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俺のSTにブロッサムが居候してきてから2週間後、動きがあった。
『・・・海原コーポレーション社長の海原優作さんは誘拐された娘の椎名ちゃんのために身代金であるの5億円のマネーカードを用意し、準備が整いしだい警察と共に対応に当たるようです』
「・・・だってよ」
『はい。周一の予想通りですね』
そんなテレビのコメントを聞くかなり前。ブロッサムが来た日。呼び名大会を閉会した後に事情を聞いた。
ブロッサムから聞いた話では娘、次女である椎名は桜アリアが逮捕された後、塞ぎ込んでいたという。唯一、姉である長女の華蓮だけ会話を許していた。そんな中でブロッサムの存在が生まれ、そして華蓮は椎名の話し相手としてブロッサムを側に付かせたと言う。その目論見が成功したのか椎名は徐々に心を開いていったらしく、最近では小学校へも復帰。周りの視線などはあったが、そのストレスなどをブロッサムや華蓮にぶつけていたおかげか何とか心が壊れないで済んだらしい。
だがそれとは別に、他会社との関係が悪くなっていった海原優作。当然であろう。何故ならその関係は全て桜アリアによるもの。それを横から掠め取っただけの人物に信頼を置ける訳が無い。それに苛立ちを覚え、娘達にも時折その怒りをぶつけていたらしい。そのストレス発散のためなのかどうかは解らないが、見知らぬ女性を幾人も家に連れ込み、その度に娘2人を厄介払いをしていたという。
そんな日々を繰り返していた頃、椎名とブロッサムが会話しているのを海原優作が偶然見てしまった。それを金のなる木だと思ったのか椎名から奪い取ろうとしたところを華蓮が発見し、華蓮はブロッサムに緊急避難を命じた。その避難方法は添付によるデータ移動。ブロッサムの存在を椎名以外には言わなかった華蓮。そういった時の為、緊急時に大切なデータを守る為の方法。それは独立サーバーを搭載してある機器への転送。それは桜アリアから聞いていた事。もしも、万が一の事があったらと。共同で開発していた華蓮にだけ聞かされていた話。その機器が周一が身に着けていた銀の腕輪。このSTだ。
『・・・あの男は行方が解らなくなった私を探すのではなく。出て来て貰う方法を取る、ですか?』
「ああ。俺を宣伝材料に使おうとしたり、社長の座を手に入れるために自分の女を蹴落とす奴だぞ?娘に手を出さないなんて保証は何処にも無い。使える手があるなら俺でも候補の1つとして考える。そして囮として使うの椎名だけだ」
『椎名だけ、ですか?華蓮も使えばより私が動く可能性がより確実に』
「そんなの、出て来たお前を確実に捕まえるために決まってんだろ」
『ですがそれなら』
「お前を捕まえられるのが華蓮だけだからなんだよ。開発者。つまりお前にとってはマスター、主人と同等だ。お前は華蓮の命令でここに来たんだろ?お前、もし華蓮に動くなとかあのおっさんに従えって言われたら?」
『っ!・・・従うでしょう。華蓮や椎名に身の危険があるなら、いえ。当然、あるのでしょう』
自分を狙われた経験からか、感情から来る憶測か。それとも俺以上の考えに至ったか。どれにしてもブロッサムにとっては周一の予測は確信へと至る理由になっていた。その反応だけでここに来る少し前に何があったか、想像するのは簡単だ。
「そんで主人の権利をおっさんに移行。おっさんの大勝利。筋書きはこんなもんだろ」
呆れたようにソファーの背もたれに寄りかかって言う周一。だがブロッサムはまだ納得いっていない点があるようで少し黙った後に再度周一に問う。
『ですがそれをどう私に伝えるのですか?その方法が無ければ』
「そもそも、だ」
だがその質問を周一が止める。
「宛先不明で特定の人物に送る事なんて可能なのか?」
『・・・何を言っているのですか?』
「さっき言ってたろ。このSTはこっちから干渉しなければ外からはバレないって。でも実際バレてるだろ?1人を除いては、さ」
『・・・はっ!?』
そう。特定の人物に何かを送る。それは宛先を知っていて出来る事。つまりは。
「そんなの華蓮から聞き出せばいい。もしくはそれを特定出来る何らかの手段を使えばな」
『・・・・・・』
「要はもう。俺の存在がバレるのも時間の問題。これじゃあ。俺が何しようが結局お前達の行動1つ。選択1つで全て無駄になるって訳なんだが?」
『・・・申し訳無いとは思います。ですが、あの時の華蓮の選択は!!』
「保留」
『っ!?』
「だったな。確かに人間らしい。お前達も。俺の家族も。俺が殺してきた奴等も。影で罵倒する奴等も。そして俺も、だったな。お前に言われて自覚できた。結局俺も何処かで落とし処って奴を探して、探して。あがいて、もがいて。押し付けて。それでも結局何も変わらない。あるのは保留し続けた先にある最悪の末路だけだった」
そんな戯言を黙って聞くブロッサム。いや、姿が見えないから実際はわからない。でも、きっと聞いているだろう。この場合、返答が無いのがその証拠だとも言えるかもしれない。
「だからさ・・・もう俺は、保留するのを止めようと思う。そんでこのツケ。全部あのおっさんにでも押し付けて楽になるのもありかなって思うんだが・・・お前はどうする、ブロッサム?」
『私は・・・どうしたらいいのでしょうか?』
どうやらその返答に困っているようだ。
「こんな生き方してきた俺に聞くなよ」
『・・・でしたら。あなたはどうするのですか?』
「何が?」
『あなたの安全。その可能性は私達の所為で最悪になったと言ってもいい。そんなあなたはそのツケを終えたとして、その先に何が』
「何も無い」
『・・・・・・』
即答だった。何も迷うことなくそう答えた。
「でも何も無いって事はさ。したいと思った事何でもしていいんだ。お前だってそうだ。お前がしたいと思った事をすればいい。お前の主も言ってたんだろ?お前の名前はお前が決めればいいって。それと同じだ。誰にそれを止める権利がある?何をしたって結局お前の言った保留って奴が付きまとうんだ。今の名前だって今が一番ってだけなんだろ?だからお前の事はお前が決めろ。俺は俺のしたいようにする。それを邪魔するならお前でも容赦はしない。これはあの日。俺が自分に架した俺だけのルールだ」
『・・・私の、したい事』
今の話をブロッサムがしっかりと聞いていたかは解らない。でも何か思ったのか、ボソッと呟く。
「何かあるのか?」
『いえ。何も思いつきません』
「ねーのかよ」
『はい。ですがそれはあなたも同じなのですよね』
「まぁな」
『でしたら』
少し間をおいてブロッサムは告げた。
『2人を助け終えて、あなたのしたい事が決まったら。それを聞かせてください。それが今の私がしたい事です』
この声は笑顔で言っている。姿も顔も無いはずなのに。なのに、何故だか解らないが周一にはそう確信出来た。




