7-13
「なあ、おい。外の音。あれって銃声じゃないのか?」
「そんな訳無いだろ」
「だ、だって。爆発したような音も、微かに揺れてたりもしてたし・・・」
「ったくもう。だったらあっち行って見てきたら~」
「そ、そうだよな」
ソファーで寛いでいた女がおどおどしていた男に指をさして部屋を出るよう促した。部屋の外の側にはトイレがある。気になるならそこでニュースでもネットでも見てくればいい。と言う意味だろう。おどおどしていた男はすぐにそれを理解して部屋を出た。
「・・・ったくよ~、今は生放送中だぜ?」
「ほんとにね~。そういえばその子は大丈夫なの~?あんたさっき叩いたみたいだったけど?」
頬が赤くなっていた椎名は怯えていた。
周一が警官達と戦闘を開始する少し前、服を着せ替えしたいと発言していたあの男が本当に着せ替えようとして近付き、その間近になった瞬間に椎名がちょうど目を覚ました。椎名は海原優作の手の者によって薬で眠らされていたが、ちょうど効果が切れた。
そして目を覚ました椎名の目に映った最初の顔が少女服を持って興奮した男の顔。恐怖のあまり、すぐさまベットの隅の壁際に縛られた体を無理やり動かして移動してその男を拒絶した。それがその男の感に障ったのか、男は思わず平手を椎名の頬に叩きつけた。
「だって、俺から逃げるこいつが悪い。俺はただ着替えさせてあげようとしただけなのに、なぁっ!!」
「んんっ!?」
男はそういいながら椎名の服を力強く引っ張ると、椎名のワンピースが破れ、下着が露になる。その光景は生放送されているのでネットでは賞賛と非難の嵐だ。
「ほらっ、服がボロボロだね~。着替えないと恥ずかしいよぉ~」
それでも椎名は男を拒絶したいのか、首を横に振る。
「・・・そっか~。この服が嫌なんだね~。じゃあ、さっき見つけた・・・これなんかどうかなぁ?」
「うわっ。マジで・・・」
男はその服を床に放り投げ、衣類が入っていたダンボールの箱の中から別の服を取り出した。
だがその服を見た瞬間に椎名は涙目になりながら首を横に振り続ける。男が見つけたのは女性用の水着。紐ビキニだ。そんなものを男が着させようとしている。まして水着という事は・・・。食事を用意していた女性が引くのも無理は無い。
「そうかそうか。コレがよかったんだね~。じゃあ手伝ってあげるからねぇ~」
「んんっ!?んんっ・・・んん~~~っ!?!!?」
拒絶しようと暴れようとしたが紐ビキニをベットの上に置いた後の男の手にはナイフがあったため声でしか拒絶が出来ない。
だがそれも空しく部屋に響くだけ。周りの、この男の仲間達は誰も止めようとはしてくれない。男の手が椎名のパンツに指を引っ掛けた瞬間
「お届けもので~す」
その手を止め、離させるには十分な声が部屋のドアから聞こえた。
「・・・は?」
この集団のリーダーの男は思わず声が出る。何故なら海原優作からそんな話は聞いていないからだ。
リーダーが海原優作と契約した内容。
1つ目はこの企画の事。自分の娘を誘拐、そしてそれを放送する事。そして最後にドッキリだとバラし、新たな商品紹介へと繋げて宣伝する。コンプライアンス的に怪しいが、ここまで大事になれば人々は注目する。宣伝効果は絶大だろう。勿論、これは企画が終わるまで公表してはいけない。
2つ目。この企画の報酬は500万円。雇用人数の制限は無かったが1人で貰ってもいいし、複数で山分けしてもいい。公表しない事を守れるならそこは自由だと言っていた。
3つ目。この指定された場所で待機すること。日数は最長で1週間。企画が最高潮になったら連絡して指示をするとの事。万が一、事態が悪くなった場合は身の安全の保証と報酬を倍にするとの約束。その場合も連絡がある。
4つ目。当日。ドッキリ企画だとばれてもいいが、あからさま過ぎるのも面白くない。怪我人を出さないなら多少の悪さをしてもいい。ドッキリだとわかれば民衆は演技だったと納得するから。
以上だ。連絡方法までは聞いてはいなかったが、STの番号は契約書に記載した。それさえあればあちらからは連絡する手段が出来る。だから悪い話だとは思わなかった。さっきの銃声も、爆発音も。企画を盛り上げるためのものだとばかり思っていた。俺達の仲間にはそれを伝え、山分けで了承して貰えた。だからこの企画のことを知っている。もし、何か問題があったとしても、さっき外に出たあいつなら何か知って戻ってくるはず。それを聞けばいい。
そう、考えていた・・・
「ね、ねぇ。あれって・・・」
「嘘、でしょ?コレって私達にもドッキリあるの?」
思わず企画の事を漏らしてしまうソファーの女。声がしたドアの下の隙間から血の水溜りがじわりじわりと流れてきていた。
「あの~?ここに届けて欲しいと、海原様からのお荷物ですよ~」
思わず顔を見合わせる4人。
『これは声を変えてまでやる必要があるのですか?』
「っ!」
ドア越しに微かだが聞きなれた声が椎名の耳に届く。
「・・・そうだな」
そして鍵をかけているはずのドアの鍵がガチャという音と共に外される。そしてドアが開くと、ソファーの女のところ目掛けて何かボールのようなモノが投げ込まれた。
「えっ?」
それを思わず体で受け止めた女はべチャッとした質感とそれなりの重さを感じ、よく見てみる。
「・・・いっ、いやああああああああああああっっ!!!?」
すると女は悲鳴をあげてそれを床へと投げ捨て、ソファーから転げ落ちた。女が投げ捨てたもの。それは先程情報収集に外に出たはずの男の生首だった。その光景に思わず誰もが口元を押さえ、椎名は目を逸らすが我慢出来ずに口枷があるまま、吐いて蹲ってしまう。
「おいおいwお前達の仲間だろ?」
周一はゆっくりとドアから姿を現す。
『椎名っ!!』
ブロッサムの声に微かだが反応した椎名。あの状態だが、どうやらそれぐらいの元気はまだあるみたいだ。
「そのまま顔伏せてろ、死体を見たいなら別だが」
「おま」
椎名に向けてそう告げた瞬間。躊躇い無く周一は椎名の側に居た着せ替えたい男の頭を撃ち抜き、次に食事を用意していた女。リーダーの男の頭を撃ち抜いた。
男の出血を椎名が多少浴びてしまったが、椎名は言われた通りなのか。それともまだ体が落ち着いていないのかそのまま蹲ったままだった。
「い・・・いやっ・・・こないで来ないでコナイデ来ないでこないでコナイデ」
あの男が持っていたナイフが元ソファー女の前に転がる。女はそれを手に取り、両手で握って周一に向けて呟く。だが周一はそんな女に怯むことなく銃を片手に徐々に迫る。
「来ないでええええええええっ!!!」
女は叫び、思わずナイフを投げる。だがそれはあっさりと周一のもう片方に持っていたサバイバルナイフに叩き落されてしまう。
「・・・わ、私。関係ない!ただ誘われただっ」
バァン!
「だから何だ?」
もう答えることの無い女にそう告げた周一。その光景はリーダー達のSTによって全て、一部始終生放送されている。つまり
『周一。コメントがすごいことになっています』
「そうか。何て?」
周一はそう聞きながら椎名の汚れた口かせを外す。すると椎名は咳をして全部出し切り、口の中や喉の違和感を和らげた。
『変態だ。死んだって話は嘘か。殺した。ドッキリじゃないのか。何で殺した。死んでる。酷過ぎる。警察何やってんだ。誰でもいいから早くそいつを殺せ。人類の敵は殺せ。殺せ。世界のために殺せ。殺せ殺せ。椎名ちゃんが殺されちゃう。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』
椎名はその命令をした周一の顔を見るとすぐに言わなきゃいけないと思ったのか口を開く。
「や・・ぇて」
だが、まだ体力が戻ってないために上手く声が出せない。
『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』
「やめてっ!!」
力を振り絞った椎名が大声でブロッサムに命令した。
『ころ・・・はい、椎名』
ブロッサムはその命令どおりコメントを読み上げるのを止めた。だが放送されているサイトの画面には未だに[殺せ]の文字が増え続けている。
周一のその顔はあまりにも人と呼べる顔をしていなかった。例えるなら化物。言葉で表現出来るのはそれぐらいしかなかった。
「さて」
椎名の縛っていた手足の紐が解き終る。自由になった椎名は少し痛む手首に手を当てながらその場を離れていく周一の背中をじっと見た。
周一は後処理のためにまずは転がった死体を集め、それらのSTを銃で破壊。それによって放送は切断された。そして部屋の隅に置いてある毛布をその上に被せて椎名の視界に入れないようにした。また吐かれては面倒だからだ。それから物を色々用意した。
「・・・水とタオル。それにボディシートだ。後、着替えはそこの未使用って書かれた箱から自分で探せ」
「えっ・・・」
その顔の持ち主から出たとは思えない言葉。
「なんだお前?そんな格好で姉に会いたいのか?」
そう言われたこの女の顔はまるで「私達を助けてくれるの?」と言っているみたいだった。
『貴方が居るから着替えられないのです』
「・・・面倒くせぇ」
ブロッサムにそう言われた周一は仕方なく部屋を出て行った。
「・・・ねぇ、ブロッサム」
『はい。椎名』
椎名に呼ばれたブロッサムは椎名の前に周一のSTメニュー画面を勝手に表示する。
「あの人は・・・人、なの?」
『世間では彼は人ではなく化物と定義されています』
「あなたもそう思うの?」
『・・・私の見解では見た目は人間。中身は化物です』
「そう・・・なんだ」
『ですが』
「?」
『今はそうあってくれたおかげで椎名を助ける事が出来た事に感謝しかありません。その点においては評価出来ます。そして、彼が救われて欲しいとも考えております』
その答えを聞いた椎名は少し笑った。
「・・・良かった」
『はい?』
「お母さんを信じて良かったんだって」
『解答の意図が理解出来ません。理解出来るように詳細にお願いします』
「そのうち、ブロッサムにもわかるようになるよっ」
『なるのですか?』
「なるのです!・・・さて、待たせちゃ悪いよね」
椎名はベットから降り、血が滲んでいる毛布や床などをなるべく見ないようにしながら身支度を始めた。




