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最近では周一のいる閉鎖区域には怖いもの見たさに来る馬鹿やあの謎の美少女幽霊を見たさに来る馬鹿が来る程度だった。勿論、姿を見たり見られたりした者はもれなく今までの者達と同じ対応をしていた。時々街で閉鎖区域に少女の幽霊が出るとの噂が聞こえてきた時はもしかしてもう無理かなと思ったこともあった。だが、真相を確かめようとするものはおらず、噂止まりだったためにこっちも保留出来ることになった。
だがそんなある日。
「リンネちゃん!!」
「・・・・・・。はい?何ですか、土田さん?」
買い物後のエコバッグ片手に閉鎖区域に向かっての薄暗い路地に入ろうとしたところで後ろから突然声をかけられ、ゆっくりと振り返る。そこにはスーパーでよく献立を聞いてくる土田のおばさんが両手にエコバッグをぶら下げながら疑いの目を向けて立っていた。
「・・・なんで、いつもそこを通るの?」
「なんで、って。クスッ。だってこっちが近道なんですもん。近い方を通るのは当たり前ですよっ」
「近道って・・・」
「はい。私、ここの反対側から来ているのでここを通って行った方が安くて早いですから」
「・・・だからって」
そう言いながら土田さんはエコバッグを地面に置き、STを起動させて画面を操作し、とある画像を私に見せ付けてきた。
「こんな危ない所を通る必要はないでしょっ!」
そう。それはあのネットに上がっていた画像。私がこの閉鎖区域の中を歩いている姿。
「・・・それは?」
「ネットに流れていたわ。これを見た時は私も疑ったわよ。これがリンネちゃんな訳が無いって。でも心配になって来て見れば・・・」
つまり、噂の確認のためにつけて来た。だがそれは本当でもあり、嘘でもある。そう、だったら何故。
1回目で聞いて来なかった?
何であのドアが閉まるまで見ていた?
ナンドモ、ナンドモ・・・ナンドモ。
ナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモナンドモ
「・・・とにかく、あの変態がまだ生きてるかも知れないって場所を通るあなたが心配でっ!」
何かゴチャゴチャ言ってたみたいだけど。土田さん。あなたも結局、あの肉片共と同じなんですね。
「・・・そうですか」
「良かった、分かってくれ」
「土田さん」
その呼びかけに土田の表情が安堵から恐怖へと急変した。
「私は、私だけが彼にここに入る事を許されたんです。プライバシーに許可無く踏み込みすぎると、土田さんの命が危ないですよ?」
「あ、えっ・・・」
その顔は殺意に満ちていた。まるでこれ以上踏み込めば、例え誰かに言ったとしても。
殺すぞ、と。いや、このおばさんにとっては殺されるよ、か。
「ふうっ・・・だからっ。ここに来る事はおススメしませんよっ!」
と、造り笑顔で空いてる手で人指し指を立てて警告した。
「では、失礼しますっ」
そう言って軽くお辞儀をする。そして何も出来ずにただ立ち尽くす土田を背にリンネはあの中へと戻って行った。
きっとこれで土田さんは、私に話しかけることを止める。関わろうともしないだろう。でもそれは土田さんにとっては良い事なはずだ。だって。死ぬよりはマシでしょ?
寝床へと辿り着き、いつもの様にソファーへと腰をかけ、STを起動する。
『それがあなたの選択なのですか?』
と、突如何処からか声がする。その声にすかさず太股に巻きつけて隠していたナイフに手をかける。だが周囲を警戒しても誰かがいる気配が無い。そもそも、この寝床に入られていたならこの部屋のドアに挟んで置いた髪の毛が床に落ちているか無くなっている筈。それに気付けないほど愚かではない。
『警戒しなくてもいいです』
また、先程の声。よくよく聞けば何処となく機械的な音声だ。だが今度は出元を聞き逃さなかった。そう、それは目の前。STのウィンドウ画面からだった。
『まずは、送られた通知を見てください。でなければ私についての説明が出来ません』
画面には異常が無い。ただのアイコンが並ぶメニュー画面。だが違う所が1点だけ。それはこの声が言っていた通り、情報交換のために用いられる連絡アプリのアイコンに新着通知の印が付いていた。
警戒をしながらもそのアプリアイコンに触れる。すると、桜華蓮の欄に1という数字の新着通知があった。STを手にしてからの初めての誰かからのメッセージ。それには疑心と不安の中に少しだけ好奇心もあるような気がした。
「・・・ワナ?」
勿論、そんな気持ちの中で謎の声の言う通りに動く訳がない。リンネは確認するようにその謎の声に聞こえるか解らないが聞いてみる。
『大丈夫です。華蓮が言うにはこのSTには専用のサーバーが搭載されており、外部へと繋がる手段はこのSTからのアクセスのみです』
つまり、謎の声の言い分としてはこちらから何かをしなければ外部には漏れないという事。今までテレビなどのアプリや買い物などで使ってきたが、それついてはどうなのだろう?
「それって、私が何かしたらバレるって事?」
『目立つ行動をすればそうなります。ですが一般が行っている事を同じように行動していれば問題ありません。あなたは今までに特異的な行動をなさって来たのですか?』
それは・・・しているとすればあのおばさん。土田の行動に至った原因ぐらいだ。アレだけは言い訳の出来ない目立ち過ぎた出来事だ。
「さっきの。あのおばさんの見せてきた画像」
『アレですか。私も先程の会話は聞いていましたが上手く退けたと思います。おそらくあの人はもうあなたに接触を試みようとは思わないでしょう。ネットに情報を流す事はあるかもしれませんがその程度ならなら問題無いと思います。あの画像の件で華蓮も言っていました。これなら噂程度で終わると。むしろ良くやっていると褒めていたぐらいです』
「褒める?」
『はい。男性でありながら自分の身分を隠すために女装をし、声や仕草までほぼ年頃の女の子そのものだと。ただあんな女の子、漫画やアニメの世界でしか居ないとも言っておりましたが』
「・・・見ていたの?」
『あの画像が噂になった頃に。買い物客を装って何度か確認したようです』
確かに、時々あのおばさんの他にも監視していたのが居た。だが、あのおばさんよりは上手いのは確かだ。その監視していた中に紛れればその連中と同類だと判断されるからだ。
「・・・話を戻すけど、私があなた従う理由があるの?」
『ありません。そもそも通知は1件と表示されていますが本来は2件です』
ん?どういうことだ?
『私をここに送るためのフォルダーとそれについての華蓮のメッセージ。私がこのSTに入った時点でこのSTの制御は私の管理下になりました。なので操作されなくても勝手にフォルダーから出る事も可能です』
「っ!?何を勝手な」
『それについては謝ります。ですがこちらの話も聞いて頂きたいのです。何故、こういった事態になったのかを』
その声は真実を伝えようと必死になっているのが解るぐらいだった。
「・・・わかった」
そう言って、桜華蓮の項目を触
『ありがとうございます。では開きますね』
勝手に開かれた。ああそうだった。今このST。この声が管理してるんだった。もう私の意志とか関係ないじゃん。
ジト目になりつつもそのメッセージに目を通した。
【お願い。この子を私のお父さんから守って】
それは何とも身勝手な1文だけだった。




