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アイリスのおかげか、関所の門を簡単にくぐって中に入る事が出来た。内側の光景はまさにファンタジーだった。そこら中に木々と同化した中華街の様な建造物の数々。水路には紅い橋が架けられており、島の中央辺りにある大きな大樹はすごく立派に思えるほどの幻想的とも呼べる光景だった。だが、すぐに国王との面談や街の徘徊が出来ると言う訳ではなかった。
ギーベストの案内のもと、内側に入ってすぐに門の側にある詰所のような場所に連れて行かれた。奥に案内された壁に木の樹皮が見えている待合室は和式と言った感じで畳に長テーブルと複数の座布団。ギーベストがその樹皮に手で触れた後、樹皮を背にして座布団に座る。長テーブルを挟み、続くようにアイリス達も座る。周一は邪魔にならない位置に寝転がらされた。その後すぐに、詰所に勤めている事務役の耳長美女が湯呑に入れたお茶をギーベストとアイリスの前にだけ置いてお辞儀をして部屋を去った。
「・・・ふぅ。さて、以前着た時は衣服のサイズ調整でしたね。今回はどういったご用件でしょうか?」
入れてもらったお茶を少し飲み、事務的な対応をする小さき門番のギーベスト。
「あ、はい。私と・・・」
と、言いかけたところで行き詰まり、確認するかのようにクーラを見るアイリス。どうやらクーラの事をどう話したらいいか悩んでしまったようだ。
「あの。発言をしてもよろしいですか?」
それに応えるかのように軽く手を挙げてからそう発言したクーラ。
「・・・ああ。今のでアイリス様で無く、貴女方が理由だと解ったからな」
クーラはギーベストにアイリスとの対応差があると表情と声のトーンからすぐに察した。
「ですが、内容によってはアイリス様以外は即時退去を強行させて頂くのも、人間なら。解っていると思うが?」
「っ!?えっ、あのっ、その・・・」
「なんだ?人間はアイリス様のようにまともに話も出来ないのか?」
人間なら。そう強調されて気圧されたクーラは言葉の選択にパニックを起こしてしまう。だがそんな空気の中で体を起こした男が発言した。
「んじゃっ。・・・俺から先に言うわ。俺は周一・円道。俺の目的はエルフとドワーフ。お前達と仲良くなりに来ました。以上っ」
「・・・はあっ!?」
突如起き上がった男のそんな理解不能な目的に虚を突かれた声を出してしまうギーベスト。
((そのまま言ったっ!!?))
自分の目的を本当に意図も隠さずギーベストに伝えた周一。それには少女2人ですら驚きの表情が出てしまう。
「・・・おい。人間の男。お前、自分の言ってることが解っているのか?」
「ああ、もちろん。なんならもう一度言おうか?俺はお前達と仲良くなりに来た。俺が此処に来た目的はそれだけだ」
「おい。こっちももう一度言おうか?言ってることが解っているのか?」
((あ~っ!もうっどうしてくれるのっ!!?))
そんな険悪な顔つきになるギーベストに焦る少女達。
「ああ。お前達が人間を嫌ってることも。その理由についても簡単にだが知っている」
「・・・だったら」
「だから人間達としてじゃなく、俺個人。俺だけが仲良くなりに来た」
「「「・・・は?」」」
またも理解不能な発言に思考が止まるギーベストと少女2人。
「は?じゃねーよ。そもそも、というかもしかしなくても俺が仲良くしに来た真の狙いが人間共とのよりを戻すためとか思ってたのか?」
「誰だって普通はそう思うだろうがっ」
「はぁ・・・。あのなぁ。なんで俺がこの世界の人間共のためにそんなことしなきゃいけねーんだ?」
「この世界?・・・もしかしてお前。異世界人、ライネスの勇者か?」
エレメンタニアの人間なら[この]と付ける必要はない。そこに気付いたギーベストは予想を周一に問う。
「異世界人ではあるが勇者じゃないな。そもそも俺はお前達が考える勇者になれる器ですらない。だが、クーラ。昨日のあいつ・・・アルトだったか?あいつがした事が勇者の行動だって言うなら、俺は俺のいた世界では紛れも無い勇者って事になるが、どうなんだ?」
「そっ、そんな事あるわけ無いじゃないですかっ!!?あんなのが勇者であってなるものですかっ!」
クーラは思わずテーブルを両手で叩く。
「だってよ、アイリス。やっぱ俺はお前の勇者には相応しくない」
「「えっ」」
「・・・そいつはどういう意味だ?」
話を聞いていたギーベストが理由を求めた。
「だって俺、あいつよりも。ガキの頃に1万人は殺してんだ」
その発言に驚愕する一同。
『正確には16937人だね。っと言っても分かってる記録でだけどね』
それを補足するかのようにいつの間にか現れていたミニイリスちゃんモードのイリスが周一の頭の上で伝える。
「正確な数字とかどーでも良いけどな」
『む~っ!私的には役職上、データは正確に伝えたいんだよっ。ぷんっ!ぷんっ!』
だからって髪の毛を毟るのは止めなさい。立体映像だから害は無いけど。
「・・・それって」
「ああ。あの話の続きの末路。だから俺は俺のいた世界で、人間の姿をしているが何モノでもない存在になった。さて、それを聞いたお前達はどう思ったのかな?」
アイリスの問いにそう答えた周一。
その顔はまるでそれに対する反応や答えを楽しんで待っているかのような顔をしている。クーラは民達がアルトに対してした行為が頭に過ぎる。もし、周一の言っている事が本当ならば民達のように復讐心が芽生えてもおかしくない。むしろそれが正当な行為として扱われる事もありえる。いや、本当だからこそ。周一はそうなる事を知っていて民達にそうさせたのかもしれない。
そんな中、初めに答えたのはギーベストだった。
「・・・まず、いいか?そっちの人間。クーラって呼ばれていたが、まさかとは思うがブリズの女王、クーラ・ブリズか?」
そう。ギーベストにはまだクーラの事については伝えていなかったが女王ともなれば名前を聞いただけで思い当たるだろう。
「・・・はい。そうです」
「・・・そうか。一応だが謝っておく。すまない。ただの人間に対しては同じ対応をしていたのでね」
「いいえ。構いません。そちらの事情を知った上で来ましたので。そう対応されるのも覚悟していました」
「そうか・・・次だが。風の女王が訳ありでこのフォレフォスに来た理由を聞いてもいいか?貴女が今此処にいる事からブリズに何かがあった事が察せるが・・・」
周一の話からズレ始める。いや、ギーベストが意図してズラしているのかもしれない。ギーベストから見た周一の印象は本人の発言から大量殺人鬼でしかない。警戒しながら重要な話だけをして、きっと終わり次第俺だけは必ず追い出すつもりだろう。
「はい。簡潔に・・・と言っても昨日のほんの数時間の出来事ですが。昨夜、ライネスの勇者、アルトによる襲撃を受け、死者200名を超える大災害が起きました」
「なんだと・・・」
「なので、その復興のための助力を求めに私自らお願いをしに来ました」
そう伝えたクーラにギーベストは少し考え込む。
「・・・復興。つまり被害は我々の力が必要な程のものなのだな」
「はい。そちらの事情は承知の上ですが、こちらとしても助力の交渉が成しえなければ民達の生活が・・・」
「そうか・・・」
【ギーベスト。その者達を屋敷に通せ】
「陛下!?」
突如、ギーベストの後ろから声が聞こえた。その声に驚いたギーベストは振り返る。その振り返った先はあの壁にあった樹皮だ。どうやらそこから声が出ているらしい。
「あっ、この声ってディーテ様?それって声も出せるんだね。知らなかったよ」
【うむ。・・・しかしアイリス。先程そこにいる男の話から、おぬしはそこの男を勇者にしようとしているのか?】
「うっ。・・・うん。私はそのつもりなんだけどね・・・というか良く分かったね」
周一を見てから気まずそうにそう答えたアイリス。
【だてに長くは生きておらん。その件、詳しく聞かせてもらうぞ】
「そ、それって長くなるのかな?」
ちょっと嫌そうな顔をするアイリス。
【おぬし次第だな】
「うわぁ・・・」
【それと風の女王よ】
「はっ、はいっ!」
【そう堅い声を出すな。おぬしが来た理由も理解出来た。だがそれは顔を見せずに話す内容でもあるまい】
「あっ。えっと・・・」
「ですが陛下」
【なんだギーベスト。この件。おぬしが対処してくれるのか?】
「っ!?い、いえ。私にはどうする力もございません・・・」
樹皮に向かって膝を突いているギーベスト。これはなんともシュールな光景だ。
【ならば命じた通りにせよ。警備の者には伝えておく。言えば通れるだろう】
「御意」
返す言葉も無くギーベストは頭を下げる。
【それと男。確かシューイチとか言ったな】
「ああ」
【あとその側仕えも】
『側仕えっ!?』
イリスはその呼び方に納得がいっていない様子。まあ仕方が無い。たぶん察するに樹皮から出てる声の主。ディーテという存在。ギーベストが陛下と呼ぶからには国王なのだろう。そして声からして女性だ。
彼女は俺達がこの詰所に入ってからの話を何らかの手段でずっと聞いていたのだろう。だかその間にイリスの名前は出ていない。名前で呼ばれなかったのは仕方が無い事だ。
【お前達には監視を就けての同行を許可する】
「監視?拒否権は無いよな」
【殺人鬼を自由にうろつかせる程、私は愚かではない】
「そりゃな」
【それでも断るならすぐに国を出てもらう。たとえアイリスの勇者候補だとしてもだ】
国王として対応。しかも殺人鬼と分かっていてのだ。かなり譲歩してくれているのが察せる。と言ってもアイリスとクーラがお供をしていたおかげでもあるだろう。周一1人では確実に門番に追い返されていたはずだ。
「ああ。願ってもない。そっから俺に対する好感度を上げてけばいいしな」
だがそれはどう考えても高難易度すぎるシュミレーションゲームである。
【・・・変わっておるな。普通は嫌がり、何かしらの条件を付けて来るものだぞ?】
「いやいや。それやったら俺らには裏あるぞって言ってるようなもんだろ?」
『そうだよっ!』
【・・・ほう】
『それにますたーだったら街中を裸で歩けと言われても余裕でこなせる男なんだからね!』
「くっ!仕方が無いっ。信頼を得るためならば脱ぐしかっ!」
周一が服に手をかけようとしたところ
「それはやめて欲しいかな」
「それはやめて下さい」
「「変態さん」」
その重圧に動きを止めざる終えなかった周一。
少女達の顔を見たギーベストは恐怖を感じて冷や汗をかき、樹皮からは笑い声が聞こえた。




