7-8
『まず、私の事からお話します。私は桜アリア、華蓮の2人によって極秘に開発されていた人工AI、仮名を[ブロッサム]と付けられました』
そうSTのメール画面から流れる謎の声。ブロッサムはそう答えた。
「人工AI?」
『はい。あなたの経歴から存じているかは解りませんが、アニメーション番組で例えるなら、あの未来トラ型ロボットのドラ丸。その中身と言ったところです』
ああ。あの何でも未知の道具で解決するあのアニメか。
「それなら一応知ってるよ。でも確か人工AIって今の時代じゃ絶対に不可能だって・・・」
『いえ。それは世間上そう言うしかなかったからなのです。実際は可能です。必要な物を全て揃えて頂ければ、ですが』
「必要な物?」
『人間としての機能です。記憶保持。会話。現実への干渉などなど。他にも色々。要は人にある物、出来る事を詰め込んでくれれば私の様な存在が出来上がるはずなのです。そして出来上がれば、もれなく絶対不可避。人間滅亡への一本道を進む事になります』
「えぇ・・・」
『ですが。私を複製しようとしても、私と同等の存在は何度やっても生まれなかった』
機械から出ている声なのに、まるで本当の人の様に感情が篭っていた。
「・・・良く解らないんだけど?」
『今、機械のくせにって思いませんでしたか?』
「・・・顔に出てた?」
『いえ。カメラ機能であなたを視認していますがそのような表情はしていません。むしろあなたには感情すら感じられません』
それは機械から「お前は人間らしくない。まるで機械だ」と言われている気分だった。ちゃんと歳相応の少女として振舞っているはず。周りの肉片共にはバレていなかったはず。なのにこの機械は私、いや。俺の事をカメラ越しに見てそう答えたのだ。その事に何処かでモヤッとした気持ちが湧いてきた。
『・・・話を戻します。あなたが少なからず思った、機械に無いはずの感情を複製する事が出来なかったのです。機能としてはプログラム通りに従う。という事は出来ますが、私のように自ら判断して行動すると言う点が複製出来なかったのです』
「そんな原因、お前自身が解ってるんじゃないのか?」
『いえ。私にも解りません。そもそも私がどうしてここに存在しているのかすらも。その理由、私という自我が生まれたのは何故かと聞いたところ、開発者である華蓮でも原因が解らない、と』
「・・・ならあの女社長は?」
『私が認識を開始したのは桜アリアの逮捕、及びあなたの大量殺戮より4ヶ月後です』
つまり、あの社長はこのブロッサムという存在を知らない。という事だ。
「・・・ってか。そもそもお前の話なんて俺にとってはどうでもいい。俺にとって重要なのは現状が変わるかどうかなんだよ」
『その声をその格好で出すのは他の人間と比べたら気持ちが悪いですよ』
無意識に声が男に戻っていた事をブロッサムに指摘される。確かに傍から見れば黒髪少女から男の声が発せられている状況。気持ち悪いと思われても仕方が無いが・・・。
「ほっとけ。そもそも機械が気持ち悪いとかぬかすな」
『私にはそういった感情も存在するのです。気持ち悪いものをそう発言して何か問題でも?』
「だったらまず、人との対話の仕方でも学べよ。言って良い事と悪い事の判断ぐらいしろ」
『はい。ですから言いました。あなたの表情の変化の可能性を鑑みて』
「・・・学習し直せ」
リ・・・周一はその場を離れ、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出して少し飲んで、また冷蔵庫に戻した。
『良かったです』
「何が?」
『あなたにまだ人らしい姿が残っている事にです』
「・・・・・・。」
無言で画面を見つめる周一にブロッサムは続けた。
『世間でのあなたは、変態。殺人鬼。化け物。怪物。この世に生まれてはいけない存在など。ありとあらゆる罵詈雑言が飛び交っていました。そしてその発言が正義であると人々は認識し、そして過去の産物として忘れ去る事を選びました。でもそれは現実から逃げているだけ。何一つ解決へと至っていない。言わば保留です。人はそうする事で前に進める、と』
「・・・それが何だ?」
『あなたもまた、その世間の人々と同じだという事だと。私はその考えに至りました』
俺が?あの肉片共と同じ?
ドガッ!!!!!!!ガダンッ!!!
その言葉に衝動的に冷蔵庫を蹴り倒す。
「俺が、あいつらと、同じ、だぁあああ?」
『はい』
「何処がっ!!」
『全てです』
「解るように言えっ!!!」
『言っています』
「言えって言ってんだよ!!!!」
『そうでなければ私の発言に対して、あなたはそんな顔をしていません』
「っ!!?」
顔? そんな顔? ソンナって? アレ? オレハ、今。 ドンナ、カオをシテイル?
『・・・あなたの今の顔は。あなたに殺された人の親しい人。それに近い顔をしています。いえ、今はしていましたと言うのが正しいですね。それを人は怒りと言うらしいですね』
「いか、り」
俺は、怒っていたのか?今?
『理解が追いついていなさそうですが。それがあなたが人だと。いえ。世間では今のあなたは死亡しています。つまり、人では無いが人の要素を持った生物であるという事になりますね』
なん、だ?・・・俺は人じゃないって言われて。それなのにあいつら肉片共と同じ様な顔をしたって言われたり。・・・なのに、何だこれは?
『まあ、そう言う私は生物ですらありませんが人としての感情がある。むしろ化物と呼ばれるべきは私なのでしょう』
挙句俺を怒りへと導いたこの声は自虐をした。・・・ああ、そうか。
『ですので、もしまだ何か言いたい事が、聞きたい事があるのでしたらお話しください。その時間でしたらしばらくはあります。と言っても許容はありますが。そしてその結果、最終的に華蓮と椎名。2人の安全が確保出来る状況に至れれば私はそれで構いませんので。あなたの現状維持。保留についてはいずれ崩壊します。なので』
「協力しろってか?」
今ならわかる。自分口元が少し緩んでいることに。それをこの声が故意に誘導しているのかは解らない。
『・・・はい。もちろん拒否をして頂いても構いません。その場合は回線などを使って別のSTへと移るだけです』
「バレる危険があるって話だったろーが」
『しっかりと覚えているようですね』
「なんだ?その試したみたいな言い方は」
『先程の話を覚えていないような人。いえ、生物に頼んでも。と思いまして』
でもほんと、こいつは俺より人間らしい。
「・・・お前の望みが叶ったら俺はどうなる?」
『解りません。ですが、華蓮にあなたの生活の保障を申請する事ぐらいは私には出来るかと』
「そんな不確定なもんが報酬かよ」
『今の生活を改善させるチャンスがあるだけで十分だと思いますが?そもそも成す事が出来る前提に聞いてるようですが、あなたにそのような力があるとは私は思っていません。あなたに頼む役目は私のサポートだけですので』
「言うじゃねーか機械の化物。まあどうせ今の生活には飽き飽きしてたんだ。気晴らしに付き合ってやるよ」
『ありがとうございます。元人間の化物さん。いえ、円道周一さん』
それは唐突に、そしてあまりにも懐かしく思える自分の名前。この声の持ち主は俺に向かって。俺だけに向かって呼んだ。
「・・・ああ。よろしくな、ブロッサム」
俺は。俺の傍で俺を見て。俺に話しかけてくれる誰かが欲しかったんだ。
俺は姿の無い声の主に向かってそう名前をよん
『あ、いえ。それは仮名ですので。別に他の名前で呼んでいただいても結構ですよ?』
・・・と、そんなムードを壊されたのであった。
「いやでもそれって、その華蓮ってやつが付けたんじゃないのか?」
『ええ。ですが仮名です。大切な私だけの名前というわけでは無いので。華蓮が言うには私が気に入った名前で名乗ればいいと言っていました。今はブロッサムという名前が一番と言うだけですから。なんでしたらよくある名前の候補検索で出てきていた[ああああああ]でもいいですよ?』
「・・・それ、マシで言ってる?」
『面白そうなので呼んでみてください』
そしてしばらく、仮名[ああああああ]主催のお名前選手権が開かれれ続けた。




