7-2
『・・・はい。アイリス達に話したのはここまで。それじゃ、続きはますたーがお願いね~』
風の神殿で話した内容を話し終えたイリスは俺の頭の上でミニイリスちゃんモードになってくつろぎ始めた。
「そのまま続けてもいいんだぞ?」
『疲れるもん』
「へいへい」
言葉では拒否しているが、参考データはちゃんと出してくれるのはわかっているので文句は言わない。
「んじゃ、そっから・・・そうだな。シーナのところぐらいか?」
『その少し先ぐらいかな。ますたーの立ち位置が決まったぐらいのとこ』
「わかった。んじゃ。続けるぞ」
一応、周りに確認を取る周一。それにみなが頷いて応じた。その表情はとても深刻な顔。きっとこの後良い事が起こるのだろうと密かに願っているようだ。だが俺にとってはもうただの過去でしかない。そんな顔をされたところで過去の出来事が優しくなるわけではない。リアルってのはそういうもんなんだよ。
いつもなら。変わらない時間を過ごす為に用意されたただの牢獄。今はすっかり変わ・・・いや、たいして変わりは無い。違いと言えば先程まで五月蝿かった肉片が床に転がっているだけだ。
ただ・・・その程度の変化だ。
(・・・はっ。今まであのドアが開くのを、この部屋から出られるのを。アレだけ願っていたのに。こんな簡単に出られるなら最初っからやればよかったな)
新年の挨拶を終えた周一はピチャピチャと鳴る足跡を気にもせず部屋の外へ出る。するとそこにはテレビ局が用意したであろう機材がたくさん壁際に置かれていた。ここに来た時とは違う光景。でもこの廊下は覚えている。あの時来た道を辿って歩きながらふと思った。
(・・・早く、外の空気が吸いてえな)
周一にとって一番にしたいと思ったことがそれだった。あの部屋と大して違いなど無いかも知れない。換気出来る環境は整っていた。空気の循環については問題なかった。だからこそあの部屋と比べてみようと思った。ただ部屋を出た時点でかなりの違いがあった。部屋の中ではあの携帯食の臭い?それとも俺の汗や体臭?どれが染み付いていたのか。あるいは全部か。長く、とても長くあの部屋に居続けた周一には判断できなかった。でも今はわかる。あの鼻にツンと来る香水の臭いとか。今臭っている肉片から滲み出た鉄の臭いとか。
(ここ。4階だったんだ)
エレベーター前に来た周一は少し見上げると2つのエレベーターの壁の間に4と書かれた数字があった。そして右のエレベーターの現在の階層表示が2から1へと切り替わった。さっき逃げていく足音も聞こえていたのできっとそれだろうと予想をつけた。
(・・・だったら、これを囮に使うか)
そう思い。周一は左エレベーターの下へのボタンに触れる。そしてしばらく待ち、エレベーターのドアが開いた。だが、それには乗らずに中を覗き込み、1のボタンに触れてからエレベーターを離れて、近くにある階段へと向かって行った。
パァン!!
(・・・やっぱりか)
突如銃声が鳴り響く。その音に周一の予測が確信に変わった。
駆け足で下りた所で、囮であるエレベーターの速度には敵わない。そもそも今の体でまともに走れるかどうかも解らない。間に合わなければ意味が無いからただ無意味な行動をしただけに思える。だからこそ周一は階段を下りるのではなく上り、5階の手すりの影に身を潜めた。明かりが少ないからきっと見つかりにくいはずだ。
その銃声からしばらくすると数人の足音が階段通路の下から聞こえ始める。ゆっくりと上っているようだが静寂の中で音を殺そうとしても靴の音や服などの擦れる音は消しきれない。
さて、ゲームならここで選択だ。
1.このままやり過ごして1階へ向かうチャンスを探る。
2.上の階層を先に探索し、道具か何かで罠など作って時間を稼ぐ。
3.慎重に機会を窺って1人ずつ殺していく。
4.強行突破。
候補は幾つか出たが、周一は迷わずそれを選択した。
(・・・殺すか)
どうせ1階には上ってくる奴等と同じのが複数居るはずだ。なら策が無ければ向かっても死ぬだけだ。
左手にライト。右手に拳銃を構えた警官のような格好をした人間が4階付近まで4人上がってきた。だが偵察なのか4人だけだった。
(アレは、あると便利そうだな)
周一は警官から拳銃を奪う事に決めた。武器は、手札は多いに越した事は無い。だが弾に限りがある物。撃たせずにしとめるのが理想的だ。弾を温存したいという気持ちもあるが、先程の発砲音。アレだけの音が1発でも出れば増援が来るだろう。
警戒しながら4階フロアへと入って行った警官達。道は二手に分かれているため、警官達も2人に分かれて行った。
(殺すのが楽になったな)
そう思い、周一はあの部屋に向かって行ったであろう2人に気付かれないよう尾行する事にする。もちろん警官達も馬鹿ではない。通路では前方と後方、両方警戒して当然だ。だから周一は確認していた。あの部屋に向かっていた側とその反対側。足音を。歩幅と距離を。何度かどちらも足を止める間があったがその時が来た。
「・・・の跡があったし、やっぱり上の階じゃないのか?」
そんな絶好のチャンスの時、あの部屋側では無いチームが階段付近に戻って来た。
(・・・危なかった。って奴等、何の跡って言った?)
すぐさま5階まで戻り警戒するが、それよりも気になるワードがあった。4階付近をそっと覗くと5階へ向かう階段の1・2段目を膝を軽く曲げながらライトで照らしていた。
「やっぱ下じゃなくて上に向かってるな。途中で乾いて消えてるが」
「かもしれないな。・・・こちら現在4階階段前。はがぁっ!!?・・・」
「どうしがぁ・・・ぁ・・ぇ」
警官2人の声が擦れ、そして体が床に崩れ落ちると階段周りが血塗れになっていった。雑音が響く中、周一はゆっくりと立ち上がって通路を見る。
(・・・そういうことか)
上から飛び掛り2人の首をカッターナイフで切った周一。何故バレたか。それはあまりにも初歩的なミス。体に付いていた血が滴り落ちた跡だった。今では階段にその痕跡は隠されて無いが、階段から見える4階の通路にはまだ、その痕跡が残っていた。
「お、おい。さっき、あんなの・・あったか?」
「い、いや・・・」
駆け足の足音と共にさっきの2人が近くまで戻ってきたようだ。そしてどうやら階段入口に先程の血が通路にはみ出ていたみたいだ。通路から見たら新たな血痕を発見した事になるだろう。
「ま、まさかっ!?」
ゆっくりと近付いてくる足音。警戒しながらこちらに向かってるようだ。だったら簡単じゃないか。
階段入口。その死角、非常用扉に身を潜める。その理由は簡単。通路からではこの位置は発見できないから。そして痕跡もさっき出来た水溜りのおかげで意味を成さない。通路側から位置を特定するには数秒のタイムラグが生まれる。それにあの警官達が最初に目を向けるのは
「なっ!おいっ!!だぁ・・・がはっ!?」
「ぐふっ!?」
倒れている同じ仲間なのだから。
(これで少しは楽に)
バァン!!
耳に響く銃声音。狭いところで発砲したらなおさらだ。耳を無意識に手で塞ぎながら音源を確認する。
(・・・やっちまったな)
どうやら首を切った警官の1人の拳銃が殺される瞬間の弾みで引き金を引いたらしい。弾痕は壁にあったが問題はそこじゃない。
「・・おいっ!どう・したっ!!応答しろっ!!」
警官についているそれぞれの無線から同じ男の声が響く。
それはこのビルの脱出を難しくさせてしまった知らせでもあった。




