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「俺はここまでだ」
区域の外に繋がる出口前へと来ると周一は背中に背負っていた華蓮を近場に合った台車に乗せ始めた。
「えっ、どうしてですか?」
「俺がここを出れば想像がつくだろ?」
「・・・あっ」
周一の視線の先に続いて椎名もその先を見る。
そこには救急車だけではなく警察官も大勢、テレビ局やマスコミ。そして野次馬も。その光景で俺が言いたい事が伝わったようだ。
「そういうことだ」
台車の音を立てながら椎名に近付き、華蓮を乗せた台車を椎名の前で止める。
「これならお前でも運べるだろ。あと、これもな」
『なっ!?』
「えっ!?」
周一は自分のSTを外し、椎名に渡そうとした。その行動に2人は驚きを隠せない。
「もう俺には必要ないからな。あとはのんびりここで死ぬのを待つだけの奴にこんな大層なもんあっても仕方ないだろ。こういうのは使える奴が使うべきなんだよ」
そう言って椎名の手にSTを握らせる。だが椎名は首を横に振りながらそれを押し返す。
「ダメ!これはあなたのだから!」
「・・・俺のって、そもそもこれは」
これは桜アリアが俺に残した生きるための手段の一つ。だがもう俺にこの先を生きていくつもりも無い。そもそも、俺にはもうここしか居場所が、行動できる所無いからだ。いくらリンネに化けようと、すぐにばれるだろう。拠点にあった女性服は奴らによって公になっている。それから推理し、その答えに辿り着くものが必ず出て来る。つまりは対策されるという事だ。
『私もその決定には反対です』
そんな事を考えているとブロッサムが声を出した。
「は?何でお前にそんな権利がある?」
『まだ、私との約束。依頼を完遂していませんので、ここで破棄される行為は見過ごせません』
「依頼だと?そんなものもう終わっただろ」
椎名と華蓮は助けた。華蓮は無事とは言えないが命の危機は去っている。文句の無い成果のはずだ。これ以上何を求める気だ?
『・・・覚えていないのですか?』
その後ブロッサムは少しの間の後、再び声を出した。
『【2人を助け終えて、あなたのしたい事が決まったら。それを聞かせてください】』
「・・・ああ。それか、忘れてた。だがそれに了承した覚えはねーぞ?」
『はい。ですが・・・』
『【何も無いって事はさ。したいと思った事何でもしていいんだ。お前だってそうだ。お前がしたいと思った事をすればいい。お前の主も言ってたんだろ?お前の名前はお前が決めればいいって。それと同じだ。誰にそれを止める権利がある?何をしたって結局お前の言った保留って奴が付きまとうんだ。今の名前だって今が一番ってだけなんだろ?だからお前の事はお前が決めろ】』
これは・・・俺の声。という事は録音か?いつの間に。
『あなたは私がしたい事は私が決めればいい。そう言いました』
「・・・そうだな」
『でしたら、私はあなたの口からこれからしたい事を聞きたいです。死ぬこと意外で」
何でだ?・・・もう俺には死ぬしか道は無い。世間のあの反応を見ただろ?そんな世界で俺に何を見つけられると言うんだ?
『・・・因みに、あなたが他にしたい事がなく、死ぬことしかないと言うのでしたら仕方ありません。それを私のしたいことにしようと考えておりましたので、私も共に消えることを華蓮にお願いする事になります』
「なっ!?それはダメ!絶対ダメだからね!ブロッサム!!」
『椎名。私にではなく周一にお願いを推奨します』
「はっ!そっか!ダメだからね!周一さん!!」
『だ、そうですよ。周一。それであなたが今したい事はなんですか?』
2人?に見つめられる周一。椎名の押し返す力が更に増すのを感じる。
「・・・知るか。俺はもう必要ないだろ」
そうだ、必要ない。こいつらにも。世界にも。誰も俺を必要とはしない。
周一は押し付ける椎名の手の力の流れを逸らす。そのままの勢いで椎名は地へと転んだ。
そして俺は拠点へと向かおうとした。
『椎名!!』
「っ!?」
その声に俺の体は勝手に動いた。
椎名が転んだ時、椎名は右手元にあったガラスの破片を拾い、それを自分の喉へと突きたてようとしていた。
だがそれが椎名の喉に刺さる事は無かった。何故ならガラスと喉の間に周一の手が割って入って血を流していたからだ。
「・・・何のつもりだ」
椎名の持っていたガラスを離させ、投げ捨てる。椎名の右手は皮を少し切り。そこから血が少し滲み出てきた程度で済んでいた。
「ほ、ほら。やっぱり周一さんは優しいんだよ。みんな絶対解ってくれるよ。時間はかかるかもだけど。周一さんが1人で出歩いてても大丈夫になるまで私が一緒にいるから!だから一緒に行こう!ねっ?」
ヒリヒリと痛む手を我慢しながら椎名は再度訴えかける。
「誰も俺を認めない世界でお前に縋って惨めに生きろと?」
「・・・いるよ」
「何が?」
「少なくとも今は2人。周一さんが優しい人だってわかってる人が・・・」
「『ここに』」
椎名は右手を自分の胸に、そして差し伸ばした左手の平には銀色の腕輪が。その言葉には優しさがすごく詰まっていた。
ふと思った。なんで俺は死のうとしていた椎名を助けたんだ?ブロッサムの依頼の後だ。助けた後に勝手に死のうが俺には関係ないはずだ。だが俺の体は動いた。何故だ?
思い当たる点が1つだけ頭に過ぎった。それは、名前。俺だけに与えられた名前をこの2人は呼んでくれたからだと気付いた。俺にとっては俺を捨てた親から貰った名前というだけ。世間にとっては忌むべき名前だ。その所為で俺が名前で呼ばれる事は無かった。変態。化物。人殺し。殺人鬼。色々な呼ばれ方をして来た。
でもこの2人は違う。しっかりと俺を見て、そして俺の名を呼んだ。
たったそれだけのこと。それだけのことなのに・・・
「・・・周一、さん?」
気付けば血とは違う雫が頬を流れていた。
『やはり、あなたは人ですよ。周一』
「・・・そんなの、どうだっていい」
突如、何かの糸が切れた様な気がした。
「んーん。私達にとっ・・・ええっ!?」
椎名が何を言おうとしてたか解らないが、俺は急激に襲い掛かってきた眠気によって気を失って倒れた。
「ど、どどどどどうしよっ!?ね、ねぇ!?ブロッサム!!」
急に倒れた俺を見て慌てる椎名。
『とりあえず危険が無い事を伝えて救助を求めては?』
「そ、そうだよねっ!」
その言葉通りに、区域の出口に向かおうとする椎名だったが。
『待ってください!』
「えっ」
『椎名は周一といるべきです。でなければ周一の命の危険があります』
「っ!うん。じゃあお姉ちゃんと一緒に運ぶ!」
そう決めた椎名は台車をもう一台用意し、それに周一を乗せ、痛む手を我慢しながら2台の台車をゆっくりと動かして出口へと向かって行った。




