上山のナイフを持っていた側。右手首を自分のサバイバルナイフで切りつけた。
「があああああああああああああああああああ」
ナイフを落とし、その場に転がる上山は痛みに耐え切れず泣き叫ぶ。
「うるせぇ」
バァン!
そんな転がった上山をなんの躊躇いも無く銃で頭を撃ちぬいた。
「うぅ・・・」
それを間近で見てしまったアリアは口元を押さえて顔を逸らす。
「「「「「「うわああああああああああああああああああ」」」」」」
当然、人間様達はこうなるよな。
マスコミ達がパニックを起こし、機材も何もかもを置き忘れて一目散に逃げていった。病院前にマスコミ達が居なくなるまで2分もかからなかった。
「はぁ・・・これでいい」
「おえぇええええ・・・」
「おいおい、大丈夫かよ?」
「ごめ、ちょっ、無理ぃ・・・」
「・・・ったく」
蹲ってるアリアの首根っこを掴む。
「ちょっ!?まっ!?今この体勢はだおぇっ・・・あっ」
何故か暴れなくなったアリアを漂ってくる酸っぱい臭いと共に引っ張りながらそのまま病院内へと戻って行った。




